Side Scene.5 確実な変化、望んだ誓約。



白い竜があっという間に小さくなっていく。
名残のように吹く風が、頬を吹き抜けて髪を巻き上げる。

「…………なんだか、嵐のような人だったな……」

「うん。……でも、あったかい感じのする人だったね」

それは、きっと、初めて他人に感じた気持ち。
今まで、自分たち、と自分たち以外、に世界は二分されていた。

何度となく投げつけられてきた言葉。
その度に2人、肩を寄せ合って耐えてきた。
北の寒い街中で、凍える手を取り合い、懸命に生きてきた。
そして、召喚術の発動による、街の壊滅。
罪悪感と恐怖感。
拭いきれないそれが、ほんの少し、薄くなった気がする。

『いつか、きっと仲間が出来る』

その言葉が、心をふわりと包み込んで。
不安と恐怖でいっぱいだった、未来に少しの光が見える。

「……リス!マグナ!」

遠くからの、兄弟子の声。
彼は、数少ない自分たちの味方。
それでも、彼は『自分たち以外』に分類されていた人物だった。
今、その声が以前より近く、温かく感じるのは、気のせいだろうか?

「まったく……君たちは、勝手に派閥を抜け出して、こんなところまで…………!君たちはバカか!?こんなこと、バレたら大問題だぞ!?」

「うわわわわ!悪かったよ、ネス!わかったから、ロッド突きつけるのやめろよ!」

マグナは、とっさにトリスの後ろに隠れる。
いきなり怖いものに対峙させられたトリスは、一瞬キョトンとしてから……ネスティの顔を見て、恐怖におののいた。

「ね、ねねねね、ネス……?」

「…………今回という今回は、僕も容赦しない。部屋に戻ったら、各自、ちゃんと『真面目になります』と1000回書くんだ!」

「えぇぇぇえぇ!?やだよ、そんなの!」

「いやだじゃない、や・る・ん・だ!」

「………………………………………はい」

おとなしくなった2人に、ネスティは、とりあえず安堵の息を漏らした。

「……まったく、本当に無事でよかった。重要な人物が派閥から抜け出した、と聞いたから、心配になって部屋に行ってみたら、どっかのバカはいないし……ただでさえ、僕は戦闘系じゃないんだ。貴重な体力をどうしてくれる」

「…………ごめ〜ん」

まさか、その人物が抜け出す手助けをしたとは、まかり間違っても言えやしない。
マグナとトリスは、共有する秘密のために、顔を見合わせて笑った。
2人して、空を見上げる。

青い、空だ。

いまだそこにいるかのように、白い召喚獣の後姿がまぶたに焼き付いている。
短い時の中で、鮮烈なイメージを残した、彼女の笑顔が思い起こされる。

「………………また、会えるといいな」

妹が呟いた言葉を、兄は聞き逃さなかった。

「会いにいけばいいだろ?……いつか、出来た仲間と一緒に」

話がわからないネスティは、いぶかしげな顔で、2人を見た。
笑いあう2人。
彼らの中で、なにかが確実に変化した。
その変化が、1年後―――
彼らの人生を大きく変える鍵になる。



心臓はバクバク。
冷や汗だらだら。

私は、部屋の真ん中に正座をさせられています。

「………………で、。お前は、その蒼の派閥の者に、置いてけといわれて、スゴスゴと俺を置いていったわけか」

「は、はい…………イヤ、召喚に関するもの全てを置いてけって言うので……」

「俺を召喚してから行こうとは思わなかったのか。……俺の力を使えば、お前の後を付けて簡単に救出は出来たと思うが?」

「……………………………あ」

「あ、じゃない!!!まったく、お前は!!!いろんな変なことには知恵が回るのに、どーしてこういうところだけは、バカなんだ!」

「あっ、ひどい!なにその言い方!私がいっつも変なことしてるみたいじゃん!」

「ほぅ…………お前、自分の行動を変じゃないと言えるのか?言えるんだな?」

「……………………………………………言えません(汗)」

アシュタルがはぁ〜………とため息をついた。
何度、そのため息を聞いただろう。

「…………ところで」

「はい?」

「ずっと前から思っていたんだが……俺を呼んでて疲れないか?」

「全然?……え!?もしかして、アシュタル呼んでると疲れるの!?なに、その呪いみたいな作用!」

「………………………ひどい言い方なのはどっちだ。…………そうか、疲れないのか」

え、ちょっとアシュタルさん、なにその邪悪な笑顔。
なんで嬉しそうに髪の毛かきあげてるのさ。

「あのー……アシュタルさん?そろそろ、足がしびれてやばいんですけれど……」

…………………。

うっわ、完璧無視だよ!すっごい無視!

「!」

「うぁっ!ハイ!!」

「今から、俺が言ったとおりの言葉を言え。いいな」

超命令形!
断れるはずないじゃん!

「異界のものよ、我が呼びかけに答えよ」

「異界のものよ、我が呼びかけに答えよ」

「召喚師、の名の下に命じる」

「召喚師、の名の下に命じる」

「霊界サプレスを統べる深淵の王よ、我と誓約を交わし護衛獣となれ」

「霊界サプレスを統べる深淵の王よ、我と誓約を交わし護衛獣となれ」

……………………ん?
深淵の、王?……護衛獣…………?

「………………あぁぁぁ!?アシュタル!?」

「もう遅い」

まばゆい光がアシュタルを包む。
私の力がぐんぐんと抜け出ていく。

「………………………よし」

全部光が消えてから、そうアシュタルは言った。

「全っっっ然、よしじゃ、ないんですけど…………(疲)」

うあぁぁ…………疲れて、目が回る。
撤回だよ、疲れないって言ったの撤回!

「そう睨むな。……今、この時より俺はお前のための召喚獣となった」

「…………それって、護衛獣ってこと?」

「あぁ。……どうも、お前は騒ぎに巻き込まれやすいみたいだからな。あっちにいるときも、落ち着かない。ならば、いっそのこと、こっちにいてお前の傍で見ていたほうがよほどましだ」

「私のせいじゃないもーん…………あぅ、疲れた。眠い……」

「だろうな。この俺を護衛獣にしたんだから」

「う〜…………寝る。寝るから。アシュタル、出てって。うら若き乙女の部屋で一緒に過ごすつもり?」

「……は?」

「カノン!!カーノーン!」

「呼びましたか、さん」

2秒とかからずにカノンがやってくる。
そして、アシュタルを見て、ペコリと頭を下げた。

「どうも、アシュタルさん。今日はどうしたんですか?」

「…………カノン……アシュタルが護衛獣になってくれたの」

「…………護衛、獣?」

「とにかく、もう、向こうの世界には帰らない……んだよね」

「あぁ」

「…………ってなわけで、居候がもう1人増えるんだけど、いい?」

「えぇ、それはかまいませんよ。アシュタルさんなら、いろいろとお手伝いしてくれそうだし」

なにを???
そして、その黒い笑顔は何???

「バノッサにも言わないとだよね?」

「あぁ、バノッサさんには、僕から言っておきますよ」

あぁ……笑顔が黒い、黒いよカノン……。

「あぁ、頼む」

アシュタル、それを平然と返すあなたもスゴイ。




あぁ、もう…………これじゃ、騒ぎを起こしてくれって言ってるようなものじゃないの!
私は、ただ……私はただ、1年後の物語を物陰からこっそりと見たかっただけなのよ―――!!!



もはや……それすら危うい状況だわ……なにせ主人公2人いるし。
お願いだから。
お願いだから、私に2キャラとご対面させてくれ!それまでは、絶対に私、生き抜いて見せるからね!