ナ:今は昔、竹取の翁と呼ばれた男が野山にわけいり、竹をとって、いろいろなことに使い、暮らしていました。 翁登場。竹やぶの中を歩く。 ナ:ある日のこと、竹の中に光る竹を見つけました。のぞいてみると…… 翁「なんと!可愛い女の子がいるではないか」 ナ:子供のいない翁は連れて帰って、妻と二人で大切に育てました。この娘は、わずか3ヶ月で、美しい娘に成長しました。輝くばかりに美しいので「かぐや姫」と呼ばれるようになりました。 暗転。 かぐや姫、シルエット。 ナ:やがて、噂を聞きつけて多くの男性が妻に迎えたいと思いました。 石作「かぐや姫をぜひ妻にさせていただきたい」 車持「いやいや、私の妻に」 阿部「我が妻になれば、何不自由ない生活を保障いたしましょう」 大伴「共に暮らしていただきたい」 麻呂「我が生涯の伴侶に」 ナ:なかでも特に熱心な5人の貴公子が求婚しましたが、嫌がったかぐや姫は、それぞれの貴公子たちに当時極めて貴重な宝の品とされている難題の品の提出を求めました。 石作にスポット。 かぐや声「あなたは仏の御石の鉢を」 車持にスポット。 かぐや声「あなたは蓬莱の玉の枝を」 阿部にスポット かぐや声「あなたは火鼠の皮衣を」 大伴にスポット かぐや声「あなたは龍の宝玉を」 麻呂にスポット かぐや声「あなたは燕の子安貝を」 暗転。 ナ:どれも伝説上の存在で簡単に手にはいらないものばかりです。まず、石作皇子は、 石作にスポット。 石作「今日天竺に石の鉢をとりに行きます」 ナ:……と告げて、大和の山寺に行きました。3年たって、偽者の鉢を持参しました。もちろん、かぐや姫にはそれが偽物だということがわかり、求婚は失敗しました。 暗転。 車持にスポット。 車持「蓬莱の玉の枝……ないというのなら、私が作ってみせよう」 ナ:車持皇子は蓬莱の玉の枝が伝説上の存在で実際にないことがわかったので、わざわざ職人を呼んで金や銀の珠をつけた枝を作らせました。しかし、いざかぐや姫にそれを持って行ったときに、職人たちが給金を求めてやってきたので、すぐに作り物の枝だということがばれてしまいました。 暗転 阿部にスポット。 阿部「火鼠の皮衣……金で手に入らぬものはない」 ナ:阿部御主人は大金を支払って火鼠の皮衣を手に入れましたが、かぐや姫に差し出したときに燃えないとされるはずの衣がいとも簡単に燃えだしたため、偽物だとわかって諦めました。 暗転。 大伴スポット。 大伴「龍の宝玉をとるまでは帰って来るな」 ナ:大伴御行は家来にそう申し付け、出発させました。なかなか帰ってこない家来を待ちかねて「待ってはおれぬ」と、自分も船に乗り、あちこち遠くの海を廻りましたが、その途中で大嵐にまきこまれ、命からがら陸にもどりました。 暗転。 麻呂にスポット。 麻呂「屋根の上に燕の巣が?……よし、私が登ろう」 ナ:石上麻呂はかごに乗って屋根の上にあがり、巣のなかに手をいれました。中をさぐって手に平たいものが当たったので、家来たちにかごを降ろさせようとしたところ、綱が切れて石上麻呂はそのまま落ちてしまいました。 すごすごと立ち去る5人の貴公子。 暗転。 ナ:このようにして、かぐや姫の求めた難題に求婚者たちは、すべて失敗し、かぐや姫は、求婚を切り抜けました。 帝にスポット。 帝「なに……?そのように美しい娘がいると……ぜひ、我が妻にしたいものだな」 ナ:次いで、この話をきかれた時の帝もこの家に立ち寄り求愛されます。とうとう訪れたこの事態に、翁たちはかぐやに諦めて結婚したらどうか、と促しました。しかしかぐやは嫌がりました。 帝「ぜひ一度、娘に会いたい」 ナ:それでもかぐやに会いたいと願った帝はかぐやの元へ行きます。そこでかぐやは一瞬にして目の前から消えさる、という地上の人間ではない、というところを見せ、帝の求婚も拒否します。 帝「ならば、せめて和歌のやりとりでもしようではないか」 暗転。 ナ:そうして、かぐやと帝は和歌のやり取りを行いました。そのやりとりも3年の年月を数えた頃、かぐや姫は、月の美しく出ているのを見ては、物思いにふけるようになりました。かぐや姫は月の都に帰って行く時期が近づいたのを知り、やるせない別離の情に、胸を締め付けられる思いの日々をすごしていたのです。 かぐやにスポット。 かぐや「(ため息)」 翁「どうしたのだ、かぐやよ」 ナ:かぐやの様子を不審に思った翁がかぐやを問いただします。 かぐや「私は実は……月の都の人間なのです。次の満月に、月へと帰らねばなりません」 ナ:翁はかぐやの告白に愕然としました。 翁「かぐやを月へ帰したくはない……」 ナ:翁の意図を組んだ帝は、兵士を集めてかぐやを警護することにします。 帝「都中の兵士を集め、かぐやの家を徹底的に警護しろ」 暗転。 スポット、大きな満月。 ナ:そして仲秋の名月である8月15日の夜。とうとうかぐや姫に月の都からの迎えがやってきました。 使者登場。 使者「お迎えにまいりました、姫様」 ナ:月の都から迎えがやってくると、兵士たちは身動きが出来なくなりました。なすすべなく、月の世界の人間、かぐや姫は天に昇ってゆきます。悲しむ帝と翁に形見として、不死の薬と天の羽衣と文が残されました。これらは、かぐや姫が人間としての情愛を失わずにいる間に用意されたものです。 帝「かぐやのいない時間を生きて、一体どうなるというのだ」 ナ:帝や翁は不死の薬を日本一高い山で焼き、毎夜、月が昇るのを見ては羽衣と文をみながらかぐやに想いを馳せたということです。 |