そういえば、からまだ1度も「好きだ」って言われてねぇな……。

いつものように、の部屋に来て。
いつものように、のベッドの上で本を読んでいた俺は、ふとそんなことを思って、少し離れたところにある机で部活ノートを書いている部屋の主に視線をやった。
カリカリ、と規則的に動く手。
時々それが止まるのは、今日の出来事を思い出しているからだろう。



「んー?」

返事をするが、視線はノートに注ぎっぱなしだ。
なんとなく、俺よりもノートを優先しているのが気に食わなくて、ベッドから降りての隣の椅子に腰掛ける。
突然隣に座りに来た俺に驚いたのか、が視線をようやく俺に向けた。

「どしたの?景吾」

聞かれて、俺は詰まってしまった。
……そうマジメに聞かれると、何と言っていいかわからない。

抱きしめても、キスをしても……抵抗はしなくなったと思う。
もっとも、真っ赤になって照れるところは前と変わらねぇが。

本当にたまにだが、アイツから抱きついてくることもある。

…………多分、今、俺たちは『恋人』という関係にあるのだと思う。
が攫われた事件以後、いつの間にか変わっていた関係は、今さらになってみると、少し疑問を覚える。

…………本当に俺たちは、恋人なのか?

「け、景吾……?」

じぃっと俺がを見つめたままだから、は不思議に思ったらしい。
おどおどと俺の様子を伺ってくる。

「どうしたの?どっか具合でも悪い?」

「……いや」

「……そう?なんか、変だよ?」

がペンを置いて、俺の額に手を伸ばしてくる。熱を測るつもりらしい。
その伸ばされた手を取って、ぎゅっと抱きしめた。

「け、景吾!?」

「愛してる」

「へっ!?」

「…………俺は、お前を愛してる」

「け、けけけけ、景吾!?」

の顔が、見る見るうちに真っ赤になっていく。
ぱくぱくと口を開閉する。
だけど、俺の望む言葉が出てこないので、もう1度その耳元に囁いた。

「…………愛してる」

しばらく固まっていたは、ふいにぎゅっと俺の背中に手を回すと。
小さな小さな声で。

「…………私も、景吾が好き、だよ……」

と呟いた。

ずっと待っていた言葉。

小さな声が出てきた場所へと、口付ける。

最初は軽く。
次に深く。

静かな部屋に響く、小さな水音。

相変わらず、キスをすると真っ赤になるは、ぐったりと俺の胸に顔を預けてきた。

「……どうしたのさ、景吾……一体……」

「……お前には、1度も『好きだ』って言われたことねぇな、と思って」

「……そーだっけ?」

「そうだ」

うーん、と悩み始めた
……なんだよ、自覚なかったのか?

突然が、ふと難しそうな顔になった。

ずっとの顔を見ていた俺は、その表情の変化が気になって、尋ねてみる。

「なんだ?」

「あー…………なんていうかさー……変なこと聞いていい?」

「あーん?」

「………………私たちって……その……えーっと……」

歯切れが悪い物言いに、俺はの唇にキスを落とす。

「……なんだよ?ハッキリ言え」

「(言わせなくしたのは景吾じゃないか……)…………えーっと……私たちって……恋、人……?」

が、俺と同じ疑問を抱いたことに苦笑する。
小さく疑問を呟いたは、酷く不安そうだ。

「……お前はそう思ってねぇのか?」

「へ?い、いや、私だけそのつもりだったら、イヤだなーって……」

「安心しろ、俺様だってお前が恋人だって思ってる」

そういうと、または顔を赤くして、そ、そっか……と俯いた。照れているらしい。

「思えば、景吾だって『好きです、付き合いましょー』とか言ってないじゃん……」

が真っ赤な顔でそんなことを呟いた。
俺はを抱きしめたまま思い返す。

……確かにそんな直接的なことは言ってねぇが、普段の行動から見ててわからねぇか?

を見れば、むぅ、と少しむくれていた。

「…………言ってほしいのか?」

「べ、別にそういう意味じゃ……!」

慌てて否定するが……どうやら言って欲しかったらしい。
の耳元に口を近づける。

……俺の、恋人になれよ」

囁けば、さらにの顔が赤くなる。

「……景吾はズルイ」

ぎゅっとの腕の力が強くなった。

「あーん?」

「………こんなときでも命令口調だ。……断るわけがないのに」

の言葉に俺は少し苦笑した。

「断られたら困るだろ、あーん?それとも、お前、疑問で聞いたら断ったのか?」

「……断るわけないじゃん」

小さく呟いたの顔は、
やっぱり真っ赤だった。