それぞれ1着ずつ学ランを持って帰ってきた。 ……のはいいんだけど。 「……さーて、どこに隠しとこっかな……」 紙袋を前に、私は部屋の中で1人頭を悩ませていた。 机の影。 ベッドの下。 クローゼットの中。 …………まるでイケナイ本の隠し場所を探している男子中学生の気分だ。 どこが1番目に触れないか、普段の勉強以上に頭をフル回転させている。 でも、おそらく、どの男の子も感じているだろうことを私も同じく感じていた。 「どこに隠しても、危うい気がする……!!」 もしも何かの拍子にベッドの下を覗いたりしたら、とかを考えるとキリがなくて、どこに置こうとしても怖くなってくる。 いや、でもそんなことばっか言ってるうちに、景吾さんが部屋に来てしまう確率の方が断然高い。 「…………一番、無難か」 そう思って、ベッドの下に紙袋を押し込む。一応用心して、なるべく奥まで入れ込んだ。 ぐいぐいと入れていると、コンコン、とノックの音がした。 ハッ、と意識をドアの方に集中させると、私が返事をするよりも先に細くドアが開き、景吾が半身を覗かせた。 「、夕食だぞ」 「あ、うん、今行く!」 素早く立ち上がり、ぱっぱっ、と床に膝をついたが為の汚れを落として立ち上がる。 「?……何かやってたのか?」 「あ、いや、ちょっと物落としちゃってさ、探してただけ!」 「ったく……何落としたんだ?」 1つため息をついて、景吾がゆっくりと入ってきて床を見渡す。 イヤァァァアア!と心の中で絶叫しつつ(万が一にもベッドの下を覗かれたら、たまったもんじゃない!)、慌てて景吾の視界の中に入り込む。 「だーいじょーぶ!!もう見つかった!!!」 「…………そうか?ならいいんだが」 辺りを見回すのをやめた景吾を見て、ほー……っと息を吐く。 さ、最後の最後でヘマをしてなるものか!! ぐいぐいと景吾の背中を押しやるように外へと向かう。 「…………?……お前、なんか様子変だぞ」 「そ、そそそそんなことないよ!うん!」 「嘘つけ。……何か隠してるな?」 ズズイ、と迫ってくる景吾の顔から目を逸らす。 景吾の目を見たらダーメーだー! 「うーわー!勘弁!」 「言え」 「超命令口調だし!!……勘弁してくださいぃぃ……運動会の極秘事項でございますぅぅ〜〜〜!!」 「ほっほぅ……面白い、口割らせて見せようじゃねぇか」 「イヤァァアア!!明日!明日までは勘弁して!!」 「バーカ、明日だから、今日やんねぇと意味ねぇだろーが。……それにもう、こんな腹の探り合いも、今日で終わりだろうしな」 クッ、と喉の奥で笑いながら、景吾がぐい、と私の顔を軌道修正する。 ヒィッ、景吾様のお目々が眼前に!!! 「ほら、言っちまえよ。……何隠してんだ?」 「これだけは言えません〜〜〜〜!!!」 「……夕飯より先に、お前食べるって手もあるんだぜ?」 「ギャア!!何をおっしゃいます、景吾さぁぁぁん……!ホント、これだけは勘弁してくださいぃぃぃい……!」 私の顔は、壮絶な表情をしてたんだろう。 景吾が呆れたような顔をした後、面白そうに笑い始めた。 クックックッ……と低く喉の奥で笑う景吾の顔が、ゆっくりと近づいてくる。 「……―――っ」 「…………仕方ねぇな、明日のお楽しみにしといてやるよ」 …………お楽しみになるかどうかは激しく不安だけどもね!! 怒られる感じがめちゃくちゃするけどね!!! ……応援団やることは言ってない。というか、言えなかった。 …………ここまで来たら、隠し通すしかなぁぁぁい!頑張れ、ワタシ! ぐっ、と前を見て、景吾の瞳を見返す。 「あ、明日は負けないからね……!」 「誰に向かって言ってるんだ、あーん?」 「む…………真剣勝負だからね」 「……当たり前だ。誰が手なんか抜くか」 今度は、どちらからともなく。 ゆっくりと、顔が近づく。 触れるだけの行為は、数回、繰り返された。 「でも…………全部、明日で終わっちゃうんだね」 そっと呟けば、景吾がもう1度唇を合わせてくる。 「…………終わりがあるから、楽しいんだろうが」 「だね。…………でもちょっと、寂しい、かな」 「……そーだな。……でもま、すぐ文化祭だ。色々考えとけよ?」 「…………はーい」 「……下、行くか」 「うん」 差し出された景吾の手をとって、ゆっくりと階段へ向かう。 明日がいよいよ本番、というわくわく感と共に、明日で全てが終わってしまうという、少しの寂寥感。 今までの、準備の慌しさから解放されるのは嬉しいけど―――やっぱり、ちょっと寂しいな。 |