昨日、全国大会の抽選会が行われた。 1回戦は、北海道椿川学園に決定。 そして今日、全国大会前日。 ついに最後の練習が終了した。 これで泣いても笑っても、明日の試合で力を発揮するのみ。 手先が冷えていくような感じ。 反対に、心臓は熱く、バクバクと脈打っている。 部室で明日持って行く荷物の確認をしていたとき、私を襲ってきた感覚。 身に覚えがあるこの感覚は―――緊張、と表現されるものだ。 練習終わりの集合のときも、明日の試合の集合場所を伝えるときだってそんなに緊張してなかったのに、なぜ今になって……あ、そうか。 まだ、実感がなかったんだ……今日が最終練習日で、明日からは試合だっていうことに。 「?」 急に動きを止めた私を訝しがってか、近くにいた景吾が声を掛けてきた。 「どうかしたか?」 「………………緊張してきた」 「……あぁん?」 「うぁー、どうしよう景吾!明日試合だよ、明日ぁぁ!」 全国大会……試合!(絶叫) 今までにない強豪ばかりが集まる大会だ。 そんな大会が……もう明日!!! 私たちに与えられた期間は、わずか1週間で。 その中でこれ以上できないくらいの練習をやってきたけれど……正直、もうちょっと時間が欲しかった。 「……何言ってんだ、今更」 「ー?」 「どないしたん、ちゃん」 部室にいたレギュラーたちも、会話に参加してくる。 「緊張って……先輩が試合するわけじゃないでしょう」 「そうだけど…でも、なんか緊張するんだよー!うわぁぁぁ……」 「……落ち着け、バカ」 ポン、と景吾の手が頭に乗っかる。 そして、ぐしゃぐしゃっといつもより少しだけ乱暴に撫でられた。 「お前はいつもどおりでいりゃいいんだよ。そうすりゃ、俺様たちが勝利を見せてやる」 「うぁぁあ……景吾ー……!」 「……ちゃんも、俺らの仲間やんな。せやから、緊張すんねんな」 「侑士ぃ……」 「だいじょーぶだって!俺が緊張吸い取ってやるC〜!」 「……ジローちゃんってば……」 むむむ、と手を目一杯広げて妙な動きをするジローちゃんに、思わず笑ってしまった。 ふっ、と景吾が、うっとりするくらいの柔らかな笑みを浮かべた。 「これでもまだ、緊張してるか?……それだったらお前、あれやるか」 「…………あれ?……あれって何?」 「入場式の、プラカード持ち」 「………………は?」 言われたことを私が理解するより先に、侑士たちが反応する。 「賛成賛成ー!俺もと一緒に入場したいー!」 「そやな、ちゃんプラカード持ちとか、めっさ可愛ぇやん!俺、1番前ついてくわー!」 「バカヤロウ、1番前は俺様だ。……あぁ、今からならまだ間に合うな……なんだったら、今すぐ上層部に電話掛け……「うわー!ちょっと待って待って!!!」 どこからか携帯を取り出した景吾を、慌てて引き止める。 ようやく言われた内容を理解した。 入場式のプラカード持ちって……『氷帝学園』とか書かれたプラカードを持って、景吾たちの前を歩く可愛い(ここ重要)女の子のことですよね!? 無 理 … ! 「そんなん絶対無理無理無理!!!可愛い女の子がやる仕事だから!」 「さんだって可愛い女の子ですよ?」 チョタ……!紳士発言は嬉しいけど……寂しくなる!(泣) 「っていうか、あれってやる学校が指定されてるんでしょ!?無理だって!……っていうか、絶対ウチのプラカード持ちは競争率激しかったと思うのよ……それを無理やり取るなんてこと、私には出来ない……!」 誰が氷帝のプラカード持ちをやるかで勃発する、女たちの戦い……容易に想像できるからなおさら怖い。 そしてそれを勝ち抜いた強者と対決する勇気なんて、生憎、私にはありませんことよ……! ヒィィ、と嘆いていたら。 「……そうだ、それでいい」 ニッ、と景吾が強い笑みを浮かべた。 ……さっきのやわらかい笑みも好きだけど、こっちの強い光を持った笑みもたまらなく好き。 そして、気付く。 私の体から、妙な緊張が取れていることに。 「……緊張するのは頑張ってきた証拠だ、悪いことじゃねぇ。……だが、過度な緊張は、やっぱりよくねぇからな」 「…………ん」 「ほな、明日から、ぼちぼち行くで」 「あぁ、関東の時の俺らじゃないってコト、周りの奴らに見せつけなくちゃな!」 みんなで集まり、自然と円になる。 「…………明日からは、全国だ。気合い入れてくぞ、テメェら!」 「「「「「おう!」」」」」 余談。 「ちゃん、ジャージ着て帽子でも被って俺らん中混じっとったらわからんのとちゃうん?」 「岳人やジローよりも、背も高ぇしな」 「うっせ、宍戸!お前だって2センチ程度だろー!」 「俺の後ろに隠れるようにすれば、尚のことわからないかも知れませんよ」 「…………なんだお前ら、そんなにと一緒に入場式に出たいのか?」 「……先輩も一緒にやってきた仲間ですからね」 「俺らがここまで来れたのって、がいたからっしょ?」 「…………ウス」 |