運動会本番まで、後2週間と迫ったところで、色々な確認事項やらも増えてきた。
応援団を含め、なんとなくスポーツ部が中心となっているので、私もそれなりに動くことが多い。
今日も、侑士と共に、私たちA組がある棟とは反対の、F組たちの棟にまで、競技サポートメンバーやら応援団やらの確認をしにきた。
……そんなわけで、最近はちょっと一緒にいられないことが多いのです。

だから。

景吾の姿を見つけたときは、結構嬉しかったんだよ?



Act.17 穏な空気の、静かな前触れ



F組の前で、野球部の男子なんかと話しこんでいたとき、ふと視線を感じた。
手元のプリントから顔を上げると、目の前の男子が私の背後をじっと見ている。

なんだろ?
疑問に思って、振り返ってみた。

ら。

そこには―――景吾の姿。
景吾は中々こちらの方向には来ないから、珍しい。
だからだろうか。景吾はものすごい注目を集めていた。……いや、いつも景吾は注目を集めてるか。

まぁ、とにかくそこに景吾がいたわけで。

なんとなく、嬉しくなった。
いつもは会えないような場所で、会えたからね。

「あれ、景吾?珍しいね、こっちにいるなんて〜」

「あぁ……お前こそ」

「私は最近こっちに出没してることが多いんだよー」

最近の休み時間は、教室にいるよりもこちらにいることの方が多い。白組の運動部はA組やB組には少なくて、反対側の棟になるF組なんかに多いから、必然的に私たちがこちらに来ることになる。

「どしたの?景吾はなんか用事だったりする?」

「いや……ただお前を珍しいとこで見かけたからな」

「あ、それで声かけてくれたの?」

見かけただけでも声をかけてくれるなんて、ちょっと嬉しいじゃないか!
思わず嬉しくてにやけた顔をしてしまう。

あぁ、と頷いた景吾の目線が少し移動して―――急に険しくなった。

「……忍足、お前もいたのか」

景吾の声に、私の隣で他の運動部と話していた侑士が、ひょいと顔を向けた。
どうやら景吾は、侑士に気付いていなかったらしい。

「なんやねん、今気付いたみたいに」

「今気付いた」

「…………ずっとおったわ、ボケ」

今度は侑士まで、不機嫌そうな顔になった。
瞬間的に漂ってきた険悪な雰囲気に、マズイ、と思いはじめたら―――。

「なぁ、ー。んで、こっちの競技中はどうすればいいんだ?」

声をかけてきた運動部の男子に、思考は中断し、頭を切り替えた。

「あ、この時間帯は大丈夫。人数足りてるから」

「おー、了解」

「こっちの時の集合は?お前探せばいいか?」

「うん。多分入場門付近にいる」

「ちょい待ち。ちゃん、前の競技出るやろ?」

「あ。…………そうだ」

「……ほなら、俺が入場門付近おるから、俺を探し。んで、ちゃんも後から合流な」

「了解。……ごめん、すっかり自分の出場競技忘れてた」

「俺ら、出る競技も多いからな」

ぽん、と侑士の手が頭に乗っかる。
ホント、自分の出場競技やら競技のサポートメンバーやらで、頭の中がこんがらがってくる。

「あ、じゃあ、、こっちもヤバイんじゃね?」

指摘された箇所を見て……サーっと血の気が引く。

「あぁぁ、ホントだ!!ど、どうしよ、この時は侑士もいないよね……!?イヤァァア、そしたらこっちもだァァア!」

とんでもないミスに、叫んでも意味はないとわかりつつも、叫んだ。
すると、ぽんぽん、と、再度侑士の手が私の頭に乗っかる。

「落ち着き。そしたら、宍戸呼んで―――ん?」

「……ゆ、侑士?」

急に話を切った侑士。
また何か不都合なことが発覚したのかと思って、恐る恐る顔を上げて聞いた。

「……ど、どうかした?また何かあった?」

「いや……いつの間にか、アイツがおらんと思てな」

「へ?」

「跡部や跡部。さっきまでおったやろ?……けど、今おらへんやん」

侑士の声を聞いて、私も辺りを見回す。
……確かにいない。

「……珍しいな、跡部がなんも言わんと消えるなんて……」

「そだね……待ちきれなかったのかな?」

「結局、何しにきたんや、アイツ?」

一瞬、不思議そうな顔をした侑士は―――すぐに、表情を元に戻して、先ほどの話を再開させた。

私も景吾の行動に首を捻ったけど。

すぐに、目の前の事項に頭の中身は占拠されていった。




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