ふと目を覚ました時、布団の感触があった。

あぁ、やっぱり夢だったのか―――なんてぼんやり思って。

いったいどの世界だったんだろ、と笑みがもれる。

でもそれは―――。




Scene.1  夢と現実での出会い。




天井が見えたときに、

「今、何時だろ……」

そうつぶやいてしまったのは、ほとんど無意識だった。
だから、返事が返ってくることなんてこれっぽちも期待してなかったし、むしろそれを承知で近くにあるはずの携帯を手にしようと右手をのばしかけた。

「もうすぐお昼ですよ」

と返事が返ってきたのだから、たまげた。

しかも、おかんでもおとんでもない声だったから。

「……え!?」

反射神経を最大限に生かして飛び起き、周りを見渡した。
目に入ってきたのは、カーテンを開けようとしている見慣れない人。
…………否、ある意味で、よぉぉぉぉっく見慣れた人。
ごしごし、と目をこする。

…………カノン!?

全身全霊を込めて名前を叫びたいのを、ビールを一気するぐらいの勢いで止める。
息を落ち着かせてから、ゆっくりと目の前にいる人を見直した。

緑色の髪。
女の子とも思えるほどの可愛い顔。

カノンじゃん!!!(あわわわわ)

カノンがゆっくりとこちらへ近づいてきた。

「大丈夫ですか?体痛くないですか?」

カノンの顔を凝視しながらぼんやりと答える。

「え、あ……ちょっと、痛い、です……」

「そうですよね……一応処置はさせてもらったんですけど、しばらく安静にしていたほうがいいと思います」

「あ、はい……えと」

あ、と呟いてカノンがにこっと(!!!)笑った。

「……僕、カノンっていいます。お姉さん、昨日北スラムで倒れてたみたいで、この家に運ばれてきたんですよ」

「運ばれた!?……あ、すみません、ご迷惑を……」

「気にしないでください。えっと……」

「あ、私、って言います。……それで、あのぅ………ここはどこでしょう?できれば、世界の名前から言っていただけると……(滝汗)」

「世界?……あぁ、もしかして……えーっとですね、ここはリィンバウムのサイジェントという街です」

NO――――――!!!!

えらいこっちゃ!!
まさかと思っていたことがぁぁぁぁ!!
っていうか、この家って、もしかして………

「そしてここは北スラム」

「あ、は、はい……この家は……つれてきてくださった、方は……」」

「あぁ……つれて帰ってきた主は、まだ寝てます。僕の兄さんなんです」

主って、主って………。
バノッサ!?美白帝王バノッサか!?
もう、そうに違いない!!

「ちょっと待っててくださいね。今、スープ温めてくるんで。足にもケガしてたから、動かないほうがいいですよ」

ニッコリ笑って、ドアを閉められる。
……………!!
来ちゃったよ………。
来ちゃったよ、リィンバウム!!!
あたふたと暴れるが、足の裏の痛さに悶絶。

「いてて………っ」

でも逆に足の痛さに現実に戻った。

なんでよ!?なんでいる、私!!
あれは、ゲームでの話でしょ!?そりゃ、何度も何度もやっては、最後で泣いてたけどさ!!
それくらい思い入れの深いゲームだけど!!現実逃避で、ゲームの中に入りたいなーとか思ったけど!!

まさか、ホントに入るとは思うわけないじゃん!!!!!(慌)

「なんで…………っ!?」
百歩譲ってここにいることは認める。
でも、どうやったら帰れるんだ!?

そこでピタリと思考が停止した。

「……もしかして、帰れないのか、私………?誓約者でもないし……」

永久永遠にここの土地!?

………………

ちょっと、いいかなぁ、なんて思ったりもしないけど。
それはまだあまり実感がないし長いこといるわけじゃないから、そう思えるだけだろうし(やけに冷静)
なにより………現実に住むところもないし。
お金持ってないし。

「はぁぁ〜…………」

思わず出てくるのは、深い深いため息。

「開けていいですか?」

カノンの声にも反応ができなかった。

さん?」

「(名前呼ばれたよ!)……あっ、ごめん!!」

律儀にも返事を待っていてくれたカノンは、私の声とともに入ってきてくれる。
その手にはお盆と湯気の立っているスープが。

「はい、どうぞ」

可愛いカノンの笑顔にノックアウト!!!
そして、なんともいえない、いい香りを漂わせているスープにダブルパンチを受けた。
街にたどり着くまで歩きっぱなしでおなかも減っていたし!!!

「いっただっきま〜す♪」

スプーン(木でできてた)を手にとって、一口。

「お、おいし〜〜〜〜〜!!」

「良かった」

カノンはにこにこと私が食べる様子を眺めている。
ちょっと恥ずかしいような気もするが、空腹とおいしさに耐え切れなかったので、ばくばくと食べた。

「カノンくん、料理上手なんだねぇ〜。ホントおいしいや」

「カノンでいいですよ。さん」

!!!!!!
可愛すぎる!!!
あ〜、抱きしめて頭ぐりぐりしたい!!←やめとけ

カノンの手作りスープに感激しながら(味はもちろん、カノンの手作り!ってところにも感激!)も、食べる手は止まらない。
しばらくにこにこ私を見ていたカノンが、不意に口を開いた。

「あのー……さん、聞いてもいいですか?」

「?うん?何を?」

「どうしてさんは倒れてたんですか?」

「へ?………あ〜……えっと、そのぅ………」

自分でもいまいち状況は把握しきれていない。
でも、周りに散らばっていた石。
自分が現れた状況。
少し考えれば、結論もおのずと導かれる。

「……召喚された、んだと思う」

「召喚された?………じゃあ、召喚師は……」

「いなかった……」

「………………『はぐれ』………あぁ、『はぐれ』っていうのは、主人を失った召喚獣のことなんですが………わかりますか?」

「あ、うん、なんとなく………(というか、バッチリだけど)そうなるのかな、やっぱり」

リィンバウムに呼んだ召喚師でないと、元の世界に返すことはできない。
知っていた事実が、のしかかってくる。

「…………」

二人で、黙り込んでしまった。

「………………おい、いい加減オレ様の存在に気づけ」

沈黙を破ったのは、ドアの方向から聞こえた低い声。
ドアに背を預けて腕組みをしている人間―――
って、白っっっ!!!←違

美白の帝王、バノッサ様だ!!!

「あ、バノッサさん。おはようございます。さん、僕の兄のバノッサさんです。……昨日、アナタを連れてきたんですよ」

知ってますとも!

「…………テメェ、名前は?」

「あ、です…………」

さすが、オプテュスのリーダー………
無駄に怖い。でも、私は大丈夫vv
何度も見たからね、その美白顔(笑)

「…………テメェ、はぐれなのか?」

名前聞いたんだから、名前で呼べよ!……という突っ込みはあえて置いておく。
なんとか、言葉を見つけながらしゃべった。

「はぐれ……です?」

「疑問符つけんな!」

「うぁ!はぐれです!!!…………きっと」

「…………帰るアテはあんのか」

「…………ない、です………」

「暮らしてくアテは」

「……ないです………」

答えているうちに、泣きそうになってきた。
たった1人で荒野に立ってて。
ゲームの中の世界に、あいにく知り合いはいない。

「…………バノッサさん………」

カノンの声に、バノッサが舌打ちするのが聞こえた。

「…………しょーがねぇな。居場所が見つかるまで、ここにいてもいい」

…………え?
ばっと顔を上げれば、ばちっとバノッサと目が合う。
少し赤い顔はすぐにそらされた。
…………照れ屋じゃん(笑)

「あ、ありがとうございます!!」

「…………カノン、メシ」

「はいはい。じゃ、さんは、もうちょっと寝ててくださいね?」

2人が出て行った後、しばらくして。
私は思わずガッツポーズをとった。

オプテュスに……っていうか、バノッサの家に住める!!
こんな好機は二度とない!!
今、楽しまずにいつ楽しんでおくべきか!!

帰る方法はじっくり考えればいい!

一日目にして、開き直り、完了。





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