12月24日、深夜。 私は用意していたものをそっと取りだした。 向かう先は、お屋敷内の暖炉。 「可愛いサンタの出動か?」 …………色っぽいサンタにつかまりました。 聖なる夜の、願い事 景士はすでにぐっすり夢の中。 散々、「サンタさんが来るまで起きてる!」と言い張っていたが、景吾がぼそりと 「サンタは夜中起きてるようなヤツんとこには来ねぇんだろうな」 と言ったとたん、イソイソと自分の部屋に戻って行った。 お願い事を聞きだしたり、しっかり寝かせたり、景吾さんは、お子様の心を操る術を持っていらっしゃるようです。 景士が寝てからしばらくして、私は用意しておいたプレゼントを持った。 跡部家には暖炉があるので、プレゼントはその近くに置いておくのが恒例だ。夜中のうちに、ちゃんと置きに行かなければならない。 立ち上がった私の腕を、本を読んでいた景吾がつかんだ。 「可愛いサンタの出動か?」 歳を重ねるごとに、どんどん色っぽさを増していく景吾の薫りにのまれそうになった。 「…………私はサンタに景吾並の色っぽさをプレゼントしてほしい……」 思わず呟いてしまうのも、仕方がないと思ってほしい。 「あーん?」 「……ナンデモアリマセン。……ママサンタは行ってまいります」 「俺様も一緒に行く。……そんな薄着で行く気か?ほら、これ羽織れ」 ふわりと肩にカーディガンをかけてくれた景吾は、私の持っていたプレゼントをさりげなく持ってくれた。 歩き出そうとする景吾に慌てて駆け寄って、私は景吾用のカーディガンをその肩にかけた。 「景吾こそ、冷えるよ〜」 「…………あぁ、ありがとな」 その時景吾が浮かべた、キラキラの笑顔にドキリ、とする。その瞬間、ちゅ、とキスをしてきた。 不意打ちの笑顔とキスに、何年経っても慣れない恥ずかしさがこみあげてきて、思わずかたまった私。景吾は私を見て、クッと喉を鳴らしておかしそうに笑った。 「バーカ、なーにかたまってんだ。……ほら、行くぞ」 手をひかれて、部屋の外へ。 案の定、少し冷える廊下はカーディガンを羽織ってなければ寒いくらいだ。 でも、軽く繋がれた左手は、とても温かかった。 少し離れた場所にある広間。 音をたてないようにドアをあけて、奥にある暖炉に近づく。 今はあまり使われていないその暖炉の脇に、そっと景吾がプレゼントを置いた。これで明日の朝、景士はこのプレゼントを見つけることが出来るだろう。 後は2人で静かに部屋に戻った。 もう夜も遅いので、そのままベッドに入って電気を消す。 眠りにつく前に、プレゼントのことを思い出した私は、くすりと笑ってしまった。 「?」 まだ眠っていなかった景吾が、小さな声でたずねてくる。 「どうかしたか?」 「ううん。…………景士は、やっぱり景吾の子だな、ってふと思って」 暖炉の脇に置かれた、サンタからのプレゼント。 景士が望んだ、今、一番欲しいもの。 それを思い浮かべて、ふっと笑った私を景吾が不思議そうな眼で見た。 「……なんだ?なにがあったか教えろよ……」 くすくす笑っていた私に、ちょっと拗ねた顔でキスをする。 「ふふ……プレゼントのことだよ。景吾と景士がいかに似てるかわかった。プレゼントの中身もそうだし……行動とか思考とか、そっくり。この発見は、私へのサンタさんのプレゼントかな」 なんだそれ、とあきれたように笑った景吾。 「ま、ご苦労さん。サンタクロースも大変だったな」 「結局、景吾さんにお任せしちゃったけどね。ママサンタはあまり出番ありませんでした」 あはは、と笑った私に、そんなことねぇよ、と景吾がキスしてくれた。 それだけで十分だった。 何度かキスをした後。 景吾の表情が、ゆっくりと含みのある笑みに変わった。 「…………なぁ、サンタクロース。それなら俺の願いを聞いてくれ」 「え?」 景吾の突然の言葉に驚いて動きを止める。 そっと耳に寄せられた唇から漏れた言葉は、 「……サンタを、俺にプレゼントしてくれ」 ―――甘いわがまま。 聞こえた言葉と低く掠れた声に、体がビクリと反応する。 「…………え、ちょ」 「それとも…………俺が頑張ったサンタにプレゼント、してやろうか……?」 「ちょ、待っ………景……ん…っ」 「あ―――!!!」 翌朝、起きて一番に暖炉のある部屋に走って行った景士は、暖炉脇に置かれたプレゼントを見て、喜びの声をあげた。 寝不足ゆえに、あふ……と出そうになったあくびを無理やり抑えて、景士に微笑む。 「今年もサンタさん来てくれたんだ!」 「お前がいい子にしてたからだ。よかったな」 景吾の言葉に、うん!と嬉しそうに頷いた景士は、さっそくラッピングを解いてプレゼントを取り出した。 「う、わぁ〜…………」 出てきたのは、新しいテニスラケット。 小さいけれど、きちんとしたメーカーが作ったジュニア用のラケットだ。 「景士、ラケット頼んだのね」 何も知らないふりして景士にそう言えば、満面の笑みが返ってくる。 「うん!サンタさん、ちゃんと僕のお願い聞いてくれたんだ……」 ラケットを抱きしめ、愛おしそうに数回撫でた後、景士はぱっと顔をあげて、景吾を見た。 「パパ!サンタさんにもらったラケットでテニスしたい!」 「……そうだな。じゃ、朝食後にさっそくやるか」 「うん!あ、グリップテープ巻かなきゃ……!」 「とりあえずプレゼントは部屋に置いてこい。グリップテープは後で巻いてやるから。先に食事だ」 「はーいっ!」 パタパタとラケットを持って部屋に戻る景士を見送ってから、私はつんつん、と景吾をつついた。 「……景吾さん」 「あーん?」 「…………昨夜、途中から意識がなくて」 「あぁ……お前、先にギブアップしたな」 「当たり前です!……じゃなくて!」 私は自分の左手を景吾の顔の前に掲げた。 「…………朝起きたら、左手に綺麗なブレスレットがついてたんですが」 それを見た景吾は、ニヤ、と笑い、 「……さぁ?サンタクロースのプレゼント……かもな」 「〜〜〜〜〜〜もう!」 楽しげに笑い続ける景吾。 その胸に飛び込んで、真っ赤になった顔を見られないようにした。 「…………ありがと、すっごい嬉しい」 「……喜んでもらえて至極光栄。……ま、俺様は一足先に、昨夜プレゼント貰ったからな」 軽く抱きしめ返してくれて。 額に、柔らかな感触を感じた。 誰もが幸せいっぱいの、12月25日。 |