ちゃん、やっるぅ〜!」

「当然だろぃ、なぁ?」

「ぜひ手合わせをお願いしたいものですね、んふっ」

「ねーちゃん、めっちゃカッコえぇわー!!!な、な、ワイと試合してくれへん!?」

勘弁してください

みんなと手合わせしたら、私の身が危ないよ!!!(絶叫)



Act.19   分の手で、掴み取る居場所



コートを出た私たちを、みんなが取り囲んでくれる。
勝手な行動をしたのに、受け入れてくれたことが嬉しかった。

「おつかれさん、ちゃん」

「わわっ、ありがと侑士」

侑士が、ほい、と渡してくれたタオル。
いつもとは立場が逆だな、と思いながらも、ありがたく受け取って使う。

「いいテニスだった。また少し上達したようだな、

「真田くんにそう言っていただけるなんて光栄です……!」

「なかなかやりますね。鍛えがいがあります……沖縄来なさいよ」

「い、いずれ旅行ででも!」

みんなの労いの言葉。嬉しいけれど……なんだかくすぐったい。

先輩のプレイ、初めて見た。……やるじゃん。俺ともやろーよ」

「遊び程度なら。リョーマくんと本気でやるのは無理だから(キッパリ)教えていただけるのは歓迎ですが!」

「チェッ……なら、ツイストサーブ教える」

今回は相手の方が、わりと(ここ強調)普通の人だったから出来たのであって、テニスのことばっか考えてるテニスバカのみなさんとは対戦できません……!
あ、でも教えていただけるのは大変光栄です!

「……これだけいろんなヤツに教わったら、最強のプレイヤーが出来るんじゃない?」

「ほな、女子プレイヤーとして活躍するのもえぇんちゃう?」

そんな恐れ多いことを言うキヨと白石くん。

「いやいやいや、みんなと一緒にしないでくださーい……」

教えてもらえるだけで、みんなみたいにすぐに吸収できるわけじゃないですから!
マネージャーだけでいっぱいいっぱいですから!!!

「越前の前に、俺がクイックサーブ教えます!リズムと共に!」

「意味わかんないッス。俺の方が絶対いい教え方できるッス」

「生意気言うな、オチビのくせに〜」

「身長関係ないッス、英二先輩」

「ケンカなんて見苦しいですね。……さんには、俺がビッグバンサーブを教えましょう」

「抜けがけ禁止っちゅー話ですわ」

さすが青春真っ盛りの中学生男子。あっという間にわいわいと何か言い合いだした。あれ、私ポツーン……?
まぁいいか。イケメンたちを観測する、絶好のチャンス!

ここぞとばかりに、なんだか言い合っている王子様たちを見つめていたら、

ちゃん」

違う方向から、声がかかった。
その声の主がビックリする人物だったので、

「は、はいぃっ!」

Noォォ……思わず声が裏返った……!

「試合、見てたよ」

笑いながら近づいてくるのは、入江さん。
……うぁぁぁ、入江さんまで見てたのかぁぁぁ……!!

「あ、はいっ、勝手にすみません……!ホントは私的な試合は禁止なんですよね……!」

高校生相手に楯突いて、挙句の果てに入江さんにまで見られてる……!ぎゃあぁぁ、なんとも弁解しようのない展開……!
先程までのんびりとイケメン鑑賞をしていたのはウソのように、私の頭の中はグルグルと思考が渦巻く。

「あのっ、私が勝手にしたことなので、景吾とか他の子には全く悪いところはなく……!」

焦ってアタフタしている私とは対照的に、入江さんは穏やかに笑ってくれた。

「まぁまぁ落ち着いて」

お、落ち着けませーん!!!!(絶叫)
あわあわする私を見て、入江さんはクスリと笑う。

「大丈夫……今回に限って、僕は咎めるつもりはないよ。主となっていた君はマネージャーだからね。……それに、どうやら悪いのは彼らのようだ。同じ高校生として謝っておくよ。……ごめんね」

「いえっ!そんな!入江さんに謝っていただくことでは決してございません……!」

頭を下げた入江さんに対して、さらに焦る私。入江さんよりも深く頭を垂れなければ……!(混乱)

「少しでも君の仕事ぶりを見ていたら、あんな言葉言えないことくらいわかる。……そして、君のテニスを見て、君がどれだけテニスを愛し、彼らを見てきたか、わかったよ」

「……へ?」

予想だにしていなかった言葉の羅列に、私は間抜けな一言を発した。
おそらく疑問符だらけだろう私の顔を見て、入江さんはかすかな笑みを浮かべた。

「君は中学生だけでなく、僕ら高校生のことも気遣ってくれているからね。……改めて、これからもよろしく」

「……こちらこそ、よろしくお願いします」

私の答えに、入江さんは今度こそ満足そうにニコリと笑った。
そのまま「じゃあ」と一言告げて、踵を返して歩き出した。

入江さんの言葉の意味を、全部理解できないまま、その後ろ姿を目だけで追う。
ぼんやりと追っていった視線の先に、佇む徳川さんがいた。

徳川さんはこちらに、真っ直ぐな視線を向けていた。
射抜くような視線を。

……地面を踏みしめて、それを、受け止める。

しばらく視線を交わし合った後、徳川さんは身を翻して、入江さんと共にコートを背にした。

張り詰めた緊張感から解かれる。
そうしてようやく、自分の置かれた状況に変化がおこっていることに気付いた。

「…………?……あ」

周りの高校生たちが、私を見ている目が試合前とは違う。
今までは、歯牙にもかけない、という扱いだったのに。
ほんの少し、それが変わっていた。

もしかして。
…………認められたのだろうか。

徳川さん、入江さん、実力者の二人に一応認められたことで、周りの高校生たちも、少しは……見る目を変えてくれたのだろうか。

私は、ここにいて、いいのだろうか。

―――ぽん、と頭の上に手が乗った。

「これで、お前の立ち位置が確立したな」

「……ここにいる高校生に認められたってことで、いいのかな?」

「あぁ。…………やるじゃねーか。上出来だ」

「へへ……景吾さんのお力のおかげです」

「俺はほんの少し手助けしただけだ、汗すらかいてねぇ。……お前、互角に戦ってたぜ」

「そーそー!!俺の言ったとおり、ちゃーんとポーチボレー出れてたじゃんかー!よしよし!」

がっくんがキラキラ笑顔で褒めてくれた。
あぁ、私、この笑顔を見れただけで、頑張ってよかったと思える……!(ガッツポーズ)

「やっぱり先輩のラリーは丁寧ッス。俺も見習うッス!」

「またまた〜。桃ちゃんてば褒めるのうまいんだからー」

「ふむ……の戦略に幅ができていたな……いいデータが取れた」

そのデータは何に使うの、柳くん……!

がやがやとみんなに囲まれて。
私は溜めていた息を、ゆっくりと吐いた。






いろんな奴らに囲まれているを、どうやって攫おうか算段を立て始めた頃、そいつらから一歩離れたところに幸村がいることに気付いた。

相変わらずの食えねぇ笑顔でたちを見つめている。
その視線はどこか遠くを見るようで……何を見ているのか、何を考えているのか。
幸村……コイツは、本心がまったく読めねぇからつい警戒してしまう。

そんな俺の心中を知ってか知らずか。
俺が見ていることに気付いた幸村は、笑顔のまま俺の方を向いた。

「……あの子が頑張れたのは、君のため、かな?」

こちらを探るような視線。問いかけ。
どんな答えを求めているのか、窺い知れない。
だが、今それを知る必要もないし、答える必要もない。

―――なぜなら、この問いに対する答えは、おそらく、コイツの想定範疇外。

だから、俺はニヤリ、と微笑んでみせた。

「肯定したいところだが……ま、それだけじゃねぇんだよな」

「?」

俺の笑みを訝しんでいるのか。
幸村の表情が、少し緊張を含む。

は氷帝の一員だぜ?」

こんなこと、俺が言うのもなんだが……

笑みを湛えたまま、俺は、断言する。

「負けず嫌いの奴らが集まった中で……アイツも、俺らに負けねぇくらいの、負けず嫌いだ。……勝つために、アイツが頑張るのは当たり前だろ、あーん?」

俺の言葉に、幸村の目がほんの少し見開かれる。
いつの間にか近くにいた忍足が、便乗して笑った。

「負けてもわりと平静を装うとするけど……結局、悔しそうな笑顔で『もう1回!』っちゅーんが可愛いんよなー」

「もちろんテニスだけじゃねぇ。……日常生活でも、この合宿でも。……アイツの負けず嫌いは、俺らに勝るとも劣らない」

「…………なるほど」

クスクスと笑う姿。
……それは、きっと、幸村の心からの笑顔。

中学生が背負うにはあまりにも重すぎる『病気』という辛い試練。
それを乗り越え、ある意味で並の中学生とは一段階違う場所に君臨する幸村の、中学生らしい笑顔だ。

「負けず嫌い度で言えば、立海も負けてはいない。……負けず嫌い同士、いい勝負ができそうだ」

自信を含ませた幸村の言葉に、俺らも笑った。

「望むところだぜ」

この合宿は、
これからが新たなスタート。




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