試合会場から帰ってきた私は、シャワーを浴びて、ベッドに寝転がっていた。
いくら疲れてるって言ったって、まだ寝るには早すぎる(9時前だった)。今日のスコアをまとめたり、部活ノートも書かなきゃいけない。あぁ、勉強もしなきゃ……明日から試験だ!(泣)……でも、起き上がるのはヤだから、このまま寝転がったままでいいや。

しーん、とした部屋に、カリカリとシャーペンの音だけが響く。
この部屋に今は、私1人だ。最近、無駄にここに居座る景吾さんは、今お風呂。

明日の2教科目に当たる、化学の勉強をしていたとき、サラッサラでふわっふわの髪の毛から、いいにおいを漂わせながら、私の部屋にやってきた景吾。
私がベッドの上で勉強をしてるのを見て、当然のように隣に寝転がる。その後、手を伸ばして、サイドテーブルに置いてある本を読み出した。……くっ、テスト前だというのに、余裕だね……ッ!それでもまた、この人は満点に近い点数を叩き出すんでしょうよ……!羨ましい、その脳みそを交換して欲しい……!

しばらくは普通に、本を読んでいた景吾さんでしたが。

「…………

唐突に、名前を呼ぶ、低い声。
……これは、マズイ。何かを企んでいる声だ。

「……け、景吾!ここの化学式なんだけど―――んっ」

隣を向いたとたん、景吾がキスしてくる。
あぁぁ、先手打たれた!こーれーはー、マズイ!

なんとかして離してもらおうともがくけど、ガッツリ頭を固定されていて、しかも……深い。景吾の舌が、かなり喉の方まで届いてきてる(汗)

結局どうにもすることが出来ず、景吾が離れていった後も、息が荒くて文句を言うことも出来ない。
少しだけ睨みつけると、余裕綽々の景吾が耳元まで口を寄せて。

「……、膝枕」

……過酷な要求を、囁いた(泣)

「い、今ですか……ッ!?私、お勉強中……ッ」

「今」

景吾が、無理やり私の体を起こさせる。
起こされたまま、片座りをした私の膝の上に、ぽす、と頭を乗せてきた。

「け、景吾……っ」

なんでこの人は、羞恥プレイが好きなんだろうか……!(泣)
ホントに、人が恥ずかしがることが、どうしてこんなに大好きなんだ……ッ!

景吾が、じーっとこっちを見ている。

……ホントに、恥ずかしいっ……見上げられることに慣れてないから、なおさら恥ずかしいよ……!

「け、景吾、寝心地悪いでしょ……!?折角、ベッドなんだし、普通に寝たほうが……」

「こっちがいい」

即答ですか(泣)

あぁぁ、もうだから、恥ずかしいんだってばー!
とりあえず、見上げられることが恥ずかしすぎるので、景吾のぱっちり開いてる目に、手を被せて、その目ヂカラを阻止。

「……なにすんだよ」

「目ヂカラ対策です……!」

ぱしぱし、と景吾の長い睫毛が、手の中で瞬いてる感触がする。
しばらくして、その感触がなくなった。

そっと手を外すと。

目を瞑っていらっしゃる景吾さんが。

ね、寝ちゃったのかな……ただ目瞑ってるだけかな……ど、どっちだー……寝てるんだったら、そーっと膝を外して……あぁぁ、でも起こしちゃう!?しかも、目瞑ってるだけだったら、怒られる……というか、その後なにされるかわかったもんじゃない……っ!

なんか、すごい乙女ちっくな悩みだけど、私は切実です。

だって、以上のことを踏まえると……結局私はここから動くことが出来ないじゃないですかっ!(絶叫)

体は動かしてないけど、頭はフル回転。
さっきの勉強の時以上に、活動してるよね、私の脳みそ。

何度も頭の中で考えるけど、結局いい案は見つからずに。
…………このまま、待機の方向になってしまった。





その体勢のまま固まって、もうすぐ2時間。
いい加減足も痺れて、感覚がございません……!

「…………ん」

小さく景吾が吐息を漏らして、目をふっと開けた。
ようやく、ほっと息をつく。

「け、景吾ー……そろそろ、普通に寝ようよー……明日、試験だし……(もう勉強は諦めた)」

「……また、膝枕やるって約束するなら」

「無理っ!(泣)絶対無理!」

「…………やるよな?」

「……………………………………………………………き、機会があったら」

こ、怖……っ……景吾さんの力に押し切られた……ッ!
私の返答に、景吾が満足そうに笑って、ゆっくり起き上がり、今度は私の隣にぼす、と寝転がる。
……どうやら、ここで寝ることは確定事項らしい。

仕方ないので、私も寝転がろうと思ったのですが。

「〜〜〜〜〜………」

あ、足がありえないほどビリビリしてますがっ!
また違った意味で、動けない……ッ!

「…………?」

「な、なんでもないよ……景吾、先寝てて……っ、私、もうちょっと勉強してるから……」

軽く笑って、手は振るけど、絶対足は動かせない。手がちょこっと触れただけで、悶絶しそう……ッ!
1ミリも動きたくない……っ!

どうしたものか、と悩んでいたら、景吾さんがニヤリといつもの笑いを浮かべてきました。
…………こ、この笑顔は……っ!

「…………足、痺れたんだろ?」

バ、バレバレですか……っ?
寝転がったばかりの景吾が、むくりと起き上がった。

「け、景吾さん、どうぞお眠りになってくださいっ……」

「バーカ、こんな面白い機会、誰が逃すかよ」

ちゅっ、と軽くキスをしてくる。
ヒィィ、勘弁して〜!
逃げようと思ったけど。

「〜〜〜〜〜!!!」

あ、足がぁぁぁぁ〜!(泣)
ここぞとばかりに、景吾がキスをたくさんしてきて、またエロい指で、頬を撫でたりしてくるんだよ……!
あぁぁ、逃げたいっ!逃げたいよぉぉ!

「クッ……抵抗しねぇも、可愛いじゃねぇか」

「しないんじゃなくて、出来ないんですっ!……んぅ……っ」

さらになんとか話を続けようとしたけれど、また口を塞がれた(泣)

「…………明日は、学校か……だが、どうせ試験で部活もねぇし……ちょっとくらいの夜更かし、平気だろ……?」

「へ、平気じゃないっ!私、確実に化学やばい……!それだったら、化学の勉強を……」

「じゃあ、化学教えてやりながらにするか。……俺様の授業料は、高いぜ?」

「じ、自分で勉強しますから……っ、ご心配は無用です……!」

「…………ちなみに、さっきの化学式、間違ってたからな」

「……えっ……ってことは、さっきやった問題、全部違う……!」

あぁぁ、私の悩んだ時間、返して!
景吾がニヤ、と笑った。

「……わかりやすく、15分で教えてやる。その後は、俺様に付き合え」

15分……!景吾ならきっと、もうこれ以上ないくらい(下手したら、先生よりも)わかりやすく教えてくれるんだろう。その15分で、確実に10点UPする……!いや、私がもうちょっと頑張ったら、15点はUPするかもしれない。

「どっちにする?……15分で、足の痺れも取れるだろ?」

「……うぅぅ……」

「生徒会副会長としては、テストで悪い点数は、いただけねぇよなァ?」

「あぁぁ…………お、お願いします……シクシク……」

「安心しろ、すぐ覚えさせてやる。……その後は、お楽しみだ」

「ね、寝不足にならない程度に……!」

ニヤ、と笑う景吾からの、返答はない。

結局、ばっちり15分で化学を教えてもらった私は、化学のテストは良かったのだけど……寝不足でテスト中に睡魔と格闘するハメになった。

なんだか、取引が多い気がするよ、しかも、私にとって不利な取引……!

こんなのが、まだ後1個残ってるのか……!あぁぁ、一体景吾さん、何を要求してくるんだー!(大絶叫)