シュパ……ッ! 本日247本目のシュートを打ったところで、流川はいそいそと女子更衣室から出て行く人影を見つけた。 いかにも、見ないでください、というように背中をこころもちまるめて、こそこそと出て行く。 ふっ、と息を吐いて、体育館前の扉に手をかけながら声をかけた。 「?」 ぎくっ、と体全体で反応してから、恐る恐る振り返る顔。 笑顔であるが……引きつっている。限りなく顔が引きつっている。 「か、楓……こ、こんばんはvv」 「……練習はどうした」 ぎくっと、これまた体全体で反応する。 「お、終わった……か、楓はシューティングしててvv今日は、私早く帰るから」 「珍しいな……おめーがシューティングしねーで帰るなんて」 「そ、そうかな?……あ、部活の買い物して帰らなきゃいけないから」 ちらっと目だけで上を見やる。 ぴく、と流川が反応する。しかし、いつもの声で言った。 「……気ぃつけて帰れ」 「うん!楓は、気にせずがんばって!それじゃっ!」 突風のように立ち去る。 流川は流れ落ちる汗をTシャツでぬぐって、ふぅと息をついた。 ずっと
一方――― 流川の手を逃れたは、校門までダッシュで駆け抜けた後、ほーっと息を吐いた。 「し、心臓に悪い……」 ドクドクといつもより早く脈打つ心臓の上を押さえて、は家とは逆の方向に歩いていった。 出勤時間まであと10分。 走っていけば、間に合うだろう。 そう。 は昨日からアルバイトなどというものを始めていた(しかも寿司屋で) 理由は、ただ単に『お金がない』から。 使っているつもりはないが……やはり、なくなるものはなくなる。 特に、最近は執拗に誘ってくる幼馴染との遊びにお金が消えている。 ―――まぁ、向こうが払うことのほうが多いが。 それでも、やっぱりいつもおごってもらうって言うのは、気が引ける。 自分が小さいころから好きな人だとしたら、なおさらだ。 「やっぱり、お金は大事だよね」 ぽそりとつぶやいていたら、寿司屋の明かりが見えてきた。 カラリ、と引き戸を開けて、すぅっと息を吸い込む。 「おはようございま〜す」 そういうのが、ここでの挨拶。 厨房というか、台所のようなところから2、3声が返ってきた。 更衣室へ入って、白衣を着る。 備え付けの鏡を見て、帽子をかぶると、ドアを開けて、急いでタイムカードを機械に通した。 出勤1分前。 ぎりぎり間に合ったことに、安堵の息を吐く。 さて、これから、たちっぱなしの仕事。 がんばらねば―――。 来たときよりも重く感じる引き戸を開けて、夜の空を見上げてみる。 「ふぃ〜……」 コキコキと首をまわして、店から右側へむかって歩く。 バス停までついたところで、ふと携帯をとりだしてみた。 『新着メール』 ディスプレイに映った文字。まだ接続は切れていない。 いったん接続を切ってから、受信メールボックスを開く。 『ちゃんと帰れてるか?明日、迎えに行くから待ってろ』 人柄がにじみ出ているというかなんというか……簡潔な文章に笑いがこみ上げてくる。 急いでメールを打ち返す。 片手で打つよりも両手で打ったほうがはるかにはやいので、少々格好は悪いが、両手で打つ。 『はいはい、ちゃんとついてますよ〜。ちゃんとついてるかってねぇ〜……私が帰るころまだ中学生だって遊んでるよ〜。楓は心配しすぎデス。じゃ、明日の朝、待ってるからね(^^)』 送信終了の文字を見て、パチンと携帯を閉じた。 「ふぅ〜……」 もう1度息を吐いて、空を見上げる。 天の川がぼんやりと目に映った。 「……ウス」 「おはよう」 「……後ろ乗れ」 ぼんやりとした流川に、は頷いて自転車の後ろに立った。 ペダルを漕ぐたびに風が吹き抜けていく。 すさまじい風が来たので、たまらず目を閉じた。 「そういえば、昨日、また晴子ちゃんが楓のこと、目、ハートにしてみてたよ」 「……ふ〜ん」 「ふ〜んて……花道は相変わらず敵対心バリバリだし。あいつってば、こんな楓にかまってもしょうがないのにねぇ〜」 「どーいう意味だ、どあほう」 「そーいう意味です。……あ、小暮先輩に辞書返さなきゃ。楓の髪の毛みたら思い出した」 「……オイ」 坂道に差し掛かる。自転車は加速した。 「気持ちい〜〜〜vv」 ……しかし、反応が返ってこない。 「お〜い、楓さん?」 ……無反応。 はっとする。 目の前には車。 「おい、こら、流川バカエデ!!!起きろ!!!」 自転車は車に乗り上げた。 「いたたたた………」 腰をさすりながら保健室を出る。 「ありがとーございましたー」 「もう怪我しないでねー」 「無理でーすっ」 ドアを閉めて、外で待ってた流川をみる。 「……ごめんなさいは?」 「……うぬ……」 は笑顔で流川に近寄る。 「ご・め・ん・な・さ・い・は?」 「……ゴメンナサイ」 「棒読みかよ……ま、いーけど……じゃね」 ぽりぽりと頭をかきながら、階段を上ろうとする。 ぐっと手をつかまれた。 「……なに?」 「……今日、部活終わったら、一緒に帰る」 「?別にいいけど?」 「明日、部活終わったら一緒に帰る」 「?うん、いいけど?」 「明後日……」 「だから、いいけど?」 流川は珍しく考え込む。 は、痛む腰をさすりながら流川を見る。 「どうしたの?」 「……誰か、好きなやつがいるんじゃねーのか?」 「はぁ?」 なにをとんちんかんなことを言い出すのだろう、この男は! は、ひそかに拳を固めた。 「だってオメー、俺と一緒にいるの避けてたみたいだし」 「あ……(バイトが立て込んでたからなぁ……)」 目線が宙をさまよったのを見逃さない流川。 「……なんかやましいことでもあんのか。オメー、嘘つくとき目だけで上みるだろ」 「(ギクッ……なぜそれを……!)やましいことなんぞ、ありませんこって!!」 「日本語ヘン」 「主語と述語もわかんないやつに言われとうない!!」 はぁはぁ、と息を切らす。 「……やっとられんわ。んじゃね、授業始まるし」 再びぐいっと腕をつかまれる。 「…………楓」 「……今週の日曜、映画行く」 「わかった。んじゃね」 「来週の日曜も……」 「〜〜〜もうっ!言いたいことがあるならハッキリ言いなさい!!」 腰の痛みも忘れて、叫ぶ。 「…………と一緒がいい。ずっと」 「…………は?」 「…………今日も、明日も明後日も、朝も昼も夜もずっと一緒がイイ」 この男の無愛想さからは想像できない言葉が出てきたことに、まず驚いて、次にその言葉の恥ずかしさに顔が赤くなった。 「んなっ……なななな、なにお〜〜〜!?」 「……これだけ言ってもわかんねーのか、オメーは」 ぷいっと横を向いた顔がかわいくて。 「いやっ、わかりますけども!太陽が熱いってことと同じくらいわかりますけども!!…………ホントに?」 「嘘言ってどーする。……だから、オメーが早く帰るの見て、嫌だったんだ」 「う……ごめん。実は…………実は、アルバイトなんぞしてまして……」 「……バイト?なんで」 「お金なくって……」 ふぅ、と流川はため息をついた。 「俺が払ってやる。彼氏が出すんだろ?こーゆーのは」 「………………」 「……顔、にやけてる」 「うそっ!?」 の頬は、確かにこころなしか緩んでいる。 「ホント」 そう言って流川はの頬に軽く唇を触れた。 バンッ!と壁まで下がる。 「……校門で待ってろよ」 「……うん」 2人の顔はまるで太陽のように赤く、明るかった。 あとがきもどきのキャラ対談 銀月「1周年記念、最終作です。ハイ」 流川「……1周年?もうすぐ2周……」 銀月「それは言わない約束です……なにはともあれ、ありがとうございます」 流川「……甘くない」 銀月「んなっ!!頑張ったつもりですが!?」 流川「もっと、イチャつき……」 銀月「逝ってらっしゃいvv」 |