私たちが話をしている間、景吾がいつの間にか姿を消した。
しばらくして確認を終えた私は教室に戻ったけど、教室に景吾はいなかった。
まだ少し休み時間には余裕がある。
本当なら教室で待っていれば、いつか戻ってくるだろう。
だけど。

なぜだか、突然立ち去った景吾のことが気になって仕方がなかった。

だから私は、探しに行くことにしたんだ。






「跡部?来てないぜー。どっか違う組じゃねぇか?」

がっくんの返答を聞いて、小さくため息をつく。
ここにもいないか……A組を出発して、B組、C組……と回ってきたけど、がっくんのクラスにもいないらしい。

「わかった。ありがと、違うとこ探してみる」

「急ぎか?……つっても、お前ら同じクラスだし、戻ってくるの待ってりゃー……」

もっともな意見を言うがっくんに、苦しまぎれの笑みを浮かべる。

「んー、ま、ちょっとねー。ありがと、がっくん!」

「……おう。また来いなー」

ヒラヒラと手を振って、私はまた廊下に出た。
やたらと生徒数が多い氷帝学園は、休み時間の廊下もすごい人口密度だ。
人をかきわけるように進んで行って、きょろきょろと辺りを見回す。

「…………だからそこは……」

「だけど……」

微かな声……だけど、聞き間違えるはずがないその声に、私の耳が反応する。
聞き取った方向に顔を向け、人の隙間から覗き込むように向こう側を見た。

「…………いた」

人込みの向こうに、景吾の姿が。
駆け寄ろうとして気付いた。
景吾が誰かと話していることに。

…………そりゃそうだ、誰かといなければ、声なんて聞こえるはずがない。

妙に納得してしまい、駆け寄ろうとしてた足が、なんとなく止まる。
1つ呼吸をしたら、迷う時間が出来てしまった。
…………誰かと話してるんだったら、わざわざ邪魔することもないかな。

「…………?」

それでもどうしようかと悩んで、ぼーっと景吾を見ていたら、先に向こうが私に気付いた。

「……あ、景吾」

さっきとはまったく反対の状況に、少し戸惑う。

「どうした。なにかあったのか?」

「ううん、そういうわけじゃなくて、その「跡部くん、あの、ここは―――」

私の言葉を遮るように、会話が差し込まれる。
景吾と話しているのは―――器械体操部の女子キャプテンだ。
確か、スポーツブランドの会社令嬢……だった気がする。小さいころからバレエやダンスをやっていたとかいう噂を、マネージャー会議で聞いた。
小さくて細くて可愛い子だ。抱きしめたら、折れちゃいそうなくらい。

「……ったく、何度も言ってるだろうが。ここは―――あぁ、ちょっと待ってろ、すぐ終わるから」

最後の言葉は、私に向けて言った言葉。
すぐに景吾は器械体操部の子に顔を向けて、何かを相談し始めた。景吾たちも、運動会の打ち合わせだろうか。

もやっ……としたものが何か生まれた。
……だけど、それを認めるのはとてもイヤだった。
考えたくなかった。

だから。

景吾の顔が、私の方を向く前に。

気付かれないように、そっと離れたんだ。