「なぁ、ちゃん。ホンマ、どこで習うてきたん?そのマネージャーテクニック」 俺の腕にほどけてしまった包帯をくるくると巻いているちゃんを見て、ためしに聞いてみた。 「へ?マネージャーテクニック?なにそれ?」 「なにそれ、って……こーゆー処置の仕方とかもそうやけど……なんていうか、視野の広さっちゅーんかな……どっかトラブってるとこを見つける能力とか、今誰がどんな状況やとか……把握してるやん?なんかの特殊能力?なんて技名?」 「やだなー、そんなのないよー。私、みんなと違って、普通の一般ピープルだもん」 とか軽く話しながらも、その手は止まらへん。 ……と思ったら、一端左手で俺の包帯を止めたかと思たら、近くにあったタオルを取り上げた。 ?と疑問符を浮かべて成り行きを見守っていると、こちらへやってきた人間に向かってそれを渡す。 「あ、、ありがとー!」 「おつかれ、ジローちゃん」 ニカーっと笑う芥川クンに、同じように満面の笑みを浮かべるちゃん。 その笑顔がやたらと幸せそうで、思わず誤魔化されそうになったけど……ちょお待て、俺。 今のかて、おかしいやろ。 芥川クン来る前、俺の腕見て、包帯巻いとったやん。 俺と話してたし、完全に意識はこっちだったやん。 ……いつ気付いたん、こっちに来る芥川クンのコト。 「…………いやいや、もはや普通の人間じゃ通らないレベルやで、君の能力」 「はは、ホントにそんなことないって!残念ながら、まだまだ言われて動くことも多いし」 「そら、合宿入って数日でカンペキやったら怖いわ。ここのトレーナーさんたちやってそないな人おらへんし。どこで習得したん?」 「習得って言っても……ま、ある程度氷帝テニス部でやってきた経験……が役に立ってるのかな?『慣れ』である程度の事態は予測できるようになったし、この場合はどんな風に対処すればいいのか、とかわかってきたのかも。……応急処置とかはそれこそ数をこなしたしね」 包帯の巻き終わりをきちんと止め、ぽん、と一叩き。 俺の腕の包帯は、他の誰にやってもらった時よりも、きっちりと巻かれとった。 「……全然ずれへん。ほどける気ィせぇへん」 「ん〜、そうだといいんだけど……白石くんの運動量だと、ほどけちゃうかも。ま、ほどけたらまた声かけて!」 「おおきに」 「いえいえ。後はなんもないね?」 「いや……重大事項がまだあるで」 「ん?」 「……ちゃん、俺んとこ嫁に来ま「白石ィ!次、ワイとやでー!早くラリーしよーやー!」 「…………金ちゃんマジ空気読めへん……」 ドデカイ声に遮られ、ガックリと俺は肩を落とす。 「白石くん?どしたの?」 「……また後で言うわ。ホンマ、おおきにな」 「いーえ!頑張って!」 そないなニッコリ笑顔見せられたら…… あかん。俺、ホンマちゃん欲しゅうなってきたわ。 「白石ィ!」 「わかっとる、今行くわ!……ったく、金ちゃん、覚悟しとき!」 「うわっ、なんなん!何怒っとるん!?毒手は勘弁や〜!」 アホ、そないなもんで勘弁される思たら、大間違いやで。 ちらり、とちゃんの方を見ると、ちゃんはおかしそうに笑った後にヒラヒラと手を振ってきた。 それが合図みたいに、次の瞬間には身を翻して走りだす。 きっと、また仕事を見つけたんやろ。 思いがけずたくさん見ることが出来た笑顔に、ほんの少し緩んだ俺の口元。 さっき包帯を巻いてもらった手で、そっと隠した。 「しーらーいーしー!」 「はいはい!我慢のできん子やなぁ、金ちゃん!」 俺はラケットを握り、走っているちゃんの姿を視界に入れながら、コートへ進んだ。 「よっしゃ、行くで、金ちゃん」 「おー!」 基本に忠実に、キレイにボールを空へと上げる。 視界には、ボールと青い空だけ。ちゃんの姿は映らない。 パーン、と音を立てて、ボールを打つ。 とにかく今は、一世一代の告白を邪魔した金ちゃんしばいとこか。 |