目が覚めて、いつもと違う雰囲気にしばし酔う。

腕の中にいる存在。
小さな吐息が、胸をくすぐる感覚。

あぁ、本当に、昨夜と―――。

昨夜の記憶が一気に蘇ってきた。
思わず口元が緩み―――まだ深い息を繰り返しているを見た。

寝顔は何度も見たことがあるが……今日は特別な気がする。

俺の腕の中で眠るは、無防備でまるで小さな子供のようだ。

…………コイツが、昨日、あんな声あげてたなんてな……。

脳裏に蘇る記憶。だが、あまり想像しすぎてはいけないことはわかっている。
そこで思考を中断しておいて、の寝顔をまた見つめた。

首筋には、俺が付けた紅い痕。そんなに付けたつもりはなかったんだが―――こうして見ると、結構な数が付いている。
所有の証を、それほどまでに刻み込みたかったのか。

自分の独占欲に少し苦笑した。

サラリ、と零れた前髪を、ゆっくり梳き上げ、そのまま耳にかけてやる。

その仕草でが目を覚ました。ゆっくり目を開いて……ぼんやりと両目が俺を捉える。
状況把握が終わってないらしく、ぼーっと俺をしばらく見つめ、突然バッと顔を伏せた。
顔は隠れても―――俺が髪を耳にかけたせいで見える耳が赤い。

「…………照れてんのか?今更」

「い、今更じゃなくって……ッ……うぁ……恥ずかしい……ッ」

「バーカ」

の顔を上げさせると、やはり真っ赤。
それを見て笑いながら、軽く口付けた。

「……、いい朝だな」

「うぅぅ……お、おはよう、景吾」

やっぱりまだ恥ずかしいのか、が顔を伏せて俺にしがみつく。しがみついたら、俺に顔が見えないと思ってるのだろう。
……とはいえ、昨日のままだから、俺たちは何も身に付けてないわけで。

「……、あんまりしがみつくな。……反応する」

どこが、とは敢えて言わなかったが、がものすごい勢いで離れたことを見ると、ちゃんと理解したのだろう。
……まぁ、それはそれで、なにか傷つくものがあるんだが。

「け、けけけけ、景吾……ッ」

「そんなに離れなくても平気だ。極端なヤツだな」

腕を引っ張って、もう少し近づける。
の真っ赤な顔に手を伸ばした。

カリ、との鼻を軽く噛んで、舐める。

ひゃぅ、と小さな声が漏れた。
その声と、昨夜の声が被る。

「……ったく、朝からそんな声出すんじゃねぇよ。また襲いたくなる」

「わわわ、景吾が出させたんでしょーッ……ってか景吾……」

「あーん?」

「…………声が、いつもよりエロい」

の言葉に面食らった。
……言うに事欠いて、それかよ。

「朝だから、いつもより低い。だからそう聞こえるんだろ」

「なんか、掠れ具合が、こう……」

口ごもった。また耳まで赤くなってきている。
ニヤ、と笑って俺はの耳元に口を寄せた。

「……声だけで感じる、とか?」

耳の中に息を吹き込むように、わざと吐息だけでしゃべる。
が耳を押さえて、離れようとしたが、それより一瞬早く、の腰を引き寄せた。

「ホント、お前耳弱いよな……」

しゃべりながら、耳の筋をツー、と舌でなぞった。

「け、景吾ッ、朝ッ!朝だからッ」

「今日は休日だろ?1日中ベッドでも、文句言うヤツはこの屋敷にはいねぇよ」

「そっ、そんな……ッ……いくらなんでも……」

「むしろ、親父やおふくろに報告してるかもな」

「…………あぁぁ、有り得そうでイヤー!!!」

その声が、あまりにも悲痛だったから、少し手を緩める。
の瞼へ1つキスを落として。

「……ま、今はこれだけで勘弁してやる」

「い、今はって……?」

「……これから、夜が来るのが楽しみだな?あーん?」

「!!!……け、景吾……平日、は、部活あるし……ね?」

「…………まぁ、止めるだけの理性があったらな」

「止めて!ぜひとも止めて!……うぅぅ、だって色々痛いもん……」

「そのうち慣れる。……俺様が、たっぷり教え込んでやるよ」

が真っ赤になって、また固まった。

「…………景吾、それ、中学生が言うセリフじゃない……っ」

「俺をそこらのヤツと一緒にするな」

言いながら、口付けをして、の口内に舌を入れる。
少し舌を絡ませて、ゆっくり離れた。

「…………起きるか」

「えっ、ちょっ…………あー…………景吾さん、先にどうぞ。私、ベッドの中にいるから」

「あーん?どういう意味だ?」

「……服、着てないから……ッ……恥ずかしいし……」

昨夜散々見たんだが。
……まぁ、の性格からいって、こういう言葉が出てくることを、予想しなかったわけじゃない。

「…………わかったよ。シャワー浴びてくるから、お前はベッドにいるなり、服着るなりしてろ」

くしゃり、と頭を撫でて、俺はさっさと立ち上がってシャワールームへ向かう。
が背後で、ばふっと布団にもぐりこむ音が聞こえた。
きっと照れているのだろう。

ったく……今度はこれが日常になるってのに。

小さく笑いながら、俺はシャワールームへ。


笑い出したくなるほど、幸せな朝だった。