突然の出会い

会った時間はかなり短かったけれど

彼らを知るには十分な時間

…………だけど、やっぱりさっさと逃げときゃよかった。



Side Scene.4 大脱走。



「………ねぇ……ッ……起きてよぉ……ッ」

その悲痛な声に、私は目を覚ました。

「…………トリス?」

………ッ……よ、よかっ…………」

「えっ……や、ちょ、トリス、泣かないで?」

泣き出したトリスを、慌てて慰める。
すぐにマグナがやってきた。

ッ!…………よかった……倒れてるから、ビックリ、して…………」

「ちょっと、痛めつけられまして…………いた、た……」

しゃべるだけでも、口が痛む。
あぁ〜…………こりゃ、ひどい顔になってるな……。

「ちょっと待ってて…………」

ブツブツと何かを唱えるマグナ。
やがて、ポワ、と小さな光と共に、リプシーが現れる。
リプシーは、その柔らかい体で私の顔をなでた。
たちまち、痛みが薄れていく。

「…………ごめん、今の俺たちには、これで精一杯なんだ。この召喚石も、唯一持ってるものだし」

「ううん、ありがとう。痛みが和らいだよ」

それでも、全身がかなり痛いことに変わりはなかったが、なんとか、立てるまでにはなった。
グッと力を込めて、立ち上がる。

「大丈夫!?」

「ん…………」

「…………とにかく、一刻も早くここから出なくちゃ。……ホントに、大丈夫?」

「大丈夫。ごめん…………悪いんだけど、案内してくれるかな?」

「うん!」

牢屋を出て、マグナたちが案内するとおり、ついていく。
途中、トリスがこんなことを聞いてきた。

「…………は、どうして帰りたいの?」

「え?」

「……そんなに、帰りたい?……こう言ったらなんだけど……あんまり治安よくないんでしょ?」

一瞬だけ考えた。けれど、出てきた答えはやっぱり1つ。

「…………うん、帰りたいなぁ。いろんなことがあるけど…………治安は良くないし、しょっちゅう事件に巻き込まれるし…………でも、そんな毎日を一生懸命生きてる自分が、結構好きだったり」

いろんなことがあるけど…………それでも、帰りたい。
いいことだけじゃないのもわかってる。私がいるのがオプテュスである以上、いろいろな事件に巻き込まれるのだって理解してる。
けど、やっぱり、そこが私の居場所だから。

「やっぱり…………戻りたいんだよね…………」

「そっか…………いいね、そういう場所があるのって」

ちょっと、寂しそうな顔。
…………そか、トリスたちは自分たちの街を破壊しちゃったんだっけ。

「大丈夫大丈夫。絶対トリスたちにも、そーいう場所見つかるから!」

「え?」

「お姉さんの予言その2!1年以内に、トリスたちは、ここ、蒼の派閥から解放されるよ。広ぉい世界を見るのだ〜〜〜!!!そして、自分たちの居場所を見つける」

「無理だよ、そんなの」

「お姉さんの言うことを信じなさ〜い!」

笑って見せると、トリスもマグナも一緒に笑ってくれた。

「信じて、みよっかな」

「信じてみるか!」

「そうそう!人間、たまには究極のプラス思考も大事よ!」

ハルシェ湖が見えてきた。
よし、あそこまで行けば…………。

「この、化け物が!まだわからぬか!」

………………………………………………。

あぁ〜もう!とことんついてない!!!せっかくのプラス思考が、プラマイ0になっちゃうじゃん!

「トリス、マグナ、早く隠れて!君たちが見つかったら、立場が悪くなる!」

「別に、私たちはそんなことかまわないよ!」

「私がかま〜う!!!」

ここで蒼の派閥を除名になんかされてみろ、来年には、メルギトスが源罪解き放って、世界は真っ暗闇だ!

「でも……ッ」

バシッと私の足に絡みつくもの。細長いロープが絡み付いて、派手に転んだ。迫ってくるフリップ。
こりゃ、完璧にヤバイ…………(汗)

トリスが目を瞑るのがわかった。
マグナがこちらに走り寄ってくるのが見えた。

フラッシュバックのように、いろいろな人の顔が浮かぶ。

それでも、出てきた名前は1つだった。


「…………ッ!バノッサぁぁぁぁ!!!!」


ヒュンッ

空を切る音がした。
ザックリと地面に突き刺さる………………包丁???

慌てて振り返れば、大きな生き物に乗った、バノッサとカノンが。

「バノッサ!!!カノン!!!」

「居候!」

ガッと抱き上げられて、生き物―――レヴァティーンの上に乗せられる。

さん!よかったぁ〜……」

「カノン〜!!!」

カノンと抱き合う。その間に、バッサ、と翼をはためかせて、レヴァティーンが地面に降り立った。

「なっ……貴様、なぜ召喚術を……」

「あぁ?」

バノッサはレヴァティーンを降りて、剣を抜いて一振りする。ロープがさっくりと切れた。
そして、悠々と私のほうへ歩いてきてから―――顔をしかめた。
その後、なんとバノッサはバサッと私の服を捲り上げたのだ(!!!)

「なにすん……!!」

私の言葉も聞かずに、バノッサは振り返ってフリップの方を見る。

「……ずいぶんと、痛めつけてくれたみてェじゃねェか……」

しまったばかりの剣を抜く。
その怒りを込めた声音に、今度はフリップが慌てふためいた。

「なっ……貴様、私を誰だと……」

「知らねェな、んなこと」

いつの間にか、カノンもバノッサの傍らに立っていた。

「…………さんを痛めつけた罪、その体で直接味わっていただきましょうか」

地面に刺さっていた包丁を手に取ると、にっこり笑った。
……うっわ、怖っ!怖すぎるよ、カノン!!
ちょっと、2人とも落ち着いて〜〜〜!!!

ここで、フリップ殺したら、1年後の物語までメチャクチャになるじゃないの!!!

「殺しちゃダメ!!!ダメだってば!!!…………ちょっと、フリップさん!あんたも私を勝手に閉じ込めて痛めつけてたの知られたら、マズイでしょ!?だから、このことはなかったことにしてくんない!?」

「なんで、私が……!」

「全部グラムス議長に言っちゃうよ!?」

グッ、とフリップは唇をかむ。

「なにも、手助けなんかしてくれなくていい。見なかったことにしてくれれば、それでいいの!」

「クッ………………」

何も言わずに立ち去ったので、私はホッとしてバノッサに倒れ掛かった。
当然のように支えてくれるバノッサ。カノンが心配そうに近寄って来てくれた。

「大丈夫ですか?…………あぁ、やっぱり傷の3つや4つ付けとくんでした……」

イヤ、シャレになってないよ!カノン!!
3つや4つ、その包丁で傷つけたら、死ぬでしょう!?
そして、私は呆然とこちらを見ているマグナとトリスに気がついた(遅)

「あ…………マグナ、トリス!ありがとうね!」

ぽかん、と私を見る2人。…………ちょっと、大丈夫かな。
ヒラヒラと目の前で手を振れば、ハッと我に返ったのか。

!大丈夫!?」

「ういっす。無事です」

「…………おい、居候。誰だ、ソイツらは」

ちょっとバノッサ、無駄に睨まないの。
2人がおびえてるじゃない。

「私が逃げ出すのを助けてくれた、マグナとトリスです!とってもお世話になったんだ。…………マグナ、トリス。この白いのが私が居候させてもらってる家の主、バノッサ。隣の可愛い男の子が、おいしいご飯を作ってくれる心優しいカノンvv」

「誰が白いのだ、誰が!しかも、紹介に差を感じるぞ、コラ!」

「どうかしましたか、バノッサさん?(黒笑)……はじめまして、カノンです。さんを助けてくださって、ありがとうございました」

「あ、イヤ……こっちこそ……彼女に、いろいろと教えてもらって……」

「あれ?私、なにか教えたっけ?」

え、ちょっと知らない間に未来の話とかしてないよね!?(汗)

焦ってる私を見て、2人はふっと笑った。

「うん、いろいろとね。…………俺たちにも、家族が出来る日を楽しみに待ってるよ」

あ。そういうことか。

「大丈夫!すぐできるって♪」

ガヤガヤと騒々しい音が聞こえてくる。
……まぁ、これだけ派手な登場もして、騒がれないのもおかしいか。
バノッサが、おい、と腕をひっぱった。
うんと返事をして、レヴァティーンに乗り込む。

「もう、お別れなんだね……」

「そうだね……でも、なにかあったら、サイジェントに来てよ!いつでも歓迎する!…………特に、1年後は頑張れ〜!」

今の2人にはわからないようなことを言った。
それでも、マグナたちは笑ってくれた。

「…………お互いに、な!」


段々と姿が小さくなる。
風をきる音が大きくなる。

私たちは、聖王都ゼラムを後にした。




NEXT