夕食作り







トントントン……

「彰?……彰さぁ〜ん?」

ははいつものように自分の彼氏―――仙道彰の住んでいるアパートのドアを叩いた。

しかし、中からの応答はない。

(絶対釣りだな……)

はがっくりと肩を落とす。

両手に持ったスーパーのビニール袋がやけに重く感じる。

(お魚は彰の家にあるからあえてメインディッシュは買ってこなかったのに……あ〜、もう!今日、夕食作りに来いって言ったのドコの誰よ!)

合鍵は持っていない。

ほんの少しの可能性にかけて、家の近くにありそうなスペアキーを捜すが……ポストの中、植木鉢の下……どこにもない。

ちょっとの動きなのに汗が体中から湧き出てきた。

(あ〜……早くしないと野菜が傷む〜……しゃーない……携帯に電話してみよう)

ひとまずその荷物をおろして、携帯で『仙道彰』の文字を探す。

(……電源入れててよ……彰ってば、大体電源切ってるんだもん)

すると、数秒の沈黙の後、プルルルルと小さな音が連続して鳴った。

(やった!)

と思ったと同時に。

無情にも部屋の中から、仙道彰愛用(?)の携帯電話の音が鳴り響いた。

しばらく『やった!』の時の表情のままで固まる。

(くそぉ!)

思わず携帯電話を投げつけたくなる衝動に駆られるが、それでも自分の携帯は可愛いので、投げる寸前で振り上げた腕を止めた。

チリン、と携帯につけたストラップの鈴が可愛く鳴る。

(……探しに行くか……)

待っていても、絶対に仙道は帰ってこないと踏んだのか、重いビニール袋を持って(仙道がクーラーボックスを持っているので、その中に入れるつもりだった)袋より更に重い足をひきずるようにしてアパートの階段を下りた。





その頃―――ある堤防にて。

「……くぁ〜……」

「仙道クン!」

「んぁ?」

「よっしゃ、やっと見つけたわ〜!私、週間バスケットの……というより、相田彦一の姉で……」

「彦一の!?」

「あぁ!もう、なんでもえーから!早く来て!」

「え?」

(なんなんだ……?)

仙道彰、相田彦一の姉、弥生に連れ去られる。





そうとは知らずに、は海岸沿いをただひたすら歩いていく。

(彰、大方いつもの堤防の上でしょ……も〜……なんでこんな暑いのに釣りなんかしてられるのよ!)

真夏の海は暑い。

暑すぎる。

汗がとめどなく溢れて、顎を伝い地面を濡らす。両手がふさがっているため、拭くことも叶わない。

それでも諦めずに歩きつづける。

死ぬ思いで堤防につくと、パラパラといる釣り人を一人一人見分ける。

顔なじみの釣り人も少なくない。

その人たちには笑顔で挨拶を交わす。

(あれ?……あれ?)

顔なじみの釣り人たちの間にも仙道の姿はない。

もう一度最初から一人一人見分ける。

それでも仙道の姿はない。

(嘘でしょ〜……???)

がそう思うのも無理ない。

仙道がいないのなら、なんのために頑張ってここまで歩いてきたというのか。

じわりと涙が浮かび始めたその時。

顔なじみの釣り人がの肩をたたいた。

ちゃん、彰のヤツを捜しているのかい?」

瞬きを何度かして涙を誤魔化す。

「そうなんですけど……いないんですよ〜……」

「そりゃそうだろうよ。彰、30分くれぇ前に、大阪弁のいきのいい姉ちゃんと一緒に、ここを出て行ったからなぁ」

「……大阪弁でいきのいい?」

どこかで聞いたそのフレーズに、はふっと思い出す。

「……彦一?」

「いんや、男じゃねぇ。なかなか色気のある姉ちゃんだったぞ」

「そうですか……ありがとうございます……それじゃ……」

ふらふらともう一度荷物をもってあてもなく歩き始める。

歩きながらも、そのフレーズは頭の中に反芻して回る。

(……大阪弁のいきのいい色気のある姉ちゃん?……姉ちゃん?……彦一のお姉さん!?彰のことが……好き……な?)

じわり、と涙がまた浮かんでくる。

(なんだよ〜……人に夕食作り頼んでおいて、自分は女の人とデートかよ〜……もう、いいよ……このまま帰ってやる〜〜〜……)

荷物を落として、袖でぐいぐいと顔を拭う。

その時だった。

「…………?」

ぼそりと投げかけられた声に、ははっとして声のした方を向いた。

「……フクちゃん!?」

声をかけたのは陵南一無口な福田吉兆。

「……泣いてたの?」

「……や、違う違う!これは汗!ほら、全身汗まみれでしょ!?」

「……汗と涙は違う」

「……あ……欠伸してたの!……ところで、フクちゃんはどうしたの?こんな暑いのに」

福田の持ったスポーツバックを見て目を丸くする。

「……湘北で、仙道達が試合してるっていうから」

「へぇ〜……」

暑さで頭がぼーっとしているからだろうか。一回はその言葉を聞き流す。

「……ん?ワンモアプリーズ?」

「え、だから。湘北で仙道達が試合してるっていうから、これから行くトコ」

「はぁぁ!?彰たちが試合してる!?」

コク。

頷いた福田にはつめよった。

「……連れてってvv」

のいいしれないオーラに、福田はまたも無言でコク、と頷いた。





湘北高校はすごい騒ぎだった。

なにせ、翔陽・陵南の神奈川最強チームと湘北がいい試合をしていたからだ。

福田が着替えてくる、と更衣室へ行く。

一人残されたは、恐る恐る体育館内に入った。

「……いた……」

コート上で楽しそうにプレイしているのは、まぎれもなく仙道彰、その人であった。

それを見つめる、彦一の姉らしき人物。

「…………人の気持ちも知らないで……」

じわりと浮かんできた涙を、振り払うように顔を振る。

踵を返して、そのままはコートを出て行った。





「……福田。やっと来たのか」

コク、と頷く。

「……仙道」

「ぅん?」

スポーツドリンクを飲みながら、顔をそちらに向ける。

「……が来てる」

「え……マジ!?」

コク。

慌てて仙道は周りを見回すが、それらしき人物は見当たらない。

「……いないぞ?」

「……嘘だ。オレと一緒に来た。体育館に入るのも見た」

「じゃ、出て行ったのか……オレ、夕食作ってくれって頼んでたんだよな、そういえば」

「……、泣いてた」

「え?……ちょ、それどういう……」

ピピ―――!!!

「始めます!」

福田の言葉を聞くには、タイムアウトの1分はあまりにも短すぎた。





やがて試合は終わり―――

メンバー全員が帰りの支度をすませ、校門に集まっていた。

他のメンバー達が談笑しているのに対して、仙道の目はキョロキョロと違う方向を見ていた。

「……それじゃ、今日はこれで帰るとするか。お疲れさん」

翔陽の藤真の言葉を筆頭に、口々にお疲れ、という挨拶がかわされる。

「じゃ、解散!」

バラバラと人が散っていく。

さて、と仙道がバックを片手に湘北の校舎内に入ろうとした。

「……仙道クゥン!」

その声に足が止まる。

「……なんですか?」

「……あのさぁ、ちょっとでいいからインタビューに答えてくれない?」

「は?」

弥生の言葉に、仙道の目が泳ぐ。

(早く、を探しに行きたいんだけどなぁ……)

しかし、すでに聞き取りようのペンと手帳をもった弥生を、断れなかった。仕方ないので、笑顔でインタビューに答える。

すると。

仙道の視界の端に、の姿が映った。

重そうなビニール袋を両手に持って、ふらふらと校門を出て行く。

途中で、片方のビニール袋の手提げが切れた。

1つ、2つ、ものが落ち、コンクリートの上をコロコロと転がっていった。

ヒック、としゃくりあげる声。

仙道が動き出す。

「あ、ちょ、仙道クン!?」

「すんません、また今度」

高速スピードで校門まで走る。

震えている肩を、そっと叩く。

自分の前に落ちた影の大きさに、ビクッと体を震わせた。

「…………

「…………なによぅ……」

「……ごめん」

涙のたまった目で振り向き、睨む。

が、最初だけで、袋を全て落として、仙道に抱きついた。

「……ごめん、で……すむわけ、ないじゃ、ない……堤防に行ったら、色気のある美人とどこかに行ったっていうから……もう、なにがなんだかわかんないしぃ……馬鹿ぁ……」

「……ごめん……夕食作りに来てくれたんだよな……」

「作りに来たんだよぉ〜……野菜、腐っちゃうよ……」

「大丈夫大丈夫。じゃ、帰るか」

『仙道ク〜〜〜〜ン!!!』

弥生の声がこだました。

「…………さぁ、いこーか!」

の落とした荷物を拾い、手をひっぱって仙道はダッシュで校門を出て、バス停まで走る。

「あ、彰!バス来てる!」

『仙道ク〜〜〜ン!』

「結構しつこいな……さすが、彦一のお姉さん」

「「「「「仙道!」」」」」

バスの中から声がする。先に帰った、翔陽・陵南メンバーだ。

「乗ります!」

がたがたとバスに乗って、後ろの席まで歩く。

、座りなよ、と空いている席を指差す。

「……ありがとう」

「いえいえ。男ですから」

「……ぷっ」

誰かが唐突に吹き出した。

そして堰を切ったように皆が笑い出す。

「……なんだよ?」

「……仙道、お前……自分の格好わかってないのか???」

「はぁ?」

ツンツン頭の大男が、スーパーのビニール袋を持って彼女に『男ですから』も笑えるであろう。

「………………オレ、そんなに変?」

「…………気にしないほうがいいと思う」

さっき泣いたカラスがどうとやら。

は、大声で笑い出した。

「…………夕飯、何?」

こころもちすねたように、に問う。

「彰の家にある魚で、お料理。何がある?」

「……え〜と……確か……アラカブがあった……」

「んじゃ、から揚げにしよう」

「……おい、お前らそれが高校生の会話か?」

藤真が呆れたように口を出した。

「だって、彰の家ってば、魚だけは大量にあるんですよ?使わない手はないじゃないですか!」

「……いや、そうじゃなくて……もういいや……おい、仙道」

「んぁ?」

「……お前、将来、料理の心配だけはしないですみそうだな」

仙道はニッコリ笑った。

「今日食べに来ます?将来、うちに食べに来たくなるようにしてあげられますけど?」

「…………ごちそうになろうか」

近いうちに、仙道の家にもう一度行く事になるのはまたその後の事。





あとがきもどきのキャラ対談



銀月「……っぷはぁ〜!書き終わったぁ〜!」

仙道「……とりあえず、お疲れさん。……ってか、なんでいろんなプロットたててるのに、書き終わらないわけ?っていうか、早くオレのキリリクかけよなぁ〜」

銀月「……書いてますよぅ。でも……書き終わらないのぉ〜!あんた!エロすぎなのよ!」

仙道「……オレのせいかよ……とにかく、早く書けよ?」

銀月「はぁい。みなさん、こんな銀月にネタ&感想をください〜!」

仙道「……こんな馬鹿に付き合ってくれた、。ありがとうな」