The Manager of Tennis feat.木手永四郎



さん、バンソーコー、いただけますか」

「あぁ、木手くん。マメつぶしちゃった?」

「えぇ」

「じゃ、すぐ消毒しちゃうから、ちょっと座って」

言われた言葉に頷いて、俺は近くにあったベンチに腰を下ろした。
その間に彼女は肩から下げていたショルダーバッグから、消毒液とコットンを取り出す。

「しみるけど我慢ね!」

言うのと消毒液がマメにかかるのとが、ほぼ同時だった。
思わず眉を潜めるほどのビリビリとした痛みが傷口から広がっていく。断りの一言の軽さについて文句でも言おうと思ったが、彼女はその時間を与えてくれず、すぐに垂れた消毒液と血を手早く拭き取った。
続けざまに彼女はバンソーコーを貼り、テーピング用のテープを短く切る。

「やってるうちにテーピングも取れてきちゃうとは思うけど、ないよりマシだから!」

そう言って、バンソーコーの上にテープをぺたりと貼付けると、彼女はこちらをまっすぐ見た。

「おっけ!これで大丈夫!」

ニコリ、と笑った顔。
その顔に文句を言うことを忘れてしまい、言い知れぬ安心感を抱いた自分に気がついた。
もし怪我をしても、適切な治療をしてくれる人間がいる(多少手荒だろうと)。
その事実は、思う存分自分がプレイに集中できる環境であることを、自覚させた。

「……助かりました。ありがとうございます」

「いえいえ」

ー!そこにあるクーラーボックスとってってコーチが言ってるー!」

「はいはーい!」

俺の処置が終わるやいなや、違うコートから聞こえる容赦無く聞こえる声。……彼女が働きづめであることを無視した要求。
しかも、ちらりと見たクーラーボックスは、明らかに女子が持つには超過したサイズ。

「……手伝いましょうか。女子が持つには大きいでしょう」

「ん?あはは、ありがと!でも大丈夫。私、女子は女子でも規格外だから!」

そう言って彼女は、グンッと勢いをつけて、重いクーラーボックスを持ち上げた。
それと同時に叫ぶ。

「コラー!ブンちゃん!練習中にドーナツ食べなーい!!」

「ゲッ、見つかった!」

隣のコートにいる丸井くんに注意をした後、再度こちらを見て笑った。

「木手くん、ありがと!またなんかあったら言って!」

重いクーラーボックスを持って、駆け足で去る彼女。

「……やりますね」

そう言わずにはいられなかった。