昨日は帰ってこなかった。 今日も帰ってこない。 きっと明日も帰ってこないだろう。 窓から西の山へ沈もうとする太陽をぼんやりと見つめる。 私の同棲相手、仙道彰は、 人気急上昇中のプロバスケ選手だ―――。 誓い 薄暗い夕明かりの中で、電気もつけずにはぼーっと座っていた。 すでに日は沈み、ほんの少しの赤い光が部屋に差し込んで物の位置を示している。 ポーン……ポーン…… 6時を知らす鐘の音が町内に響く。 ぼんやりと耳の奥で聞き流した。 カタッ…… そんな音がしたと思った。 椅子からばっと立ち上がる。 はつけたままのエプロンを外すのも忘れて、玄関まで走った。 暗いリビングについたところで気づく。 『来週まで、俺、帰ってこないから』 さきおとといの彼の声が、頭の中で何度もリピートした。 ヘタッとその場に座り込む。 ははっ……と情けない笑いさえ漏れた。 くしゃくしゃと自分の前髪を握り締めて。 手が届く範囲にあった、写真を胸に抱きしめた。 「……彰ぁ〜……」 喉の奥から出てくるのは、嗚咽と愛しい人の名前だけ。 しばらく座り込んだまま泣いていると、突然の嘔吐感。 写真を手にもったまま、洗面所まで走った。 ザー……と水を流して胃の中のものを吐いた。 誰もいないマンションの部屋。 彰が2人で広く暮らせるようにと買ってくれたマンションは 今のには広すぎた。 バシャバシャと顔を洗ったら、少し気分が良くなってきた。 けれど物を食べる気には全然なれない。 仕方がないから、少しの水を夕飯代わりにした。 電気もつけて、テレビもつけて。 外から見れば、さぞかしにぎやかな夕飯だと思えるだろう。 だけどそこにいるのは1人で。 テレビでは今人気の司会者が面白い事を言って、笑いがテレビの中で起こっていたけど。 一緒になって笑う気には全然なれなかった。 小さなコップを流しにもっていって洗う。 コップ1つを洗うだけでは気を紛らわすもなにもなかった。 相変わらずテレビでは笑いが絶えなくて。 一緒になって笑うことはできないとわかっていた。もちろん電気代の無駄だという事も。 けど、テレビを消して周りが静かになるよりはましだった。 プルルルルルルル………! ビクッとの肩が揺れた。 電話が鳴っている。 よろよろと歩いて電話をとった。 「もしもし……?」 『あ、ちゃん?晴子だけど……』 高校時代からの親友からの電話だった。 「晴子……どうしたの?こんな時間に」 『悪いんだけど、お兄ちゃんが酔いつぶれちゃって……お水欲しいんだけど、今から行ってもいい?』 突然の申し出。だけど、気を紛らわすには丁度良かった。 「うん。いいよ。じゃ、なんか用意しとくね。ご飯はもう食べたでしょ?おつまみくらいでいいかな?」 『いいよいいよ!気にしないで!お水一杯いただきたいだけだから……』 「そう?……後、何分ぐらいでつきそう?」 『う〜ん……4、5分くらい……』 「わかった。じゃ、待ってるね」 『ごめんね〜。じゃ、よらせてもらうね』 「うん。また後で」 プツッと電話が切れた。 ふぅっと息が漏れる。 いいと言っていたが、おそらく赤木の腹は収まりきってはいないだろう。 外したエプロンをまたつけて。 は台所へ再度向かった。 ピーンポーン! ベルが鳴った。 ドアをのぞけば、そこには見知った2つの顔。 「は〜い!今開けます〜!」 ドアのチェーンを外して開ければ、少し赤い顔の晴子と、かなり真っ赤になってぐったりしている赤木の姿があった。 「うわぁ……先輩、どうしちゃったの……」 「それがねぇ……どうも今日の試合負けちゃったらしくて……そのまま飲み屋に直行よ〜……あれ?仙道サンは?」 の顔が少しこわばった。けれど、無理やり笑顔を貼り付けてにこやかに言う。 「来週まで遠征で帰ってこないの〜。ま、あがって」 「あ、お邪魔します〜……へぇ、遠征ねぇ〜……海外?」 「国内だよ〜。でも、九州なんだ〜」 カチャ、と客室の扉を開ける。 「赤木先輩、この様子じゃおつまみも何もないね……とりあえず、一休みしてって」 「ごめんねぇ〜……ほら、お兄ちゃん。ちゃんと歩いてよ」 「あぁ……」 赤木は一言だけつぶやくと、そのままベッドに突っ伏して盛大な鼾をかきだした。 「ほんと、ごめんっ!」 「気にしないでよ〜……あ、おつまみつくってあるんだけど、食べない?」 「えっ……ありがと〜……」 「いえいえ。じゃ、リビング行こうか」 電気を消して扉を閉めた。それでも赤木の鼾は外に聞こえた。 「……うるさくてごめん……」 真っ赤になって晴子がうつむいた。 「気にしないでって。彰も疲れてるとあーゆーふうに……」 そこで言葉がはたと止まる。 「ちゃん?どうかした?」 はっと気づいて、笑顔の仮面をかぶった。 「ん〜ん?なんでもないよ♪ほら、食べよう?」 缶を開けてだしておいたマグロのつまみをテーブルに持っていく。 「ありがとう」 そして、そばに置いてあったイカのフライの袋を開けたときにそれは起こった。 「うっ……」 「ちゃんっ!?」 口元を抑えて洗面所へ走るを、晴子が追いかけた。 苦しそうに吐くの背中を晴子がさする。 吐くといっても、胃の中のものはすべてなくなってしまっているので、出てくるのは少しばかりの胃液だけだったが。 「……ごめ……晴子……」 「ううん。それよりも、平気?」 「大分、収まった……ありがと……」 は、口の中に残る苦い液を洗い流すべく、うがいを何度かした。 「……もしかして、ちゃん……」 晴子の声にがビクッと怯えた目で見上げた。 それでも晴子は言葉を繋げる。 「妊娠……してるの?」 「……うん……」 戸惑って、目を中に泳がせたが、やがてためらいがちに答えた。 晴子がとりあえず、と場所を移動させる。が妊娠している体ならば、なおさら寒い洗面所にいさせるわけにはいかなかったからだ。 「……本当に?」 「ん……検査薬使って調べて……反応があったから、昨日病院行って……3ヶ月だって……」 「仙道サンは?」 ふるふるとは首を振る。 「知らない……」 「検査薬使ったときに、言わなかったの?」 が、更にうつむいた。 「言えなくって……その時、もう彰は遠征の出発を明日に控えてて……すごい嬉しそうで……流川とか、沢北さんとかいたし……」 「でも、いずれ言わなきゃいけないでしょ?……どうするの?」 「どうするって言っても……彰、来週まで帰ってこないし……」 そうじゃなくて、と晴子がやや強めの口調で言う。 「……結婚、してないでしょ?」 「うん……」 「……とにかく、仙道サン携帯持ってるわよね?電話して知らせなきゃ」 立ち上がって電話に手をのばそうとする晴子の手をが慌てて止める。 「ダメッ!今、電話したら、彰絶対帰ってきちゃうから……」 「……ちゃん……仙道サンの負担になるとか思ってない?」 晴子の言葉に、は涙を流したままの顔を勢い良く上げた。 「ちがっ……!」 「嘘。……じゃあ、なんで妊娠してるってわかってても、仙道サンに言わないの?」 「…………」 無言になった。 しばらくすると、泣き声と共に、言葉がぽろぽろとこぼれ始めた。 「だって……だって、彰、私のために一番いい条件出してくれたチーム断って、この前の大事な試合だって、私が体調崩したから、休んじゃって……これ以上、彰の重荷になりたくなかったんだもん……しかも、結婚だってしてないし……」 「……このまま、どうするつもりだったの?」 晴子の問いに、が下唇をきゅっとかんで、答えた。 「……ここ、出ていくつもりなの……そう、明日にでも。荷物ももうまとめたよ」 そこまでいうと、何かを振り切るように、は明るい声で言った。 「ほらっ。私バスケ部だったから、体力もあるし、シングルマザーになれるよっ。長野の田舎に帰って、そこで、静かに暮らしてこうかなぁ……って……思って……たん、だけど……」 ぼろぼろと大粒の涙がこぼれ始めた。 「やっぱ、彰いないと、ダメみたい……で……今日も、たった3日間会ってないだけなのに、寂しくってさぁ〜……1人で寂しく泣いてたってワケ。あはは〜。笑っちゃうよね〜。もうハタチ越えた成人なのに……ほんと、笑っちゃうよ……」 グラッと視界が揺れる。 「大丈夫!?」 「ん……ちょっと休めば、大丈夫だから……ほんと……」 すぅっと寝息が聞こえてきた。晴子は、よっとを肩にかけて、寝室へと運んでベッドに寝かせた。 「……お兄ちゃん……起きたの?」 晴子は、扉の方から感じる気配に呼びかけた。 「あぁ……やっぱり、そうだったか?」 扉の影から赤木が出てきた。先ほどの赤い顔は何処へ行ったのか、いつもの顔で晴子に問い掛けた。晴子は、眠りつづけるを指差して、シー、と合図し、電気を消してリビングへと移動させた。 「やっぱり、妊娠してた……で、仙道サンのこと、聞いてた?」 「あぁ……やはり知らせた方がいいだろうな……」 うーむ、と唸る。 「その心配はいりませんよ」 2人は顔を見合わせて、ばっと声がしたほう―――ベランダを見た。 そこには、温かそうなフード付き毛皮のジャンパーを着た仙道彰が、当然の如くベランダの手すりに座っていた。(ちなみに、ここは3階だ) 「……仙道っ!?」 「コンバンハ、赤木サン」 よっと手すりから降りて、ガラガラと扉を開けて中へ入る。 「仙道、お前なんでここに……っ!」 ポリポリと、頭を掻きながらソファへと座る。 「どーも、出発の時のがおかしかったんで……戻ってきちゃいましたvv」 「戻ってきちゃいました、ですむことじゃなかったんだろ?」 「いやぁ〜……ほんとは、様子見て帰る予定だったんですけど……これ以上、に無理させるわけにはいきませんしね。さっき、携帯で向こうにいる越野に『遠征、悪いけど抜けるわ』って伝えましたよ」 「……いいのか?」 仙道は、にっこり笑って赤木に言った。 「なにがですか?『妻』の体を一番に思うのは、『夫』として当然の事でしょう?今のだったら、なおさらですよ」 そういって、ヒラヒラと『婚姻届』とかかれた紙をふる。 赤木は、ふっと口元を緩めて笑った。 「そうだな……それじゃ、晴子。帰るぞ」 「えっ……うん……じゃ、仙道サン、また……」 バッグを手に取り、先を進む兄の後ろについていこうと、やや早足で廊下を歩く。 「わざわざ、スミマセン。のこと、心配してきてくれたんでしょう?」 赤木は、靴紐を結ぶ手を止めていった。 「さぁ?俺は、酔いつぶれてここに来ただけだがな」 「それはそれは……」 「それじゃあな。……結婚式には呼べよ」 「もちろんですよ」 キィ、とドアを開けて赤木たちが出て行くのを見届けると、仙道は表情を固くして、『妻』が眠る寝室へと向かった。 規則正しく眠るの姿が、青白く暗闇の中に浮かびあがった。 「ん……」 入ってきた人間の気配に気づいたのだろうか。 が声をあげた。 「……晴子?」 仙道は、答えない。 「ごめんねぇ〜……来てくれたのに……あ、田舎帰ったら、また改めて住所送るから。子供が生まれてからになるだろうケドさ……彰にも、生まれてから、言うつもりだし。だから、気にしないで、ね?」 無理に繕うような笑い声。 仙道は無言でを抱きしめた。 「―――?」 広い胸板に呆然とする。 「あき、ら……?」 「……そうだよ」 はは、と乾いた笑い声がの口から漏れる。 「嘘だよ。だって、彰は、今九州に……あ、赤木先輩でしょ?やーだなぁ、モノマネなんかしちゃって……そっくりですけど」 ぎゅっと更に力をこめた。 その腕の感触と、胸の鼓動にの笑い声が消えていく。 「…………彰、なの?本当、に?」 「……そうだよ」 答えて、の唇にキスを落とす。 その慣れ親しんだ行為に、はぶわっと涙を募らせた。 「……なんでぇ……?なんで、いるのぉ……?また私、彰の邪魔……また……!」 「邪魔なんかしてないよ……」 キスして、下唇をかんでやる。きゅっと軽い音がした。 「俺は、俺がここにいたいからここにいるだけだよ。……の隣にいたいから。……なのに、なんで出て行くとか言うの?……なんで、子供の事、言ってくれなかったの?俺が、そんなに信用できなかった?」 「ちがっ……違うよぉ……だって、彰、私のためにいろんなこと我慢して……これ以上、彰に迷惑かけたくなかったのぉ……!」 腕の中で震え、泣くをそっと抱きしめ、涙を舌ですくいとった。 「……全然迷惑なんかじゃないよ?のためだったら、俺、どんなことでもできる。……がいるから、俺はここまで頑張れたんだ」 「でも……でもぉ……!」 「のためだったらなんでもできる。……子供にだって、父親が必要だろう?」 「……でも、結婚してないし……」 あ、そうだった、と仙道はジャンパーのポケットから包みを取り出す。 「本当は、もっとオシャレなレストランとかで言いたかったんだけど……」 そういって、に包みを開けさせる。 そこには、眩しいくらいの白く、透明な輝きが待っていた。 暗闇の中で、キラキラと月の光を浴びて輝くダイヤモンドの指輪。 仙道はその指輪をとって、の左手の薬指につけ、軽くキスをする。 「……結婚してください」 いつもの真面目さのかけらのない顔じゃない。 真剣そのものだ。 自分で、ぶわっと涙が浮かぶのがわかった。 「……もちろんです……」 涙が溢れ出るけど、最高の笑顔で。 はしっかりと言った。 月の光と、左手の薬指の透明の光。 その光に包まれながら―――。 二人は強く抱きしめあった。 数ヵ月後、赤木家他に、結婚式への招待状が届いたのは言うまでもない。 あとがきもどきのキャラ対談 仙道「……俺、最後のほうにしか出てきてないんだけど……」 銀月「(ギクッ)……あはは。まぁ、気にしないでっ!……にしても、あんた、よくダイヤモンド買うお金があったねぇ〜……」 仙道「俺を甘く見ないで欲しいな♪のためだったら、本当になんでもできるから♪」 銀月「……この、ラブラブ夫婦め……」 仙道「その、ラブラブ夫婦の後日談(?)を書こうとしてるくせに、何を言うんだ……」 銀月「(ギクギクッ)……なんで知ってるの?」 仙道「俺にぬかりはないよ?……とのラブラブを、また小説にしてのっけるかもだから、よかったら、使って欲しいネタとか銀月にメール送ってねvvそれが小説になってでてくるかもvv、さぁ、行こうか」 銀月「……はい。書くかもです。ってゆーか、正直に言うと、『書きたい』です。なので、ネタとか感想とか送っていただけると、非常に嬉しいですっ!」 |