「今日は天気もいーし、久しぶりに屋上で飯食おうぜ!授業も最後だしよ!」 4時間目が終わってすぐのこと。 がっくんが私たちの教室に飛び込んで来るや否や、そう叫んだ。 「そーやな……久しぶりの青空やんなぁ」 「まぁ……別にかまわねぇが」 「……おーけい」 ちょっと反応が遅れたのは。 ………………教室中の熱い視線(痛い視線とも言う)が突き刺さってたからだよ。 慣れたけど、ね! 最初の頃こそ、みんなでお昼ご飯を食べていたのだけれど。 最近は、移動教室の関係や、時間がないことから中々みんなでご飯、っていうことが出来なかった。 だから、今日は久しぶりのみんなでお昼ご飯。……久しぶりなのに、1学期最後の授業の日なんだけど。 「、それ、何〜?」 ジローちゃんが隣で、私のお弁当箱を覗きながら問いかけてきた。 指し示されたおかずをぱくっ、とかじって、これがなんなのか探り出す。 「……んー、ハンバーグ……かな?あ、ウズラのたまごが入ってるみたい」 「試食立候補!」 「俺も、俺も!」 バッ、とジローちゃんが挙手して、次いでがっくんも挙手。 『試食立候補』って……また、可愛いんだから、ジローちゃんってば……!(萌) 「うん、いーよ。あ、ジローちゃんの煮物もおいしそーだねvv」 「これ食べていーよ、交換しよ〜。…………って、ウマー!なにこれ!めちゃウマー!!!」 「あっ、ジローずりぃ!俺も…………うわっ、なんだこれー!」 「シェフ特製お弁当だからね……ふふ……」 今日もシェフ特製お弁当。 最初はお重にお弁当詰められてて、ホントビックリしたんだよ……すぐに耐え切れなくて、スーパーで購入したプラスチックのお弁当箱に入れてくれるようにお願いしたけど。 プラスチックのお弁当箱に入ってるのは、一見普通のお弁当の中身っぽいけど、実際は違う。 ……きっと、今日のこのハンバーグとかだって、どこどこ産のランクAのお肉とかだったりするんだよ……(遠い目) ちなみに、景吾も同じお弁当を食べてたりする。お弁当箱は、私のお弁当箱のワンサイズ上の色違いのヤツだ。気を利かせて(かどうかはわからないけど)、私がお弁当箱を買って来た翌日、宮田さんが買ってきていた。『……安そうな弁当箱だ』と最初に文句を言ったワリには、律儀に使っている。……まぁ、ただ単にお重を持ってくるのが、重かったっていうのもあるだろうけど。 もぐもぐとジローちゃんに貰った煮物(おふくろの味……!)を食べていたら、ちょうど向かい側に座っていた侑士が口を開いた。 「跡部の弁当とちゃんの弁当って、微妙に中身、違うんよな〜」 「げ。マジかよ、それ?」 「うん……1人分作るのなんて大変なのに、シェフが頑張ってくれて……!同じでいいのにね……」 「まったく同じにしたら、楽しみがねぇだろうが。……、それ」 「あ、ローストビーフ?景吾のには入ってないの?」 「入ってたが、食った」 「……どうぞ、好きなだけお食べください」 ん、と頷いて、黒いお箸(漆塗りの超高級箸)を伸ばして来た。 「じゃ、後でデザートちょっとちょーだいvv」 今日のデザートは手作りゼリーだってハンスが言ってた。ちなみに、景吾の分のデザートは違うシェフが作ってるのは調査済みよ……!(しかも、オーブンを使ってるのも見た!)ふふふ……!ってことは、ちょこっと貰えば2つのデザートを味わえる!なんだろ、焼き菓子?いやいや、もしかしたら焼きプリンかもしれない! 「そういえば、俺、新作のムースポッキー買って来た!」 ゴソゴソ、とジローちゃんがカバンからムースポッキーを出した。 ……おぉ、見たことないヤツ! 「えへへ〜、さっき食べたけど、おいしかったよ〜」 「あ、俺もミントガムの新作買って来た。コイツは食後にな」 亮も新しく出たミントガム(息すっきり〜って宣伝してるヤツだ)を出していた。 「ったく……テメェらの頭には、規則ってもんのカケラもねぇな」 「かったいこというなよ〜、へぇ、抹茶味か、美味そうだな!」 すでにお弁当を食べ終わっていたがっくんが、ムースポッキーに手を伸ばした。 「…………あ、やっぱりここでしたか」 唐突に屋上の扉が開いた。 扉を開けて入ってきたのは―――チョタと若、そして樺地くん。 「あれ、みんな、どうしたのー?」 チョタたちはお弁当を食べ終わったらしく、お弁当箱自体は持ってないけど……代わりに、なにやら大きな包みを持っていた。 「父が出張から帰ってきたんで、そのお土産です。おすそわけを、と思いまして」 ぱこ、と開いた箱には、おまんじゅうが詰まっていた。 これは……有名な、京都の高級お菓子……!私でさえ知ってる、超有名どころ……!お値段も味も超一級品、ってヤツだ。 「わー、おいしそー!」 「まだまだあるんで、たくさん食べてください」 言葉の通り、チョタの手にはまだまだ箱があった。 ……そういえば、チョタの家もお金持ちだった……。 ジローちゃんやがっくんが、一斉にお菓子に群がった。 「あ、チョタたちも座りなよ〜」 「すみません」 「……どうも」 「……ウス」 樺地くんがゆっくりと歩いてきて景吾の隣へ、若はストンと私の隣に腰を下ろし、チョタは亮の隣へ。 「やっぱり、和菓子に限りますね……」 若がぽそ、と呟きながらおまんじゅうを食べていた。おいしいからか……ちょっとだけ表情が緩んでる。かーわいー……! 「なんだよ、この大所帯。結局いつもと同じかよ……」 「ホンマ、イヤんなるくらい顔つき合わせとるわ」 「ま、仕方ねーんじゃね?それがテニス部だろ!」 「気がついたら集まってますよね……これも学園七不思議になりそうだな……」 本当に、気がつけばテニス部ってば集まってる。廊下にいると、いつの間にか2人、3人と増えていたり。 まぁ、みんな一緒にいる、それが普通になっちゃってるんだけれども。 「ん」 いきなり腕が突き出されたので、ドキッと心臓が跳ねた。 でも、目に入った腕時計は、おそらく1番見慣れたものだったので、すぐに動悸は治まる。 「景吾……何?」 「デザート」 なるほど、突き出された小さな入れ物は、デザートが入ってるものだ。 景吾の今日のデザートは……わぉ、ワッフルだー!これだからオーブンを使ってたのね……! クッ、と喉で笑う声が聞こえた。 「……全部やるよ。そんな顔されちゃ、な」 「えっ、そ、そそそんな…………いいの?(誘惑に負けた)」 「あぁ。……その嬉しそうな顔で、満足だ」 「!?」 ボソリと小さく呟かれた言葉に、顔が赤くなるのがわかった。 この人は、相変わらずこんな言葉をスラスラと……! 「あっ、また跡部がになんか言ってる〜」 「なんやてっ!?ゆるさん、跡部……」 「何をしたのかわかってねぇのに、むやみやたらと人を疑うなよ、バカ眼鏡」 「自分やからやろ!」 「(無視)そーいえばさー、は月曜からの夏期講座、取った〜?」 「え?う、うん、取ったよ〜。大体あれって、ほぼ強制じゃん」 ナチュラルにみんな、景吾と侑士の言い争いは無視する。 ……まぁ、最近、日常茶飯事になってるからねー……仲いいかと思えば、仲悪くなるし。男の子はわからんね……! 同じくナチュラルに無視したがっくんが上を見上げながら答える。 「だよなー……あー、めんどくせー。あ、そーいや、お前ら、英語の選択、どれ取った?」 「リスニング、だったと思う……」 「マジマジ!?俺もリスニング取ったCー!一緒のクラスで出来んじゃん!」 「俺も俺も!よっしゃー!一気にやる気出たぜ!」 「なんだよ、お前ら……そこはライティング取っとけよ!」 「やーい、宍戸ライティングなんだー。俺ら、とリスニングの授業受けるもんねー」 「クラス違うから、唯一クラスごっちゃになるこーゆー時こそ、狙い目だぜっ!バーカバーカ」 「ぐっ……テメェら、どーせ授業中は寝てばっかなんだろうが!激ダセェところ、に見せる分には構わねぇが、それでに迷惑かけんじゃねーぞ!?」 騒がしい昼休み。 いつもどおりの、木曜日のことだった。 |