プルルル、プルルル……プッ。

『……珍しいな、跡部。自分からかけて来るなんて。どないしたん?ちゃんがまた、無茶しよるんか?』

「……それもあるが……それよりも、医者のはしくれとしてのお前に聞きたいことがある」

『は?』

「……が、最近食欲がないみたいなんだが」

『……ホンマか?……今は―――7ヶ月やっけ?』

「あぁ、7ヶ月……あと1週間で8ヶ月だ」

『ほなら……きっと腹が膨れて胃が圧迫されてるから、食欲落ちてんのや。それに、最近暑うなってきたし、夏バテも入っとるかもしれんな……』

「……対処法は?なにしろ、食わなさすぎる。食事といえば、パンとサラダとかそんなもんだし……俺が仕事でいねぇ時は、トマト半分ぐらいしか食わねぇみたいだ」

『あー……まずは、食事回数増やすことやな。少しずつでも、回数食べるように言うとき』

「……わかった」

『それから、貧血も起こしやすくなる時期やし……ほうれん草や小松菜とか……においとか大丈夫そうやったら、レバーも食べさせた方がえぇな』

「……シェフに言っておく」

『でも、せやからって食べすぎはあかんで?薄味にな、薄味に』

「…………おい、忍足。お前、やけに詳しいな?」

ちゃんが妊娠してから、ちょお勉強したんや(いつでも育児に参加できるように)……入院準備とか、しとるんか?』

「つい最近始めた」

『そうやな……入院のこととか、よーく話合っておき。前に1度流産しかかってるし、何が起きても慌てんようにな。なんかあったら、俺んトコ電話してくれれば、助言くらいは出来ると思うで』

「あぁ、にも言っておく。…………ったく、アイツ。相当辛いはずなのに、また言わねぇんだ」

ちゃん、辛いことあんま表に出さない子やからな……ホント、たまには弱音吐いてえーのに』

「真っ青な顔で、笑って誤魔化すんだぜ?……見てるこっちが、痛々しい」

『……今度、食べやすいもんでも持って、様子見に行くわ。……そういえば、ちゃん、跡部の試合、見に行ったんやって?…………よう許可したなぁ』

「仕方なくだ。……お前だって、アイツが言い出したら聞かねぇことは知ってんだろうが。……それにお前、あいつの頼み、断れる自信あるか?」

『……ないな』

「だろ?」

ちゃん、一生懸命やしな〜。……家じゃ、ちゃんと大人しくしとるん?』

「……してるわけねぇだろ。こっちがヒヤヒヤするぜ、ったく……でも、だんだん母親の顔になってきて……笑った顔が、堪らなく可愛い」

『……惚気んなや。お前、俺に当て付けとるんか?』

「当たり前だろ。まだ人妻奪還狙ってるテメェには、ちゃんと牽制しとかねぇとな」

『くっ……えぇもん。俺、跡部が仕事行ってる間、ちゃんと映画やコンサート行ったる。身軽な学生の特権や。そんで、周りの人たちに『俺の妻です』ってアピールしたる』

「ふざけんな。そんな許可は俺様が出さねぇ」

『跡部の許可なんか求めてへんわ。俺が求めとんのは、ちゃんの許可だけや。きっと、映画とか付き合うてくれるで。胎教にもいいしな』

「胎教なら、俺様が作ったCDがある。それに、コンサートだって俺様が一緒に行く」

『跡部、仕事詰めとるんやろ?忙しい身でコンサートはキツイやろ〜。俺に任せとき。……これで、周りの奴らに『奥さん、何ヶ月目ですか?』とか聞かれて、俺は『7ヶ月なんですよ〜。な、』とか言ったら、周りの人間達の脳内では、俺が腹の中の子の父親や……!』

「……お前が哀れな生き物に思えてきたぞ、俺は」

『ほっとけや。……あー、でも、子供……ホンマ楽しみやな……女の子がえぇな。いや、きっと女の子や。そうに違いない』

「お前な……」

『その時は、服とかぎょうさん買うてやるで。今、子供服も充実しとるしな……この間、めっちゃ可愛い服見つけてん』

「俺の子供を着せ替え人形にするな。……もう切るぞ」

『今度、その服持っていくわ〜』

「…………買ったのかよ……」

『後な、レースのついたフリフリのワンピ……』

ブツッ。

ツーツーツー。