「……つまり、この『それ』というのは、これより前の文章中にある『共鳴』ということになります。それを踏まえて、今度は問6を見てみましょう―――」

「…………くー……」

夏期講座第1日目にして、初寝を記録。
かつてないほどの居眠りの早さでは新記録達成……な気がするでもない、月曜日の出来事。





キーンコーンカーンコーン……。

夏期講座中でも、律儀に鳴る鐘の音。
でも、その音が鳴ってくれたおかげで、ハッと意識が覚醒した。
ガタガタ、とみんなが席を立つのをみて、慌てて私も席を立つ。

「今日はここまで。明日は問8からやるから、キチンと予習してくるように」

「はーい。ありがとーございましたー!」

ペコ、と挨拶をしてから、軽く遠い目をする。
……問8から、か……私、問4までしかやった記憶がないよ……。

うわー、案の定、プリント真っ白!ノートも真っ白!
なんのために、わざわざ夏期講座受けてるのよ……!まぁ、半強制だけどさ!

「おー、ちゃん、真っ白やん。まぁ、よう寝とったからなー」

ひょいっ、と真っ白いノートを、侑士が覗き込んできた。

「……いや、なんていうか、もう……ね……自分で考えるのが大事だよね、現代文……!」

「それでも、答えの基本がなきゃ意味ねぇだろうが。……オラ、5分だけ見せてやる。必死で写せ」

ポン、と頭の上に乗ったのは、もちろん声の発し主、景吾さんのノート。
あ、ああああありがたいっ!5分もあれば、じゅーうぶーん!!

「あいあいさー!」

もう1度机について、ライジング並の速さで写す。
この際、字なんて読めればOKよっ!

「あ、跡部……また自分ばっか……!」

「フン、テメェはイチイチ前置きが長ぇんだよ、バーカ。そんなんだから「ー!リスニングの授業、一緒に行こうぜっ!」

バーンッ!という大きな音が扉の方から聞こえてきた。
……うちの教室の扉、大分テニス部のおかげで痛んでるんじゃなかろうか……。

高級素材で出来ているであろう扉の行く末を案じながら、それでも手だけは必死に動かす。

「がっくん……扉もいたわってあげようね……?」

「岳人……自分、いつか扉壊すで」

私と侑士の扉に対する発言に、がっくんはカラカラと笑って手を振る。

「だーいじょうぶだって!お前ら心配しすぎだって!それより、早く行こうぜー!LL教室だよな!?」

「……その根拠のない自信は、どっから来るんだよ……」

景吾が呆れた笑みとため息を漏らした。
そして、ふと視線をこちらに向ける。

、書いたか?」

「あ、後1行……よし、ありがとっ!」

「あぁ。……さて、じゃあ行くか。……ジローのヤツもリスニングだったよな?アイツはどうしたんだ?」

「寝てんじゃね?……っと、噂をすれば、だ」

眠たげに目を擦っているジローちゃんが顔を覗かせ、キョロキョロと視線を彷徨わせる。
私たちを見て、『あ』と口を開いた後、ひょこひょことやってきた。

「……岳人、酷いよー、置いてくなんてー……あ、ー、オハヨー……」

「おはよ、ジローちゃん。……みんな揃ったね。じゃ、行こー!」

英語の教科書と筆記用具だけを持って、教室を出る。

「今度は寝んなよ、もジローも」

景吾の言葉に、ギクリ、と体を縮こませる。

「……あれー、も寝てたんだー?」

「いやぁ、眠くてさー……っていうか、景吾の所為だし(ボソリ)」

明日学校だから……って言ったのに、昨夜景吾が……ごにょごにょ。
睡眠不足な上に、教室に快適に効いてる冷房がこれまたたまらない。

「リスニングだから、今度は助けてやれねぇからな」

「……う。…………が、頑張りますとも……ねー、ジローちゃん?」

「なるべく頑張るー」





で。


「くー…………」

「ぐごー……ぐごー……」

「……めっちゃ寝てるな、とジロー……」

「……ここまで気持ち良さそうに寝とると、起こす気にもならんわな……」

岳人と忍足が、とジローの寝ている姿を見て小さく呟いた。
2人とも、本当に気持ち良さそうに寝ている。
ジローはいつものことだとして……がここまで授業中に寝るのは、珍しい。疲れていても、なるべく起きてようと頑張るんだが……。

「ったく……ま……仕方、ねぇか……」

俺にも原因を作った責任はある。
どうせ、家帰って同じ勉強を復習するんだ。俺が英文を読んでやればいい。

「跡部、自分まさか……ちゃんに何したん!?」

「何って……そりゃあ、とてもここでは言えねぇなァ?(ニヤリ)」

「なっ……ちゃん、可哀相に……!俺なら、ちゃんと体気ィ遣うで!?無理はさせんで!?こない自分勝手な男やめて、俺んトコおいでー!」

「死ね、伊達眼鏡」

ガンッ、と机の下で忍足の足を踏んづけた。

「〜〜〜〜!!」

「その妄想脳みそと伊達眼鏡を矯正してから、出直して来い」

「アホか!あぁぁ、ちゃん……!こない男にいいようにされて可哀相に……!」

「……、今は起きてなくて良かったぞ……」

話題の本人は、夢の中。



居眠りばかりの、月曜日のこと。