梅雨明けも間近だということを現すように、雲間から太陽が覗いている、日曜日の午後。
シェフ特製素敵ランチも食べ終わった。
自分の部屋に戻ってベッドに寝転びながら、再放送のサスペンスドラマを見始める、そんな休日らしい休日。

景吾も時間をもてあましたらしい、いつの間にかまた、部屋にやってきていた。
もちろん、景吾様はサスペンスドラマなんて興味ないから、本を読んでるわけだけども。

1人1人が違うことをして過ごしているけれども、同じ時を共有している。
そんな不思議な感覚が、当たり前になってきた今日この頃。

しばらくして、景吾が口を開いた。

「……久しぶりだな、丸1日オフな日も」

「まぁ、ここ最近は試合とかあったからね……あ、けーご、見て見て!このお店、この間行ったよねー?」

サスペンスドラマの一場面で、以前に景吾と行ったことのあるイタリア料理のレストランが出てきた。
本から少しだけ目を上げて、テレビ画面を見る景吾。

「あぁ……なかなかだったな」

「ティラミスがすっごいおいしかったんだよね〜。また行きたいね〜」

まぁ、庶民がそう頻繁に行けるお値段じゃないんだけどね……!(遠い目)値段に見合う味なんだけどさ。
なんて遠い目をしていたら、パタン、と本を閉じる音が聞こえた。
読み終わったのかな、と思って、景吾を見れば、姿勢を軽く正してこちらを見ていた。

「……今日、どっか、出かけたかったか?」

「へ?……んー、別に?久々のオフだからね、家でゆっくりするのもいーじゃん。……まぁ、出かけるのも楽しいけどさ」

でも、景吾と出かけると、色々疲れるからなー……お店の高級さとかで。
出かけるときは、ポーンッと景吾がお金を出してくれちゃうから、いくら使ってるかは推測でしかないけど……確実に、中学生のデートどころか社会人のデート以上のお金が飛んでる気がする。そんな高級なデートを頻繁に繰り返していたら、私の心までどっかに飛んで行ってしまうよ……!

「……そうか?ならいいんだが」

「景吾とまったりするの好きだもん。ってか、休みごとにお出かけなんて、疲れちゃうよ。……なんて、なんか老夫婦みたいだね。50年早いかな」

縁側でお茶飲んでるわけじゃないんだから、と笑ったら、景吾が小さく口の端だけで笑った。
その笑い方が、なんだかすごく面白おかしそうだったので―――ちょっと気に食わない。

「………なにさー?」

「いや……50年なんて、あっという間だろうな、と思っただけだ。お前といるなら、退屈しねぇからな」

「……まるで、50年間、一緒にいるのが確定みたいな言い方ですことー」

「当たり前だろ?―――俺様がお前を離すわけがねぇし、お前が俺様から離れるわけがねぇ。つまりは、一緒にいるわけだ」

「…………自信過剰」

「あーん?過剰じゃねぇよ、自信満々と言え。……事実、今のところ、着々とそう進んでるだろうが?」

「む……」

クッ……と小さく喉の奥で笑う声。
低く響くその声が実は―――結構、好きだったりする。

「お前は毎日退屈しねぇからな。……一見、退屈に見えるような、日曜の午後のこんな時間でさえ、満たされたものに変わる」

「ちょっ……け、景吾さん、また恥ずかしいセリフをペラペラと……」

「俺が思ってることだ。俺が口に出して何が悪い」

「…………また、キッパリとこの人は……!」

いつの間にやら首に絡み付いてきた腕。
振りほどく気が起こらないのは……ここが、他の人に見られることなどない家だから、ということも含まれてる。……今日は本当に家にいてよかった。こんなことを外でやられた日には、全身全霊を持って抵抗だ。近頃の若者は人前でイチャイチャするけど、私にはそんなことをする勇気はない。そんなことをしてた日には、確実に殺意の目を向けられ、下手したら、本気で殺られる!

「……お前は、家だとあんまり抵抗しねぇからな。それもまたいい」

「だ―――!けけけけ景吾さん、これ以上こっ恥ずかしいセリフ言ったら、その麗しきお口を塞がせていただきますよ……!?」

「お前の唇でなら、大歓迎だ」

「なっ……んっ……」

こっちが塞ぐ前に、向こうから勝手に塞いで来ました。……意味ないじゃん!
景吾の右手が、しっかり後頭部に回されてて、逃げられない。……いや、もう逃げる気なんか起こらない。……無理だもの!(諦め)



テレビでは、いつの間にかサスペンスドラマの犯人が、涙ながらに犯行を自供していた。
あっ、と横目でそれをちらっと見たら、景吾の空いている方の手がリモコンに伸ばされ。

プチ、と微かな音を立てて、テレビ画面が黒くなった。

「――――――っ……」

たっぷり10秒経って、ゆっくりと離れていく。
コツン、とおでこをぶつけ合った。
またも景吾の思い通りに進んでしまった。
悔し紛れに、呟いてみる。

「犯人……知りたかったのに」

「そんなもんより、こっちの方が大事だろ?」

再度、唇に柔らかいものが触れた。

テレビはその後、つくことはなかった。




穏やかな、日曜日の午後。