いっつも景吾には物を買ってもらってばかりだから。 たまには、私からもなにかしてあげたいと意気込んだはいいけれど。 ………………何が欲しいのか、まったくわかりません。 ………………よっしゃ、聞き込み開始!! 宮田さんを初めとする、執事さん、メイドさん、シェフ、みんなに聞き込みをしてみたけれど。 みんな返ってくる言葉は一緒。 「様、景吾様に直接お聞きになられた方が、早いですよ?」 という言葉。 それじゃダメなんですよ!! 驚かせたいのだから。 そう説明しても、ニッコリ笑ってみんな同じ言葉を繰り返すばかり(くそぅ、営業スマイルに慣れてるから手ごわい) 唯一ハンスだけは違う言葉が返ってきたが。 「が夜に景吾サマの部屋に押しかければいいんだよ!首にリボンでも巻いて!」 「できるかぁ!!!」 という事情により、却下。 ちっ…………これは、学校ででも聞き込みするしかないか……ッ! 翌日、学校で私は景吾の目を盗んで、色々な人に聞き込みを開始。 レギュラー陣、テニス部員を初めとする、ありとあらゆる人にね……! でも、やっぱりみんな、大半は 「ちゃん、直接跡部のところに聞きに行った方がいいよ……」 という言葉だけ。 だからっ!それじゃ意味がないんだって! 昼休みもダッシュで我がA組から色々なクラスへ行き、手当たり次第に聞き漁る。 「おっ、噂のテニス部マネージャーじゃ〜ん」 ふっ、と後ろから声が聞こえた。 頭がふわふわしてそうな軽〜い声。 「えーっと、どなたでしょうか?」 「あっ、ひっでー!時々、うちの部活からポカリ借りてくのにー!」 ん?ポカリを借りてく(ポカリの消費量は多くて、時々粉がなくなることがある)…………ってことは。 「サッカー部の人……?そういえば、見たことある……」 「そうそう。俺、サッカー部の田代。よろしくな、ちゃん」 握手握手、と手をブンブン振られる。 サッカー部の田代……思い出した、テニス部と同じくらい人気がある、サッカー部のイケメンエース! そして、サッカーと同時に、女の子大好きな、どこかのオレンジラッキーくんみたいな男の子で有名だ! 「で?何してんの?君、クラスこっちじゃないでしょ?」 「あー……実は、跡部くんの欲しいものを聞き込みに参りまして」 「はぁ?…………君も面白い子だね〜……本人に聞けばいいんじゃない?」 「それじゃ意味がないのですよ…………田代くんはなにか知らないかな?」 「うーん…………教えてあげてもいいけど」 「えっ、ホント!?何か知ってるの!?ってか、田代くんと跡部くんって仲がいいんだ!?」 「いや、別に仲は良くないけど、見てれば大体わかるって。…………ちょっと耳貸して」 言われたとおり、私は耳を近づける。 やっと……やっとわかるわ、景吾の欲しいもの! 遠いところまで来た甲斐があった! ふっ。 「ひゃあ!?」 耳に拭きかかったのは、息。 「あっはははは、おもしれ〜!」 「な、ななななななな……!」 思わず耳を押さえる。……うぁー、顔絶対真っ赤だって! なにしやがる、コイツ! 「なにすんの!」 「なにって、耳に息吹きかけただけvvかっわいい声出すねぇ〜」 「こっの……」 「あー、そうそう、跡部くんならねー、これとおんなじことやれば、喜ぶんじゃない?」 「出来るか―――!バカ!もう知らない!サヨナラ!」 あぁ、ヤツを信じた私が馬鹿だった! サッカー部田代……ブラックリストに載せてやる――――――!!!! 廊下をズンズンと歩く。 赤くなった顔をトイレで冷ましてから、私は自分のクラスに入っていった。 ら。 …………………………………一体何があった……? 景吾さんの周りに、黒いオーラが見える…………。 えっ、ちょっ…………一体何が起こったの……!?あそこまで不機嫌な景吾、見たことないんですけど……!クラスメイトは、明らかに離れて行ってるし。 景吾がふっとこっちを向いた。 視線が、かち合う。 「…………」 ヒィッ!声が……声が低いよ! 景吾がゆっくりと立ち上がり、こっちに歩いてくる。 怖い…………ッ。 無条件に怖い。 くるり。 私は方向転換すると。 猛ダッシュで逃げた。 「!コラ、待ちやがれ!」 待てません!(泣) 景吾さん、あなた今、どれだけ怖いかわかってないでしょう!? ダダダダダダ、と校舎内を走り回る。 まさか、18にして(今の体は14だけれども)追いかけっこをすると思わなかったよ……! しかも、ただの追いかけっこじゃない。 ほとんど命がけだ!(汗) 無駄に広い氷帝学園、逃げ回る場所には事欠かない。 「待てッ、!」 「待てませ〜〜〜ん!(泣)」 ネクタイをひらめかせながら、景吾が近づいてくる。 足が……ッ……足が速い上に、同じくらいの身長でもコンパスが違うんだよ、コンパスが!! そりゃ、私だって、マネージャー業で鍛えてるし、同年代の女の子に比べたら、早い部類に入るかもしれないけど、相手は男子テニス部の全国レベルだ。 このまま逃げてたら、間違いなく追いつかれるッ! 素早く辺りに目を走らせて、現在位置を把握。 1階に下りて、女子トイレに駆け込もう!まさか景吾だって女子トイレまでは追いかけてこないだろう! 転げ落ちるように階段を駆け下りて、女子トイレへ駆け込む。 トイレでお化粧をしていた女の子は、ビックリしてこっちを見た。 「すみません、すみません…………」 荒い息を吐きながら、頭を下げる。 はぁ…………授業始まるまで、とりあえずここにいよう…………。 授業中はさすがの景吾も何もしてこないだろう…………してこないと願いたい。 「あっ、跡部様、いました!」 !? 女の子の声。2、3人の女の子が女子トイレに入ってくる。 目当ては私……か!?景吾のヤツ、女の子使って私をトイレの外に出そうって言うんだな!? そこまでするとは……掴まったら、何されるかわかったもんじゃない。 掴まる前に、窓を開けて、外へ逃げ出す。 い、1階でよかった……! 「あ、跡部様、外へ逃げました!」 報告するな――――――!(泣) ぐあぁぁぁぁぁ、と走って、2年生の入り口から校舎へまた入る。 見慣れない顔が驚いたように向けられた。驚くよね……そりゃ驚くよね……!ごめん、だけどそんなことに構ってる暇はない! 「さんッ!?」 不意にかけられた聞きなれた声。 教室から銀の髪が見えている。 「チョタッ!お願いッ、かくまって!」 「へっ!?」 チョタの教室に逃げ込み、ドアの下に隠れる。 ドッドッドッという自分の鼓動を聞きながら、大きく息を吸い込んで―――吐いた。 「ど、どうしたんですか?さん」 「景吾が……景吾が追ってくるぅぅぅぅぅ(泣)」 「…………何かしたんですか?」 「身に覚えはないんだけど……あ、ヤバッ」 口を塞いで、チョタの頭を押さえ込む。もちろん、隠れさせるため。 チョタは優しいから、きっと景吾に問い詰められたら、嘘はつけないからね。 ダダダダダッ、と私の時と同じく大きな音がするが……私のときと違うのは、女の子の歓声が聞こえること。 「きゃあぁぁ〜!跡部先輩よぉ!どうしてこちらに!?」 まさか、女1人追いかけてきましたとは、言えないだろ…… 「おいっ、そこの女!背が高くてうるさい女ッ、ここを通らなかったか!?」 酷い言い方だな、オイッ! 思わず立ち上がって文句を言いそうになったのを、チョタが必死に止めてきた。 「バレますよっ、先輩!見つかりたくないんでしょう!?」 「おぉ……っと、ありがと、チョタ。…………しかし、なんで景吾は私を追いかけてるんだろう?」 「……理由も聞かずに逃げてたんですか…………?」 「だって、見てみなよ、あの景吾の様子を!あれじゃ、絶対何かしてなくても逃げたくなるって!」 チョタがこっそり景吾の様子を覗く。 景吾は走りながらあたりの人に私のことを聞いてるみたいだ。 「…………確かに……気持ちはよくわかります…………」 「ふふ……でしょ……?なんでなんだろ……私、なにかしたかなー?」 「でも、滅多なことじゃ、跡部さんはさんのこと怒らないと思いますけど……ベタ惚れですし」 「ベタ惚れ……なのかな?イマイチ確信が持てないんだけど…………」 「(確信も何もないですよ……)」 「っていうか、そもそも、そこまで惚れられる理由がわかんないんだよね…………」 「聞きたいか?」 「うん、聞きたい。だってこれって、氷帝の七不思議に数えられ…………ん?」 チョタがあわわわわわ、って慌ててる。 …………ちょっと、待てよ、今の声は…………。 「よぉ、……探したぜ?」 「け、けけけけけ、景吾!?」 隣にいたはずのチョタの替わりに……かがみこんでこちらをのぞきこんでいる跡部景吾さま。私から視線を外して、チョタに向き直る。 「ずいぶんと仲良くやってたみたいだなァ?な?鳳?あーん?」 チョタが必死になって首を振ってる。あぁ……怖いよね、怖いよね、満面の笑みの景吾。 私も怖い。 ってなわけで。 「後は任せた、チョタ!ばいばいきーんッ!(古)」 「あぁぁ、さぁぁぁん〜!!!」 「オイ、コラ、待ちやがれ!」 待てといわれて待つヤツはいません。 それに、今さっきの景吾の笑顔を見たら、待つ気力も吹っ飛びます。 真っ黒全開の笑顔がメチャクチャ怖いです。 人の波をかいくぐって(途中で何人か跳ね飛ばして)ごめんね〜、と連発しながら2年の廊下を駆け抜け、我が3年の階へ突入。 3年生は、さすがに騒動慣れしてるみたいだ。私が走っていても、驚きはするもののすぐに道を譲る。 テニス部もとい、ホスト部が多数存在しているこの学年は、女の子が誰かを追いかけている率が他の学年に比べて異様に高い。騒動はいつものこと。 それに私は、時々、景吾ファンやテニス部ファンに追いかけられることもあるしね(遠い目) でもまぁ、この体格が幸いして、ケンカ売ってこようという馬鹿は、あの事件以来いない。 「お〜、ちゃん、どないしたん?」 ひょこっと前方の窓から顔を出すんは、エロ眼鏡こと忍足侑士。 そういえば、さっきは教室にいなかったなぁ。 「侑士!景吾に追われてるのぉぉぉ〜!」 ばびゅん、とその前を駆け抜けて、反対側の階段へ向かう。 「そら大変やな〜……よっしゃ、お兄ちゃんにまかせとき」 「まかせた、侑士兄ちゃん!」 「待て、!」 後ろから景吾の声が聞こえる。 その後で、『まぁまぁ、跡部。どないしたん?』という侑士の声。 これで、少しは時間稼ぎになる。 目指す先は、特別校舎! あそこなら空き教室がいっぱいあるから、隠れるにはもってこいの場所! 特別校舎へ繋がる、渡り廊下を駆け抜けて、小さい部屋、社会科室に飛び込んだ。 地図やら図表やらたくさん置いてあって、ゴチャゴチャしているこの教室は、隠れるのに適してる。 大きく息を吸って吐き、呼吸を整える。 ………………一体、景吾に何があったんだ……。 あんなどす黒いオーラ、人生史上初めて見たよ……! どーするかな……授業は戻らないとまずいよな…………ただでさえわからない授業だからなぁ…………。 ペタン、と床に座り込む。お尻が少し冷たいけれど、床に座り込んだら入り口からも見えないだろう。 はぁ〜、と大きくため息をついた。 今は何時だ?1時から授業だから……12時59分になったらココ出て、遅刻覚悟で教室戻ろうかな。 ポケットに入れてある携帯を、パカン、と開いた。 12時57分……後2分くらい待てば……ん? メールがきてる、誰だろ?
頑張れるか!!!(怒) 思わず携帯を投げつけたくなったけど、ダメダメ、これも景吾に買ってもらったヤツ。しかも高かった!大事にしなくては。 しかし、12時54分ってことは……3分前! 景吾の足の速さだったら、余裕で特別校舎来てるよ!あわわわわ! 慌てて物陰に隠れる。 じっと身を潜めていると、キュッ、キュッ……という上履きの音が聞こえてきた。 …………きっと景吾に違いないぃぃぃ。景吾じゃなくても、見つかったら報告されそうだから、見つかってはいけない……! 段々とその音は近づいてきて―――やがて、ピタ、と音が止まった。 ヒィ!明らかに今、この教室の前で止まった! 息を潜め(いっそ止めてしまいたかった)、じっとみじろぎをしないで立ち去るのを待つ。 入り口からじゃ、私は見えないハズ……! しばらくして、また、キュッ、キュッという音が聞こえた。 ………………はぁ〜………………(脱力) もうすぐ授業も始まるだろうし…………ここは、一気にこの教室を出て、ダッシュで教室へ戻るべし! ゆっくり立ち上がって、なるべく足音を立てないようにそろそろと歩く。 勝負は一瞬。 バッ!と出て、ダッ!と走って、ガッ!と教室に入ればいいのだ(擬音多) すぅ、と息を吸って、社会科室を飛び出し―――――― ぐっ。 「!?」 いきなり腕をつかまれ、抱きしめられ。 何が起こってるかわからないままに、社会科室へ逆戻り。 バンッと激しい音が鳴って、扉が閉まり―――薄暗い室内で見えた顔は。 「け、景吾さん…………(滝汗)」 「よぉ…………」 怖ッ!真っ黒笑顔全開、超怖ッ! 抱きしめられたままなので、動くことが出来ないぃぃぃ〜! ふっ。 「!!!!!」 耳に、息が……息がぁぁぁぁぁ〜!! さっきサッカー部の田代にやられたことと、同じことをやってくれやがりましたよ、このお方! バッと離れて、景吾から逃げる。 …………けど、逃げ場がない。社会科室の入り口は、景吾の背後にある、あのドアだけ。 袋のネズミって、こーゆーことですか……!(泣) 地図が乗っている机を背にして、私はなんとか逃げられないか、考えていた。 ゆ、ゆっくり腕組みをしながら近づいてくる姿が、とても怖い……! 景吾は私の前まで来ると、じっと見つめてきた。 「な、なに…………」 私の言葉を聞かずに、景吾は腕を掴む。 ふっと目の前が暗くなったかと思うと。 「んっ…………」 景吾に、キスされていた。 キーンコーンカーンコーン…………。 遠くで鐘の音が聞こえる。この教室には、放送が入っていないみたいだ。 ちゅ……っ…………ちゅっ……。 小さな、水音が、やけに、響く。 「んっ……ふっ……」 唇を吸われて、軽く下唇を噛まれて。 足に、力が入らなくなってきた。 ガクン、と体がずり落ちる。 バサバサッと地図が落っこちてきた。 だけど、景吾はキスを止めない。 私と高さをあわせるように身をかがめて、膝をついたみたいだ。 「んん……ッ……ふぁっ……?」 スルッと唇を割って入ってきたモノ。 ゆっくりと口の中を動き回り……歯茎をなぞられた。 ゾクゾクッ……と背筋を何かが駆け抜ける。 息も満足に吸えないくらい、何度も角度を変えてキスされて。 ズルズルと私は床に身を横たえていた。 完全に覆いかぶさるような形になった景吾は、それでも離れようとしなかった。 「んっ…………ッ……ふ……」 もう何分経ったのだろう。 やっと景吾が、唇を離した。 はぁっ……はぁっ……と私の口からは荒い息が漏れるだけ。 文句を言おうと思ったけれど、息が切れてて、言えない。 すっとシャツを掻き分けて、背中にあたる冷たい感触。 「!?」 あっという間にその感触は、ブラのところまで上がると、プチン、とホックを外した。 胸の締め付けがなくなる。 「ちょッ……んっ」 もう1度唇を塞がれて、その間に景吾の手は背筋をなぞっていた。 ゾクゾクゾクッとまた何かが走り抜ける。 やばいッ……このままだとやばいッ(汗) なんとか景吾を引き剥がそうと、手に力を込める。 …………って、うっそぉ、なんでビクともしないの!? 景吾の唇が一旦離れる。 その隙に、なにか言おうと口を開いたら、耳をカリと噛まれた。 「景吾ッ…………ぁん……ッ」 …………って、なんだ今の声―――! 今の声、私が出したの!?煽ってどうするよ、私!!! 「ちょっ、景吾……ッ!」 ホントに危ない!マジでやばい! いや、景吾は好きだよ!? だけど、ここは学校だ!!!(汗) ベシベシベシ、と景吾の頭を叩く。少し、景吾の頭が離れた。その隙を逃さず、景吾の肩をグッと持ち上げた。 出来た隙間から、横滑りして移動する。 体をなんとか半身だけ起こして、机の脚に身を預けた。 景吾は、私がいた場所を少し見つめると、ゆっくりこちらを向いた。 うぁっ……怖……ッ……ホントに怖ッ…………。 立ち上がろうとした瞬間に、また捕らえられる。 今度は、首筋に、柔らかい感触、そして、チクッという痛み。 そのまま景吾の頭が下がってきて、いつの間にか第3ボタンまで開いていた胸元に顔を移す。 もう無理……ッ、ホント無理……ッ!!! 「景吾……っ、やだ…………ッ」 景吾は、止めない。 いつもは、大好きな目が、怖い。 ポロ、と涙が出てきた。 「景吾ぉ…ッ……やだぁッ…………っく……」 シクシク泣き出した私。 景吾がハッと私を見るのが、にじんで見えた。 くしゃっと景吾が自分の前髪を握る。 「………………泣くな…………」 泣かせたのはあなたです……!(泣) 「ひっ……け、景吾……ッ……こ、怖い、しっ……息……っ、吸えないし……ッ……変な声は……ッ……出るし……ッ」 もう色々あって頭の中がグチャグチャだ。 やっと景吾の目が、いつもの景吾に戻ったので、ぎゅーっとそのシャツを掴む。 ポン、と景吾の手が頭の上に乗った。 いつもの仕草に、ぶわっと涙が出る。 今度はシャツじゃなくて、ぎゅーっと景吾に抱きついた。 「こ、怖……か、った……ッ」 「…………悪い」 しばらく子供みたいにひっくひっく、としゃくりあげる。景吾がそっと抱きしめてくれたのが、嬉しかった。 大分、落ち着いたところで、私は抱きついたまま聞いた。 「な、なんでそんなに怒ってたの…………?」 景吾は黙ったまま。 「景吾……?」 「……………………お前が、田代といるのを見た」 「……へ?」 「お前が、嬉しそうにあいつに顔近づけるの見て……頭に血が上った」 顔を近づけたんじゃなくって、耳を寄せた……って一緒か。 「お前と田代は、そんなに仲が良かったのか?」 抱きついてるから、景吾の表情は見えないけれど、耳元で聞こえる声は……少し震えてる? 「違うよッ……あ、あれは……け、景吾の欲しいものを教えてくれるっていったから……!」 結局教えてくれなかったけどね!(泣) やられ損ってヤツだったけど! 「俺の欲しいもの?」 「い、いっつも景吾からもらってばっかりだし……たまにはお礼をしようと思って、景吾が欲しいものとかを聞き回ってたの!……で、そのときたまたま田代くんに話しかけられて、『景吾の欲しいもの教えてあげるから、耳貸して』って言われて……!だから、決して仲がいいとかじゃなくって……むしろ、今はブラックリストに載ってるし!」 ばーっと一気にしゃべって、息切れする。 くそぅ……原因はあの田代か……!ヤツはブラックリストの最上位に位置してやる!(泣) ぎゅっ、と景吾の腕の力が強まった。 「…………バァカ、俺様が欲しいものはな、たった1つだ」 「え?…………はっ、世界チャンプの称号とかだったら、無理だからね……!?」 ぷっ、と景吾が小さく噴出すのが聞こえる。 「そんなもんじゃねぇ。…………俺が欲しいのは、お前。……だけが欲しい」 「!!!!!け、景吾……ッ」 「…………2度目だ。これで、俺様が途中で止めてやったのは」 へっ!?に、2度目……!? 1度目の記憶は、まったくありませんが……!こんな心臓に悪いこと、忘れるわけがないのに……。 「今度は止めねぇ。泣こうが喚こうが…………覚悟してろよ?ぜってぇ、離さねぇからな」 「なっ…………」 「お前は俺様のものだ。…………誰にも譲らねぇ」 もう1度キスをされる。 今度は、怖くなかった。 ゆっくり離れて、コツンと2人で額をぶつける。 「…………授業……サボっちゃったね……」 「別にいいだろ?あーん?」 「でも、私わからないトコだらけなんだけど……」 「帰ったら俺様が教えてやる。…………」 「うん?」 「シャツ、開いてるんだが?」 !!!!! 慌ててガバッとまた景吾に抱きついた。抱きついたら見えないからね! 「景吾が開けたんでしょ!……ってか、ホックまで外してくれちゃってさ……!あぁっ、もう、トイレ行かなきゃ……!」 「俺様がはめてやるよ」 すっと景吾の手が背中に伸びる。 「ちょ、ちょっ……恥ずかしいからやめて〜〜〜!!!」 景吾の手が背中を探る。 うわっ、またゾクゾクしてきた……! ぷちん、と音がして胸が締め付けられる。……だけど、位置がずれてるんだってば(泣) 「景吾……目ぇ瞑ってて」 「あーん?…………わかったよ」 景吾の目が閉じられたのを確認すると、体を反転させてブラの位置を直し、シャツのボタンをばーっと止めた。 「……もういいよ」 「……別に見ても減らねぇだろうが」 「減る!私の寿命が減る!(泣)……ネクタイがない」 「あぁ、ネクタイならそっちだ」 指差された方向には、放置されたネクタイ。 …………あぁ、もう。なんでそーゆートコは冷静に覚えてるのよ、景吾は! ネクタイを拾って結ぶ。 位置がずれていたらしく、景吾に直された。 「5時間目はもうダメだな」 「そうだね……あ、侑士からメール入ってる」 「あーん?」
…………ガッツリされてましたよ。 (なんとか)だいじょうぶだよ、というのと、社会科室にいる、と打ってメールを送る。 その後、2人でたわいない話をして。 5時間目終了の鐘からちょっと経ったときに、侑士がものすごい勢いで社会科室に飛び込んできた。 「ちゃん!?……大丈夫か!?平気か!?」 「お、落ち着いて、侑士……だ、大丈夫だから…………」 「跡部!お前、ちゃんに変なことしてへんやろな!?」 「ふっ…………さぁな?」 「跡部――――――!…………ん?ちゃん、その首…………」 首?首になにか…………。 !!!!! ばっと手で押さえた。 侑士が唖然とした表情で私を見てる。 あぁぁ……見られた!バッチリ見られたよ!! たぶんついていたのは……キスマーク。 「…………あーとーべー…………自分、何しとったんや!」 「に聞いてみろよ?あーん?」 「えっ、やっ……その……えーっと……」 「なんやねん、ちゃん!俺に言えへんこと、跡部としとったんか!?そんな、ちゃ〜ん!!!」 …………なんとか誤魔化す手はないものかしら…………!? 侑士にガックンガックン揺らされながら、私は遠くを見た…………。 |