『せや。凄い1年がおんねん』

電話越しに、長々と説明をする声をさえぎって、反論を返す。

「おるでぇ、関東にも」






練習中にかかってきた、1本の電話。
誰や?と思い、着信画面を見れば、久しぶりに見る従兄弟の名前。

……まぁ、休憩中やしえぇやろ。

「……どないしたん?謙也?」

同い年の従兄弟で、親戚の中では1番と言うていいほどの仲である謙也は、大阪の四天宝寺に通っとる。

『おー、侑士ー。久しぶりやな』

「久しぶりやな。で?用件はなんやねん。自分が電話してくるなんて、大抵が厄介ごとやねんなぁ」

『失礼やな。時たまやろ?……それはそうと、氷帝も全国出場決まったそうやないか』

「…………まぁな。宝寺も出るんやろ?」

『当然や。全国で当たるとえぇなぁ。そないなったら、俺が倒してやるで』

「アホ。そないなわけあるか。……で?まさか、ウチの出場祝いの電話やあらへんやろ?」

『当たり前や。……実はな』

そうして盛り上がる、ものごっつい1年の話。

『こっちなんて、もっと凄いっちゅーねん!ヤクザもビビって道空けるっちゅーねん!』

「なんやこっちはアメリカ帰りや、インターナショナルやで―――!」

電話に向かって怒鳴る。
なんやねん、越前を間近で見てへんからそないなこと言えるんやって。あんな1年、他におらへん。っちゅーか、あんなんがぎょーさんおっても困るて。

「……侑士〜?何やってんのー?」

その時耳に入ってきてのは、ものごっつい可愛い声。
俺はくるり、とちゃんの声が聞こえた方を向いて、笑った。

ちゃん、なんでもあらへんでー。すぐ切るからな、気にせんといて。あ、男やからな〜」

言うと、少しはてなマークを飛ばすちゃん。
悩んどる姿も可愛ぇなぁ〜……。

「えーっと……休憩なら、ちゃんと汗拭いといてよ〜。タオル、ココ置いとくね」

「ありがとさんな」

ひらひら、と手を振ると、ニコッと笑うちゃん。
……あぁ、もうこの子はなしてこない可愛いんやろか……。

と、耳元で聞こえる、怒鳴り声。

『ちょ……おい、侑士!なんやねん!その可愛い声の主は誰やねん!?氷帝って、女マネおんのか!?』

先ほどの1年の時の剣幕はどこへ行ったのか。
謙也がなにやらごっつい勢いで聞いてきよった。

この瞬間―――俺は、勝利を確信した。

「……ふっふっふ〜。えぇやろ〜。ちゃん、って言うんやで〜。もう、ものごっつい可愛い上に、よう働く頑張り屋さんでな〜。まぁ、ちょお自分省みんで働きすぎてまうところもあるから心配なんやけど、その心配するんも楽しいしな〜……」

『…………侑士……自分……ッ!』

「いっつもな、『侑士、お疲れ様!』って、めっちゃ可愛え笑顔でタオル渡してくれんねん。そんだけでもやる気湧くっちゅーのに、さらに、『侑士、氷いる?口に入れて舐めてるとちょっとは涼しくなるかも』って……あぁ、もう、とにかくめっちゃえぇ子で可愛くて……いっそのこと、俺がちゃんを口に「いい加減黙れ、妄想眼鏡。テメェの妄想で、勝手にを汚すな」

…………会話の邪魔をするのは、当然この男や。

「失敬やな、跡部。むしろ、汚しとんのは自分やろ!あぁぁ、俺の可愛いちゃん……!」

『おい、侑士……そのちゃんって子、自分のモンなん?』

「謙也、ちょお黙っとき。……もう、とにかくちゃんが頑張っとるとこみると、俺も頑張ろうって気になるし、忙しそうに走り回っとる時も笑顔で、ホンマ、こんな子他にはおらんで……!」

『……おい、跡部。そこにおるんやろ。どうにかしてくれんか、このアホ』

「どうしようもねぇ(キッパリ)。…………というか忍足」

「なんやねん。またイチャモンつける気か、自分。今度はなんやねん」

「テメェ、のことそんな平凡でありふれた言葉で片付ける気か。いいか、はな―――」

『…………もうえぇわ。……あぁ侑士。金太郎見かけたら、連絡したってくれ。……ほなな』

電話が切れたのにも気付かず。

「さっきもだけどな、は俺様に―――」

「なんやねん、自分ばっか特別やと思いよって。俺かて、ちゃんにさっきタオル貰たしな―――」

俺は跡部とちゃんについて話しとった。