疲れた。 ほんっとーに今週は疲れた。 水曜日のあの事件はもとより、それ以外にも細々としたトラブルなんかの処理に追われたし、またちょっと跡部親衛隊の子たちに絡まれたし(逃げたけど) とにかく、疲れることばっかりだった。 それでも今日は金曜日。しかも、一応終業式だった。……まぁ、来週も夏期講座という名のもと、授業の延長みたいなのがあるけども。 「…………あー……疲れた…………」 ドサッとベッドに倒れこんだときのシーツの感触が、最高に気持ちよかった。 今日は珍しく景吾が部屋に来ない。夏期講座(大半が普通の授業の延長みたいなもの)の課題をやってるのだろう。 明日、明後日があるというのに、今日中にやるんだよ……さすがは跡部景吾様。私は日曜日の夜にやることでしょう……半分泣きながら(自分をわかってる) まぁ、いっか……たまにはだるだるーっとしよう。 ぽち、とテレビをつけて、チャンネルを回す。 なにやら面白そうな番組を見つけたので、それを見ることにした。 でも。 「…………ふぁ…………」 20分も見てるうちに、段々眠くなってきた。 そうだよ、疲れてるってことは、睡眠を欲してるんだよー……。 跡部家は冷暖房完備だから、素敵に快適なのも、眠気を増進する。 景吾に貰った、ふわふわのイルカクッションを抱きしめつつ、しばらくテレビを見ながらガマンするけど……ダメだ、無理。 かろうじてリモコンに手を伸ばし、テレビをオフタイマーにする。 なんとか最低限のことをやって力尽きた私は、そのままイルカクッションと共に倒れこんだ。 いつも通り、の部屋の扉を無造作に開けようとしたところで、はたと止まった。 ……そういや最近、ノックをしてねぇな、と。 今まではタイミングが良いのか(どうなのかわからないが)、着替えなどの場面に直面したことはないが、考えてみれば危ない。 ……いや、別に着替えていても俺的にはなんの支障もないわけだが、アイツ的にはまずいだろう。 小さく息を吐いて、コンコン、と扉をノックした。 「……、俺だ」 部屋は広いが、それでもノックの音は響く。の耳には確実に届くだろう。 すぐに返答を期待していたのだが―――。 「…………?」 扉が開けられる様子はない。 再度、ノックを繰り返した。 「?…………入るぞ?」 結局、堪えきれずに、いつもと同じように部屋の主の許可なく、扉を開ける。 ゆっくりと歩みを進めれば―――。 「…………ったく……」 俺が贈ったイルカのクッションを抱きしめつつ、ベッドの上で無防備に寝ているがいた。 テレビがまだついてるが、オフタイマーになっている。かろうじて、オフタイマーにしたのだろう。 オフタイマーになっていても、見ないのなら意味がない。 の右手すぐ横にあったリモコンを手に取り、電源を切った。 部屋に誰か入って来ているというのに、爆睡しているに軽い危機感を覚えつつ、その体を揺さぶった。 「……、オイ。クーラーついてんだから、何も掛けねぇで寝るな。それに、その位置じゃお前、落ちても知らねぇぞ」 「…………んー……」 俺の言葉に、が、開いてんだか開いてねぇんだか、わかんないくらい細く目を開けた。 「誰……?景吾……?」 「俺以外のヤツがここにいてたまるか。寝るなら、ちゃんと何か掛けて寝ろ」 「んー……ちょっと起きた……起きる……」 段々と目が開かれていき、むく、と起き上がった。 1つ欠伸をして、ぱちぱち、と瞬きをして浮かんだ涙をごまかした。 「……まだ10時前だぜ。お前は小学生か」 起き上がったの隣に腰掛ければ、やはりまだ眠いのか、が軽く寄りかかってきた。 「……なんか、今日……すごい、疲れてて…………」 言ってる最中に、また目が細くなっていく。 うとうと、と言う表現がまさしくピッタリだろう。 俺の肩で、再度まどろみ始めた。 「……なら、無理しなくていいから、もう寝ちまえ」 「…………んー…………」 コックリ頷き、もそもそと移動し始める。 きちんとベッドの定位置まで移動して、眠り始めた。 小さく息を吐いて、アンティークの時計に目をやった。 「……まだ10時か……」 近頃の中学生が寝るには、早い時間だ。 ……まぁ、の疲れが溜まっているのは知っていたが。 水曜日の一騒動の後も、細々とした処理に終われていたし、今週は特に夏休み前ということで、宿題も多かった。 アイツは隠しているが―――また、何か俺絡みでちょっとしたトラブルになったことも、知っている。 仕方、ねぇか。 さら、と髪の毛をかきあげ、露になった額に小さくキスをした。 「……Gute Nacht. Haben Sie einen nettem Traum.」 ―――おやすみ、良い夢を。 少しでも、疲れが取れることを、願って。 ささやかな、金曜日の出来事。 |