私たちは、17年間、兄妹でした。
普通の兄妹として、暮らしてきました。
…………1週間前までは。
続・兄妹物語
「、最近牧先輩と仲良いよね」
ギクリと私は身をすくませる。
不意に言われた、友達の一言。それは核心を突いた。
それでも、ニッコリと笑顔を貼り付けて。
「そ、そうかな〜?あんまり話してないし、わかんないや。そーゆー風に見える?」
「う〜ん…………最近、一緒に登校してくるようになったでしょ?今まで、バラバラなことが多かったのに」
す、するどい…………。
友達の知られざる観察力に、思わず舌を巻く。
「たまたまよ、たまたま」
「いいなぁ。私もお兄ちゃん欲しかった……しかも、牧先輩みたいなお兄ちゃんがいい……」
「あのねぇ……悪いけど、紳一、兄を通り越して父でも通りそうだからさ……それを見て、欲しいとか思うの?」
「だって!カッコイイもん!……あぁ、ぜひお近づきになりたい……vv」
「は、結構お近づきなってるよ、もう。名前覚えられてるじゃん」
「そ、そう?……狙ってみようかしら」
その発言に、顔がこわばるのがわかった。
声がのどに張り付いて、上手く出ない。
「…………妹の前で、そーいう発言は控えていただきたいわ」
なんとか、搾り出すように、声を出して、釘をさしておく。
「あれ?ってブラコン?」
「…………すーみませんねぇ、ブラコンでぇ」
―――ブラコンを通り越してますけどね。
「あっっっ。お母さんってば、私と紳一のお弁当間違えてる!!!」
そう叫んだのは、昼休みに入ってすぐ。
見慣れたお弁当箱じゃなくて、銀のステンレス(しかも、かなりデカい)のお弁当箱。
明らかに、紳一のものだ。
「食べちゃえば〜?」
友達ののんきな一言に、がっくりとうなだれる。
「こんな量、食べれるわけないじゃん…………私、見てるもん。お母さんがすごい形相でご飯詰め込んでるの」
「………………いってらっしゃい」
「イッテキマス」
可愛いお弁当袋(ピンク)の中に、可愛さとは無縁のお弁当箱。それを持って、向かい側の校舎の2階先までダッシュ。
実は結構遠いのだけれど…………紳一に会えると思うと、あまり苦にならない(照)
ウキウキしながら、走る。
と。
「?」
すれ違いざまに声をかけられた。
「あれ?ノブノブ信長」
「…………なんだよ、その前の形容詞」
「いっや〜。なんか、今日、楽しくって」
「はぁ?……弁当抱えてどこ行くんだよ」
「紳一の所〜」
「牧さんなら、教室にいなかったぜ。俺、今行った」
ノブの言葉に、我ながらガックリ来てるのに気づく。
「そっかぁ…………どこ行ったのかな」
「さぁ?」
「…………!!」
背後からの声。
顔がほころぶ。
「……紳一!」
「「(お)弁当!!」」
言って、お互いの弁当を差し出す。
ノブがあっけにとられていた。
「……っはぁ〜、よかったぁ……こんなおっきいお弁当、食べようにも食べられないもんね」
「俺だって、こんな弁当箱持ってるの見られたら、何か言われるに決まってるだろ。……で、清田。何か用か?」
「え?……あ、いやいや、そんな大した用事じゃ……あれ?なんだっけ?」
「用事忘れたの?おばかさんだねぇ」
「るせっ。に言われたくねーよ」
「まっ。失礼な!!そんなこと言ってると、ノブだけ筋トレ増やすよ!」
私の言葉に、ノブがうっと後退する。
「ま、牧さん!こーいうの、権力オーボーって言うんじゃないスか!?」
「あのねぇ……私も、一応『牧』なんだけど?」
「オメーはで十分だ!」
「…………清田、筋トレとランニング増やしたいか?」
紳一の笑顔に、ノブは言葉が詰まったようだ。
後ろ向きに走りながら、私のみを指差して、覚えてろよ〜!と捨て台詞を吐いて去っていった。
「……じゃ、私もそろそろ戻るね」
「ん?……あぁ……」
「じゃーね」
「…………一緒に、食うか?」
歩きかけた足が、ピタリと止まる。
見れば、お弁当を指差す紳一。
「…………食べる!」
答えたら、紳一は笑った。
しかし、ふっと気づく・
「…………冷静に考えたらさ」
「ん?」
「一緒にお弁当食べる兄妹なんていないよね……」
「……見つかんなきゃ、いいんだよ」
と呟いて、方向転換をして、階段を上る。
「え、そっち、屋上じゃ……」
「屋上だったら、誰にも文句言われないだろ?」
「でも、立ち入り禁止……」
「気にするな」
気にするなって言われても!
とりあえず、ついていくしかない。屋上のドアをはじめてくぐった。
「へぇ〜……屋上ってこんな感じなんだ」
「来たことなかったか?」
「うん。……さってと。お弁当お弁当」
早速座り込んで、お弁当をあける。
おかずの1つ(ミニハンバーグ)をつまみあげて、口の中へ入れた。
「ん〜vv幸せvv」
隣で、玉子焼きに手をつけていた紳一は、わざわざ手を止めてまでして、私の顔を見た。
「本当にうまそうに食うよな……」
「おいしいも〜ん。……ハンバーグ好きだしvv」
「…………やる」
と、お弁当の中に放り込まれたハンバーグ。
私は、なんだかそれだけでもう嬉しさ倍増で。
「いっただっきまーすvv」
紳一のくれたハンバーグを口の中に入れる。
ん〜。おいしい!
くすり、と紳一が笑った。
「?なに?」
「……間接キス」
ぼそりと呟くもんだから、なぜか恥ずかしくなってしまった。
「な、ななな、い、いつものことじゃん!」
「…………誰が、思ってるんだろうな。学校の屋上で、兄妹がこんなことしてるなんて」
「え?」
引き寄せられて、温かい唇の感じ。
甘い、玉子の味がした。
本当に、誰が思っているのだろう。
実の兄妹が、こんなことを学校でしているなんて。