いつものように、と(不本意だが忍足も加わって)話していたら、視界の端にひょい、と教室を覗き込んでくる人影が写った。

「おぅ、と忍足いるかー?」

「はいはーい」

声に反応してが視線をドアの方向に移したのと同時に、俺もそちらに目を向ける。
ドアのところにいるのは、宍戸だった。

「今日の集合、場所はLLな〜。俺、他んトコも伝えてくっから、お前ら2人先行って、準備しててくれねぇか?」

「了解。……ほな行くか、ちゃん」

「うん。……景吾、じゃ、行ってくるね」

1つ頷いて、手を振りながら早歩きで去るに右手を上げた。






体育系の行事というのは、大体どこの組でも、運動部のヤツがトップに立って、組をまとめていく。
俺も赤の中ではまとめ役になっているが……どうやら、あいつらも例外ではないらしい。こうやって、よく普通の休み時間にも集まっている。

「………………」

空いた時間の有効活用のために、本でも読むか、と詩集を取り出した。
ぱらぱらとページを捲っていくのだが―――内容は、中々頭に入ってこない。

は今、アイツらと何をしてるのだろうか。
俺の知らないところで、何をやっているのだろう。

………………頭ではわかってる。
理解しているつもりなのに。
―――それでも、気に食わないものは気に食わない。

が、俺の知らないところで、俺の知らないことを、忍足や宍戸たちと話しているかと思うと、やけに腹が立つ。

本番までは、お互いが手の内を明かさないためにも、隠し事が多くなる……それも、俺をイラつかせる原因だ。
はこういうところは強情で、中々情報を漏らさない。
……いや、別に俺は、情報が欲しいわけじゃねぇんだが。

ただ、あいつが俺に『隠し事』をしているという事実が気に食わない。

あいつのことなら、全て知っていたいから。

あいつのことで、俺が知らないことがあるのが、堪らなく不快だ。

支配欲。
征服欲。

胸の中に芽生えた炎が、チリチリと、嫌な音を立てて燃えはじめた。






「たーだいまー」

のん気な声に、ごちゃごちゃと考えていた頭の中身が全部1度リセットされる。
ほとんど読んでいない詩集を、そっと閉じた。

「早かったな」

「うん、ただの確認だけだったー」

「俺ら別に行かんでも良かった感じやな」

……チリ。

奇妙な音を立てる胸。
それを無視して、俺はいつものようにに笑いかける。

「ほぅ?……なんの確認だ、?」

「……内緒ですー。そっちこそ、状況はどうですかー?」

「……さぁな?ご想像にお任せするぜ」

ニヤ、と笑って見せると、の顔が楽しそうにほころぶ。
その楽しそうな顔を見て、ようやく少し炎が収まる。

……ったく、俺らしくねぇ。

「……ま、どんな状況だろうと、白には負けねぇけどな」

「むっ、こっちだって負けないよ!」

…………今だけだ。
こうやって『敵』となって、掛け合えるのも。

今、だけだ。

そう思うことに、した。