「…………ぐー……」

見ているこっちまで眠くなるような、気持ちのいい眠りっぷり。
それでも今は授業中であり。
当然のように、教科書を持ちながら、プルプルと怒りで震えている教師がいるわけで。

「…………ぐー……」

呼吸とともにふくらみ、縮むその風船を見て、バキリとチョークを折った。

「……流川!!さっさと起きろ!!」

ぱちん、と風船が割れるとともに、目が開く。
むくりと起き上がって……。

「何人たりとも、俺の眠りを妨げるヤツは許さん……」

「うわぁぁぁぁ!!!」

……教室に、嵐が吹いた。


強いオンナ



先ほどまで暴れていたとは思われぬほどの、安らかな寝顔。
数十分前まで巻き戻したように、そこにある風船。

「…………毎度のことながら、彼の眠りっぷりには感服するわ……」

「寝顔もカッコいいわvv」

ハートの目でラブラブな晴子に、藤井が突っ込む。

「晴子……いいかげん、あんた告白しなさいよ……ちょっとは覚えてるはずよ?」

「キャー!そんなことできないわよぅ」

「……でも、まずこの寝方よね。なんだっけ?ナンピトたりとも?」


「「「俺の眠りを妨げるものは許さん!……でしょ?」」」


完璧にハモったので、ぷっと笑いあう。そして、あ、と松井がつぶやいた。

「……そういえば、あの言葉に唯一勝てる人がいるって聞いたことがあるんだけど?」

「嘘!?……知らないよ?そんな話?」

「私も〜〜!……あれ?……あれって、女バスのさん?」

「あら、ホント。でも、あの人、1組じゃなかったかしら?晴子、友達よね?」

「うん。流川くんの情報もらってたの。富中なのよ。こんなところに、何の用……」

言葉をさえぎるように、大音量の叫びが響き渡る。

「くぉら、この、バカエデ!!!さっさと起きて、私に謝れ!!!」

そして、持っていた教科書を丸めて、バコン、と盛大な音を立てて殴った。
そのあまりの衝撃に、ふっと目が開き、むくりと起き上がって―――

「何人たりとも……」

言い終わらないうちに、さらにバコンと殴る。

「ふざけんな!!あんたのせいで、私の眠りまで妨げられたのよ!!気持ちよく熟睡してるところに、先生からの呼び出し!!怒られるかと思ったら、あんたを起こして来い?上等よ!!起こすどころか、永遠の眠りにつかせてくれる!!」

「……すご……」

晴子たちが唖然とするのも無理もない。
彼のあの寝起きの悪さをものともせずに、ケンカしているのだから。

「む……」

さしもの流川も押し黙って、を見つめる。

「……、顔にセーターの跡ついてる」

「当たり前じゃない、寝てたんだから!で!ごめんなさい、は?」

「……ちっ(ごまかせなかったか)」

「『ちっ』……じゃな〜い!!ご・め・ん・な・さ・い!!」

「ゴメンナサイ」

「棒読み?……い〜い度胸してんじゃない。練習終わった後、待ってなさいよ。1ON1の勝負申し込んでやる」

「ほぅ……売られたケンカは買う」

「あったりまえ。うぁっ。次移動教室なんだ。んじゃ、またね」

どびゅん、と来たとき同様、風のように去っていく彼女。
帰り際に、ひょこっと顔を出して一言。


「起こしに来た駄賃代は、そのカレーパンで許す」


流川は無言でおいてあったカレーパンを差し出した。


珍しく、早くに練習が終わった。
流川はまだきゃあきゃあ言っている女生徒を、ちら、と見て、ため息をついた。
そこに捜し求めている姿はいない。

「遅ぇな……」

ぼそりとつぶやくと同時に、扉が開かれた。

「楓!!さっさと始めるよ!!」

現れた姿に、思わず安堵の息をつくが、すぐにいつもの表情に戻って。

「オメーが遅ぇんだ」

拗ねたようにセリフをはく。

「悪かったよ、部長の話が長くてさ〜〜。ん、やろ?」

「受けてたつ」

キュ、とバッシュを鳴らした流川に、黄色い歓声が飛ぶ。

「……相変わらず、応援がすばらしいこって」

「……さっさと来い」

はにや、と笑うと。

「んじゃ、遠慮なく……」

クン、と右へフェイク。
小さくシュートフェイク、そして左。
今にも抜こうとした足を、ダンッと止めて、シュートの体勢に入る。

「んなろっ……」

ブロックに来たのをみて、にやりと笑う。
右側へ大きくドリブル。
すばやくシュートの体勢に入る。
が。
ボールを放ったとたん、大きな手が飛んできた。
ピシッ、と指先がボールに触れて、進行方向がズレる。

「あ―――!!!」

跳ね返ってきたボールを、当たり前のようにとって、ダンク。
キャーッッッ!!と大きな歓声が体育館内に響く。

「……くっそぅ……」

「……ふん」

「キャー!!流川!流川!LOVE流川!」

流川応援団を見て、ふっと息を吐く。

「……今日はもう帰るわ。ほな、さいなら」

「あ、おい」

とめる間もなく、タオルを肩にかけてスタスタと体育館から出て行く。

「……なんなんだ……」

つぶやくと、すぐに自分もタオルを取って体育館を出た。


上履きを履き替えたとき、ついついはぁ、とため息が出た。
今日はもっと流川とバスケを楽しむ気だったのに。
あんな応援がいたのでは、本来のプレイが出来ない。
それに……
その応援の中に、友達、晴子がいたのを見つけたから。

「……まったく……晴子も厄介なやつ好きになったもんよね……」

幼馴染ということもあって、昔から仲の良かった流川のことならなんでもわかる、と一応自負している。
中学の大会で知り合った晴子は、どんくさくって、でも一生懸命で、かわいかった。
顔を真っ赤にさせて流川のことを聞いてくる晴子を、ないがしろにすることはできなくて。
……ついつい言いそびれてしまったのだ。
流川が好きだということを。

「あ〜ぁ……花道に乗り換えようかな?」

晴子つながりで仲良くなった、赤坊主の顔が浮かぶ。

「……やつもなかなかの腕前だし……やっぱ、バスケが上手くなくちゃね……」

パタン、と下駄箱のふたを閉じると、出口へ向かう。

「やっぱ、180センチはほしいよね……」

念仏のようにつぶやき、ふっと前を見た。
ドン、という音とだんだん低くなる景色―――尻餅をついた。

「ギャッ……たた……」

「……おい」

「ぅげ」

「…………んだ、その言葉」

明らかに不機嫌そうな顔でにらんでくる流川。
は慣れっこなのか、ふん、と鼻で笑うと、

「あっれ〜?いいのかな、スーパーエースがお早いご帰宅なこって」

「……あんなとこにいたら、鼓膜が破れる」

「うわっ……ひどいことをさらっと言うね……」

「……一人で帰るか?」

「別に〜?……ってどうせ方向一緒じゃん。チャリに乗るか乗らないかの差」

ふぅ、と流川は息を吐く。
ポケットの中からキーを取り出して

「……取ってくるから待ってろ」

「リョーカイ!!」

背中を丸めながら自転車置き場に去っていく流川を、ちょっと切ない思いで見送る。

「……はぁ……」

風に消えたため息は、流川のものか、のものか……。


「……う〜……寒い……」

びゅんびゅん飛ばす流川の背中にしがみつきながら、つぶやく。

「オメーは俺のこと風除けにしてるからそんなに寒くないはずだ」

「それでも寒いものは寒いの!!マフラー忘れたし……」

はぁ、と吐いた息が白くなって後方へ消える。
キキィ、と耳に響く金属音を立てて、自転車が止まる。
前を見たら、信号が赤だった。

「う〜……やっぱ寒い……」

流川の背中で風をしのぐ。
ばふ、と黒いものが投げられた。

「……?……あ、マフラー?」

「……さみーんだろ」

「へへっ……ありがとー」

いそいそと首に巻くと、すぐに自転車が出発した。

「…………おい」

「ん〜?」

暖かくなって、ご機嫌になった

「……付き合わね?」

「ん〜…………はぁ?」

「……どーせ、今と変わんねぇけど……一応正式に」

「…………それは、来週の日曜日とかじゃないよね?」

「…………たりめーだ、どあほう」

ぶっきらぼうな言葉だが、見れば耳が赤い。寒さだけのせいではないだろう。

「……うん。付き合う」

「よし」

2人ともお互いの顔は見えなかったが、どんな顔をしているのか、手に取るようにわかっていた。


「あのさ〜……物は相談なんだけど……公表するの?みんなに」

前髪を押さえながら、が聞く。

「あたりめーだろ。そーすりゃ、いつでもオメーの声で起きれる」

「…………!!あんた、確信犯だったの!?」

「たりめーだ。俺を起こすのはオメーだけだ」

「(こいつ、恥ずかしいことを……!)」

「なにか言いたげだな」

「別に!!カレーパンもらうだけだし!!」

「昼飯も、一緒に食うか……」

「そーくるか!!」

ぐんっ、と流川の髪の毛をひっぱる。

「……あのさ、公表するときは、なるべく控えめにね。とくに晴子とかに対しては、穏便にね?まがりなりとも、すっぱりきっぱり言い捨てちゃだめだよ?」

「んでそんなメンドクセーことを……」

「彼女命令!!OK?」

珍しく流川がつまる。頭の中で、『彼女命令、彼女命令、彼女、彼女……』と反芻していた。

「………………しかたねぇ……」

「ん。よし」

にこっとは微笑んだ。
すぅっと息を吸い込む。
そして。

「ごめん!!晴子!!私、楓と付き合う!!!」

誰もいない海に向かって思いっきり叫んだ。
運転していた流川は、ふぅ、と小さく息を吐いて。

「……どあほう」

とつぶやいた。




あとがきもどきのキャラ対談

銀月「ふ〜っ・・・つ、疲れたわ・・・」
流川「あ?なに言ってやがる。更新してないくせに」
銀月「ギク。・・・・・・いや〜・・・ちょっと、ゲームにはまってまして・・・」
流川「・・・サモンナイトだろ?」
銀月「だって、面白いんだもん〜。ドリームまで書き始めたさ!」
流川「(無視)今回から、書き方変わったか?」
銀月「うん。見やすくなった?」
流川「・・・・・・こんな変な管理人のでよかったら、また来てくれ」
銀月「さりげなく酷っ!」