最近。

跡部がちゃんを見る目が、前と違う気がする。

なんて言うたらえーかわからんけど。

とにかく、違うねん。





部活の休憩中、じぃっと俺はちゃんと跡部を見ていた。

跡部が、ノートを取っとるちゃんに近寄る。
背後から肩越しに、ちゃんが書いている部活ノートを覗き込んだ。
そこまでは普通や。普通の部長とマネージャーの光景。
ぽん、とちゃんの頭に跡部が手を乗っけるのも……まぁ、気にいらんが、100歩譲って許してやらんこともない。

その後や。

ちゃんが他の部員に呼ばれて走っていった後、残された跡部の顔。
走っていったちゃんを追いかける視線が……以前とは明らかに違う。

なんやろ、何が違う……あ。

………………わかった。

「……やらしいんや」

は?と隣で一緒に休憩しとった岳人が反応する。
……ヤバ、口に出してしもた。

「やらしいって……何がだ?侑士がか?」

「なんでそこで俺やねん」

「侑士、やらしいことばっか考えてそうだからなー」

ダブルスのパートナーに対して……酷いヤツや。
岳人とダブルス組むの、もうやめたろか。

「…………俺やのうて、跡部や跡部。…………跡部がちゃん見る視線、前よりもやらしいと思わへん?」

「俺がなんだと?あーん?」

…………どうしてこの男は、こういうところは耳ざといんやろうか。
結構離れた距離にいたはずや。それなのに、跡部は俺の言葉に気づいて、ツカツカと近寄ってきた。

「……跡部」

「あーん?」

「…………自分、最近ちゃん見る目がやらしいねん。そんな目つきでちゃん見とったら、セクハラで訴えられるで」

跡部の視線は、それほどまでにやらしい。
……なんや、やらしいとイカガワしいが同居しとる。
あれやあれ。視姦に似たモンがあるで、このやらしさは。

「あのな、忍足……実は言ってなかったが―――」

「待て跡部。その後にどんな言葉が続こうと、俺は認めんで」

俺の断固とした言い方に、跡部の眉がピクリとつりあがる。

は俺の女で―――」

「聞こえんで。今の言葉は脳の海馬から抹消された」

「…………、可愛い声あげるんだぜ?」

!!!!!

「認め―――ん!!!そんなのは俺が認めん!絶対に認めん!…………ちゃんは、騙されとるだけや―――!」

あぁぁ、ちゃんの可愛い声ってことは……!
すでにちゃんは、跡部の毒牙にかかっとるっちゅーことか……!

コイツ……なんて羨ましいヤツなんや!

「あいつ、耳が弱くてなァ……軽く噛んでやると、すぐ感じて―――」

「跡部……ッ……お前というヤツは……!絶対認めん。全世界が認めようと、俺だけは認めんからな……!いつか絶対、ちゃんを跡部の魔の手から救ってみせる……ッ!」

「ハッ……言ってろよ、バーカ。が俺のモンであることは、未来永劫変わらないがな」

跡部はそれだけを言うと、満足そうにちゃんの方へ去っていく。
ちゃんを救わなあかん……!

俺もベンチから立ち上がろうとしたんやけど、岳人のヤツがジャージをツンツン、と引っ張ってきよった。

「……なんやねん、岳人。俺には、跡部からちゃんを守るという指令が―――」

「…………おい、侑士。俺よー、言ってることがよくわかんなかったんだけど…………と跡部って」

俺は光速で岳人のヤツの口を塞いだ。

「岳人。それ以上言わんとき。何も言ったらあかんのや。言った時点で、ちゃんは今までのちゃんやなくなる……!」

俺の手を剥がして、岳人が小さく言う。

「…………侑士、切羽詰ってるな」

「当たり前や。ちゃんが跡部のヤツに……あぁぁ、考えるだけでもおぞましいわ!それくらいやったら、いっそのこと俺が強引にヤ―――」

ゴッ。

どこからか飛んで来たボール。
サーブの体勢のまま止まってるところを見ると―――どうやら、跡部のヤツが俺に向かってボールを打ってきたらしい。

「どこまで地獄耳なんや、跡部……!」

「忍足、これ以上ふざけたこと言ってると、グラウンド走らせるぞ!」

「そーゆーのを職権乱用っちゅーんやで!ちゃん、はよ気付くんや……!」

コートの隅っこの方で、気分悪いやつの面倒をみとるちゃんに視線を送った。

「あの男、世界は自分中心に回っとると思てるどころじゃあらへんで……!太陽は俺のために輝く、地球は俺のために回ってる、むしろ宇宙は俺のために存在しとるとも思とる男や……!そんな男に、騙されたらあかーん!!!」

ってか、ちゃんの可愛い姿……ズルすぎるで、跡部―――!!!




後でボソリと岳人に叫びを訴えたら、ジト目で見られて

「侑士の方が、やらしいんじゃねぇか?」

と言われた。

アホ、岳人。

これは純粋なる愛の欲っちゅーもんやで!