雪の日の午後 「ねぇ、みっちー!雪!雪だよ!」 教室のドアを開けて入ってきたのは、オレの幼なじみで、二つ下の……彼女のだ。 「あぁ?んだと?」 視線を窓に向けてみると、なるほど、空からちらちらと白いものが降ってきている。 「雪―!雪―!」 はしゃいでオレの首にしがみついてくる。 ちょっと意識しつつ、片手でべりっとはがす。 「雪がそんなに嬉しいのかよ?……雪かきもしなきゃいけねーし、交通機関だってマヒすんだぜ?メンドくせーだけじゃねーか」 は、ニヤ、と笑った。 「みっちーは知らないね?……学校って言うものはね、生徒の危険を一番に考えるんだよ?……よって!大雪になれば、即座に帰宅可能なのよ!だーかーら!今日の小テストはなくなる!」 ぐっと拳を握り締めている。だけど、のいうことも最もだ。 確かに大雪になれば、先公どもは交通機関がマヒする前に生徒を帰そうとするだろう。だから、たとえ小テストがあろうと、授業が中止になる事も大いにありうる。 「……なるほど。だけど、オレら電車組だぜ?もし交通機関マヒしたら、歩きだぞ?」 む……とあいつは黙った。 いくら元気なあいつでも、寒い中長時間歩くのはさすがにイヤだろう。 そう考えていた時、校内放送が入った。 『大雪警報が発令されたため、本日の授業は全て中止とする。全校生徒はすみやかに帰宅するように。HRは行わない。繰り返す……』 「「あ」」 オレとの言葉がかぶった。 先に動いたのはオレだった。 「……とにかく、駅まで行くか。……、はやくお前も仕度しろ」 「はーい♪……みっちーも一緒に教室いこ♪」 きゅっと腕を組んでくる。 「……おら、行くぞ」 にっこり笑って、は頷いた。 『本日は、大雪のため、全線ダイヤを見合わせております』 放送が駅構内に響いた。 「なに〜ぃ?」 オレは思わず声をあげた。がつんつんと袖を引っ張る。 「みっちー、怖い怖い。顔、怖いって」 「あぁ、ワリ……で、どーするよ?電車。……歩いて帰るか?」 「イヤ。絶対イヤ」 予想通りの答え。そこで思いついた。 「……デートでもすっか?」 オレはニィ、と笑ってやった。 「ほんとっ!?」 「電車も使えねーし、移動の幅は限られてると思うが……どーする?」 「するするするする!!!!絶対するっ!……やったーっ!」 顔中に『嬉しい』の言葉をはりつけて笑うに、オレの顔もほころんだ。 「じゃ、どこ行く?」 ぴょこんっとの手が挙がった。 「ん?」 「あのね、あのね!駅からちょっと行ったところに、クレープ屋さんがあるのっ!そこね、冬限定で、ホットクレープやってんの!」 「ホットクレープゥ?なんだ、そりゃ」 「あのね、焼きたての生地に、あったかーいシロップかけて食べんのっ!おいしいって聞いたんだけど……食べたことないから食べたいっ!ついでに寒いっ!」 甘そうな菓子の響きだが……オレも実は結構寒い。温かいものが食べれるなら、クレープでもいいな。 「おし。行ってやろう」 「やった!」 そこでまたオレに抱きつく。……小さいころから抱きつき癖があるんだよな。 「行こう行こう!」 は歩き出していた。おいていかれないように、オレはの手を握る。 「ひゃぁっ!?」 声を出したのはだが……オレだって驚いた。の手の冷たさに。 「な、なななな何?みっちー」 動揺ぶりはかわいいが、今はそれどころじゃない。 「お前……手ぇ冷てぇ……」 「……みっちーは、あったかいね……」 「馬鹿やろう。お前が冷たすぎるんだよ。……ほら、さっさとクレープ食って、あったまるぞ」 オレはを連れ立って歩いた。 「みっちー、おいしいvv」 「そーだな」 オレは、今とクレープを食っている。 ホットクレープということだけあって、クレープ自体は温かくていいのだが…… 「……さみぃな」 「……そーだね」 移動するクレープ屋(つまりは屋台みたいなってことだ)だったため、食べるところ……とはいっても、外にテーブルとイスが置いてあるだけだった。 「みっちー、歩きながら食べない?」 「おっけ」 の提案にオレはすぐに賛成した。……だって、寒い時にじっとしているよりも、少しでも動いていた方がいいだろ? 自然とオレは左手でクレープを持っていた。……右手はと繋ぐためだ。 「ほら、いくぞ」 右手を差し出してやると、嬉しそうには手を握った。 「みっちーのクレープ、何味だっけ?」 「オレのは、グレープ。……のは?」 「私はオレンジ!ね、ね、一口ちょーだい♪」 「交換、な?」 かぷっとのクレープにかじりつく。温かい生地。これだけでも卵の味がしていて、それなりに美味いのだが、さらにオレンジのシロップが口の中にとろけて……かなり美味かった。 「んまい……」 「あっ!……私も!」 そういって、ぱくっとはオレのクレープにかじりついた。 「……おいし♪グレープもよかったな……」 「だろ?……また来ような」 「うん♪」 あてもなく歩きつづけて、ふと見つけたのがこの店。 いろいろなガラス細工の置物が売っている店だった。 「わぁ……」 はぺとっと店のドアに張り付いた。 「……」 ここが人の多い通りじゃないことに感謝した。 「みっちー!みっちー!」 目がらんらんと輝いている。こういう時のこいつには、なにを言っても通用しない。 「……ほら、行くぞ」 手を引いて店の中に入る。はにっこり笑った。 「……うん……!」 店の中はすごかった。 何十、何百のガラス細工の置物。その大きさは小指の爪くらいのものから、頭くらいの大きさぐらいのものまである。 「わぁ〜……みっちー、みっちー!見て見て!」 が見つけたのは、小さな天使のペンダントだった。 「わっ!こら、放せ!」 「すごいすごいすご〜いっ!細かい、小さい、可愛い〜〜!」 おかまいなしに、はオレの袖を引っ張る。 だが、壊さないためか、それに触れる事はない。 「……気に入った?」 若い男の声。 思わずオレは構えて、あいてを睨みつけようと振り返った。 「いらっしゃい」 そこにいたのは、メガネをかけてひょろりと背が高い男。会った瞬間、オレは、小暮に似てる、と思った。 「……僕の顔になにか?」 知らないうちに凝視してしまったらしい。 「いや……」 男(小暮2号と名づける)は、笑って(この笑い顔も似ている)に話し掛けた。 「それは、うちの店のオリジナルなんですよ」 「可愛い〜〜〜!ね、ね、みっちー……」 買ってもいい?って顔だろ、それは。昔から、何かとオレに相談するんだからな。 「……あぁ」 「やった!あの、これ、いくらですか?」 「2800円です。……ご希望でしたら、名前を彫りますが……」 「お願いします!えっと、お財布は……」 くい、とオレはを後ろに押しやる。 「オレが払う」 薄っぺらい財布だが、それくらいは入っていたはずだ。 「で、でもぉ〜」 泣きそうな顔でオレを見上げてくる。 「いいから。……たまにはこれくらいさせろ」 茶色い革の財布から、新渡戸さんを出す。 「お名前はどういたしましょう?」 小暮2号は、『オレ』に聞いてきやがった。 「……『H to 』で……」 ぱっとが振り返る。 わわっ、見るな! オレの顔、きっと真っ赤なんだからな! 「……わかりました」 にこにこと笑いながら、小暮2号は店の奥へと入っていった。 「ねぇ……」 が俺の顔を見る。 「……いーだろ、別に。いらねーんなら、いーけどよ」 「いるいるいるいる!……寿!ありがとぉ!」 ……こいつ、初めて『寿』って呼びやがった。 「おぅ……」 「おまたせいたしました。……それでは、おつりをお返しいたします。また、お越しくださいね」 小暮2号がにこにこと笑う。 「はい。……ありがとうございます」 「いくぞ」 空からは、まだ白い雪。 薄暗くなった空から降ってくる雪は、白い羽根のようにも見える。 「……ねぇ、みっちー……」 「あん?」 「……ありがとぉっ!」 満面の笑みで。 オレが買ってやったペンダントを抱きしめて。 はオレに言った。 照れくさくなって、オレはの頭をぽんっとたたく。 「……『寿』、な?」 「え?」 「これからは!『みっちー』じゃなくて、『寿』だ!」 真っ赤になった顔を吹き飛ばすように大声で言った。 は、もう一度オレに言った。 「ありがと!寿!」 空からは白い雪。 隣には。 いつもとはちょっと違う、そんな日の午後。 オレは最高に幸せだった。 あとがきもどきのキャラ対談 三井「……すげー、オリジナルだな」 銀月「そぅですね〜……でも、ラブラブしちゃってvv」 三井「ま、その辺だけは、褒めてやろうか」 銀月「……ぬを?」 三井「……?あんだよ」 銀月「……褒められたぁぁぁ!やっとキャラに褒められたぁぁぁ!」(グッとガッツポォォォォズ!) 三井「……(変な奴……)、また、デートしような!」 銀月「なんか、続きそうな気配が……感想等、BBSか、メールでくださると、泣いて小躍りします!(爆)」 数日後・・・・・・ 「寿っ!あのねー、あのねー……」 は、このごろ頻繁にオレに会いにやってくる。……結構嬉しいんだな、これが。 他愛もないおしゃべりをして、すぐに去っていくが。 「あ、次、移動教室だ。またねっ!寿!」 おぅ、と軽く手を上げる。それを見たか見ないかの速さで、は教室を出て行く。 忙しい奴だな、と思いながら、オレも息をついて席に座りなおす。 すると、いつの間にか小暮が目の前にいた。 「おわっ!……なんだよ、小暮」 「いいなぁ、ちゃん。天使のペンダント」 「いっ!?」 なんでこいつが…… 「……『H to 』……」 「うわぁぁぁぁぁ!」 にこっと小暮が笑う。 「三井、オレ、今日掃除なんだよなぁ〜」 「……わかった、まかせとけ」 こいつ、ぜってー性格が違うっ! 「まかせたよ」 ちくしょー、小悪魔め! 「じゃ」 去っていく小暮。 ん?待てよ? 「そもそも、なんで小暮が知ってるんだ!?」 |