コンコン、というノック音に俺は顔を上げた。 「景吾さん、ご友人の方々がお見えです」 係の人間がそう言い終わる前に、ぞろぞろと現れる奴ら。 俺の姿を見て、目を見開く。 「うぉっ、跡部キメキメじゃん!」 「チョーカッコE 〜!!」 「当然」 騒がしい岳人とジローに、笑みを浮かべてそう返す。 そういうコイツらも、いつもとは違ってちゃんとした礼服を着ており、それが様になっている。 物珍しそうに控え室の中を見て騒がしい岳人とジロー。 それとは対照的に黙りこくって、ムッツリとした顔をしているのは……忍足だ。 俺は勝ち誇った顔で忍足に近寄る。 それを見て、奴は更に顔をしかめる。 「……ムカつくわー……」 「なんとでも言え。ま、ずっと前からは俺のものなんだが、わかってねぇヤツには改めて今日、わからせてやるよ」 「ちゃんはモノやあらへんで。……あー、可哀想なちゃん。こうなったら、俺と二人、手に手をとりあって跡部の魔の手から……」 「黙れ」 ピシャリとそういって黙らせた。……ったく、縁起でもねぇことをペラペラと……! 「……こうやって、式になると実感するよな……入籍したっつっても、お前ら今までと変わらなかったし」 忍足のそばにいた宍戸は、しみじみと俺の姿を見ながらつぶやいた。 「結局、式でケジメをつけるってことなんですね」 「違うぜ、鳳。跡部さんのことだから、どうせ先輩を見せびらかしたいだけなんだよ。……ここで俺が先輩を攫えば、下克上が」 「なんだ、日吉。こんな晴れの日に負かされたいか、アーン?」 近寄ると、ぐっと黙りこむ日吉。 ……ったく。 「でも俺、日吉の気持ちスゲーわかるー。俺らが大事に大事にしてきたがー……」 ジローが遠い目をして、想いを馳せる。 それに便乗したのか、岳人がダンダンッ!と足を踏み鳴らして大声を出した。 「あー、クソクソッ!中学ん時から思い出してみたら、マジでずりー!譲れよ跡部!」 「中学からずっと跡部ばっかいい思いしやがってよ……なぁ、長太郎?」 「えぇ。そろそろ俺達に譲ってもいいんじゃないですか?跡部さん」 「いいわけねーだろうが。……って忍足、テメーどこ行く気だ?」 「止めるなや。一人で心細い思いしとるだろうちゃんの元に行って、そのまま……」 「ふざけるな。俺でさえ、のドレス姿はまだ見てねぇのに、なんで俺より先にテメェに見せなくちゃならねぇんだよ。おとなしく式場で待ってろ」 この一言が、アイツらに火をつけたらしい。 「え、マジマジ!?跡部もまだ見てないんだ!?」 「激ダサだぜ、跡部!」 「うるせぇ、黙れ。無理言って式の予約取ったんだ。今日だって、バタバタと準備して―――おい、待て!」 駆け出しかけている岳人の首根っこを掴む。 「樺地、コイツらを引き止めろ!」 「………………ウス」 …………一瞬間があいたのはなぜだ? 「あ、コラ、樺地!はなせー!」 そのままぎゃあぎゃあ騒ぐアイツらを樺地に任せて、俺はスルリと控え室から駆け出た。 向かう先は、新婦控室。 重厚なドアの前で。 一つ深呼吸をし、俺はノックする。 様々な出来事を思い起こしながら、扉を開く。 世界一、いや――― この世界だけでなく、のいた世界を含めても、一番。 ―――三千世界一、美しい俺の花嫁を、迎えるために。 「……あーあ……とうとう結婚かぁ……」 駆け出ていった跡部の後ろ姿を見て、ジローがつぶやく。 「なんかよ……結局俺ら、アイツらが出会うとこ……っても、まぁホントの最初は知らねぇけど……付き合う前も、付き合うとこも、ケンカしたり、仲直りしたりするとこも、いろんな事件も―――ほとんど知ってるからよ。なんつーの?こう―――」 「なんか、感慨深い、ですよね」 「そう!まさしくそれ!」 「色々あったのも知ってるし。……正直、はスゲー大事だし、こーゆーヤツと結婚してぇなぁ、なんて思ったこともあったけど」 「なんや。そないなこと思ったことあったんか、宍戸」 「……ま、な。だけど、もうなんつーか……俺自身のコトよか先に、は跡部と一緒にいるのが自然っつーか……なんか、言葉にできねぇけど」 「跡部のことを好きなが、一番可愛いんだよね、結局。……くやCけど」 「それに……跡部さんなら、絶対に先輩を幸せにしますからね」 「そーなんだよなー。……それに、跡部なら任せられるっつか。いや、むしろこうなったら跡部しか任せられねぇよな、は」 「確かにそうですね。もし今日、さんが跡部さんではなくて、他の男と結婚するんだったら―――俺がその男をこの手でぶちのめして攫います」 「……長太郎は本気だよな」 「えぇ。他の男にやるくらいなら、俺の方がよっぽど幸せにできる自信もありますし。……でも、俺も悔しいですけど……跡部さん以上にさんを幸せにできる自信はないです」 「結局……俺らって、跡部とが一緒に幸せになることを、願ってるんだよな」 「ある意味、理想の形だからなー……」 「………………でも」 「「「「「「やっぱずるいよな」」」」」」」 「…………こーなったら、今日はとことん俺たちの思いをぶつけましょうか」 「跡部にめっちゃ飲ませようぜ、酒」 「乾杯しまくろう、乾杯」 「ほんでちゃんに呆れられたらえぇねん」 「激ダサ跡部を見られるなんて、この機会くらいしかねーだろ」 「やるしかないですね、下克上」 ―――幸せに。 願うことは、ただそれだけ。 決して、この特別な日にのみ、作られた感情ではなく、取り繕った言葉で表現するのでもない。 いつもと同じ感覚で、同じような言葉で。 素直に、気持ちを表現する。 それが、俺たちなりの祝福の仕方。 |