「「はい?」」

俺の声に、その場にいた2人の人間が反応した。
氷帝のと、スタッフのさんだ。
俺が呼んだのは、前者。

「あ、いや……申し訳ない。…………

「あ、私ね!うん、どしたの?」

……ではなくて……、が小走りで近寄ってくるまでの間、近くにいた不二が俺につぶやく。

「手塚……そろそろ慣れようね」

「……以後、気をつける。……、ちょっといいか。グリップテープを巻き直したのでハサミが欲しいんだが」

「はいはーい。あ、ゴミもらおうか?」

「あぁ。すまない」

グリップテープについていたビニールをに渡す。
は自分のポケットにそれを突っ込み、反対の手で器用にバッグの中からハサミを取り出した。
渡されたハサミを受け取ると同時に、何かを思い出したような表情をする。

「あ、そーだ手塚くん。一応、手塚くんがいるコートの近くにあるクーラーボックスに、氷のう入れてあるから、もしよかったら使って」

「…………助かる」

ちゃん、ちょっとえぇかなー?」

「はーい!あ、じゃ終わったらハサミ、ベンチの上に置いといて!後で回収にくる!」

「あぁ、わかった」

俺の言葉に笑みだけで返答し、は呼ばれた方へ走っていく。
呼び声の主である白石と二言三言交わした後、大きく頷いて白石と共にベンチへ座るのを見ていると。

「……いいね彼女。……奪いたくなるね」

隣にいた不二が、そうつぶやいた。

「相手は跡部だぞ。……だが、気持ちは、わからないでもない」

「へぇ……手塚もそう思うのかい?」

……彼女を見てそう思わないヤツがいたら、ぜひお目にかかりたいものだ。

そう思ったが、言葉には出さない。
結果、俺は無言のまま不二を睨むような形になった。

だが、不二はそれを物ともせず―――逆に、面白そうな笑みさえ浮かべる。

「ふふ……手塚……手、止まってるよ」

不二に指摘され、俺はハサミを持ったまま動かしていないことに気付いた。

「…………わかっている」

何かを誤魔化すように、少し勢いをつけてグリップテープにハサミを入れた。