12月24日。

おそらく、1年中で1番街が浮かれる日。

どこもかしこも、イルミネーションに飾られ、楽しそうな音楽が流れている。

そして。

恋人たちにとっては、特別な1日。






12月24日は、世界が認めるクリスマスイブ。

俺はこの日を迎えるにあたって、様々なデートプランを考えていた。
と出会って、様々なイベントを迎えてきたが―――その中でも、クリスマスはさらに特別なことのように感じる。
毎年、ただ盛大にパーティーを開いて過ごしていたものなんて、まるで違うイベントだったかのように。

もちろん、毎年行っているように、屋敷で盛大にパーティーを開いても楽しいだろう。
氷帝のヤツらも呼んで何百人規模で騒ぐのも、を楽しませる1つの手だ。

でも。

……それだと、俺が満足できねぇ。

特別なその日だからこそ。

を独り占めして。

の笑顔を、俺だけに向けさせて。

―――と2人、聖夜を過ごしたい。

そう、思っていたのに。






「なぁなぁ、今年も跡部んちでクリスマスパーティーやんだろ?」

終業式の日に、岳人がそう聞いてきたのが運の尽きだった。
が目を真ん丸に開いて、岳人を見る。

「クリスマスパーティー!?」

「あ、は知らねぇんだっけ?毎年イブに、跡部んちですんげーパーティーやんの!何百人って人が集まって、すげーんだぜ!」

「何それ、すんごい面白そう……!」

「おもしれーぜー!料理すっげーし、ビンゴ大会とかやるし!」

「ビンゴ大会……!景吾、今年もそれやる!?」

嬉しそうな顔でこちらを見られたら……否と言えるはずがない。
1つ頷けば、ぱぁっと広がる笑顔。

「やったー!楽しみー!」

「跡部跡部、俺参加でよろしくぅ!……ってなわけで、跡部!またクリスマスになー!」

そう、ここから俺の計画は狂っていった。






12月24日。

夕方から盛大なクリスマスパーティーが開かれた。
シェフ総出で料理を作り、ホールを開放してのクリスマスパーティー。
氷帝のヤツらはもちろん、様々な方面の知り合いが訪れていた。

なるべくと共にいようと思っていたのだが、俺もも知り合いにつかまっては話しかけられるので、中々思うように一緒にいられない。

挙句の果てには、とはぐれ、居場所さえもわからなくなった。

別に、こうして人が集まるのは嫌いじゃねぇし、それでが楽しめるのなら、それはそれで嬉しい。
…………だが。

―――いい加減、俺にも限界が来た。

あたりを見渡し、歩き回ってようやく見つけた、愛しい人間。
ホームパーティーということで、あまり着飾ってはいないが、それでも普段よりは数倍可愛い
クラスメイトと話していたの手を、ぐいっ、と引いて俺の存在を示す。

「うわっ……っと、景吾!?」

「…………行くぞ」

「えっ……ちょ、ちょちょちょ……っ」

「悪いな、貰ってく」

と話していたやつにそれだけを告げて、俺はを連れてホールを抜け出した。

「け、景吾〜?」

問いかけるの声を無視して、俺は奥へ向かって問いかける。

「宮田、いるか!?」

「はい、こちらに」

すぐに出てきた宮田に、車を用意させる。

「ちょちょ……景吾、どっか行くの!?主催者がどっか行っちゃって、平気なの!?」

「関係ねぇよ。自然解散だしな。……それより俺が満足する方が大事だ」

「えぇぇぇぇ…………」

「景吾様、お車の用意が整いました」

「あぁ。…………、行くぞ」

「い、行くってどこに!」

…………正直、どこに行くかなんてことは考えてなかった。
ただ、といられればよかったからな。

しばらく思案して、ニュースでやっていたイルミネーションをが見たがっていたことを思い出す。

「…………お前が見たがってたイルミネーションあるだろ、あれでも行くか」

そういうと、がうっ、と迷う様子を見せた。
…………パーティーを抜け出していいものか、という思いと、イルミネーションが見たい、という欲求の間で揺れているのだろう。

「……そーいや、あの近くに、お前お気に入りの店があったな。どーせろくに飯も食ってねぇだろ?食いに行こうぜ」

―――これが最後の決め手。
が、ようやく頷いた。







「景吾、こっちこっち!……やってるみたいだよ!」

そうしてやってきた、東京駅近くのイルミネーション。

は嬉しそうに、俺を振り返りつつ、小走りで先を行く。さっきまで行くかどうか悩んでたっつーのに、現金なヤツだぜ……。

「おい、ちゃんと前見ねぇと……「わっ、すみません!」

「……言わんこっちゃねぇ……」

俺の忠告の最中に、が歩いていた人間にぶつかり、声を上げた。
ぶつかったのは、男。ジロ、とを睨んだのを見て、俺はすぐにの隣に立って肩を引き寄せた。

「ったく……連れが失礼した」

「うわー、ごめんなさいっ!」

男はちら、と俺を見てから、何も言わずに去っていく。
ごく間近になったの目を見て、ほら見ろ、と言う。

「ちゃんと前見て歩け」

「…………はーい。でも、すごいじゃん、このイルミネーション!」

確かに綺麗だ。
綺麗だが……。

「こんくらい、どっか貸し切って作ってやるぜ?」

「……また景吾はそんなこと言って……」

「人が多すぎる。どっか貸し切った方が、のんびり見れるだろ?」

「いいのー。みんなと一緒のところを見たいのー。……あー……でも、本当に綺麗だねぇ」

イルミネーションを見て、嬉しそうに笑う
その横顔は、このイルミネーションに照らされて、いつもとは違った印象を受ける。

ひゅう、と冷たい風が吹いた。

「……寒くねぇか?」

「んーん、大丈夫だよ?」

あっけらかんとそう言うに、苦笑しながら俺は呟いた。

「……ここは、寒くなくても『寒い』って言っとけよ」

肩から手を外して、の手を握る。
手袋をしていないのは、と手をつなぐため。

が恥ずかしそうに周りを見たが、やがて、きゅっと握り返してきた。

「…………へへ、本当は2人っきりになりたかったんだ」

「……あーん?」

「クリスマス、ね……景吾と2人で過ごしたかったんだよ、実は。……あ、何その顔!私だって、一応乙女らしく、夢の1個や2個や3個……は多すぎるけど、持ってるんだからね!」

少し照れながら、へへへ、と笑うが、愛しくてたまらなくて。
思わず、ぎゅっ、と抱きしめた。

「!!!け、けーごさーん!!」

「……お前の望みなら、3個と言わず、俺が全部叶えてやるよ」

「えっ、ちょっ……ってか、離し……ッ!」

「お前が悪い。…………少しの間だけだ、いいだろ?」

「見られてる……見られてるよ…………!」

「気にすんな」

「む……り……!」

「……無理じゃねぇよ……もう黙っとけ……」

「!!!」

小さく耳元で囁けば、ようやくが黙る。

今日はクリスマス。
周りだって、カップルばかりだ。

………………これっくらい、許される日だろ?

続けてそう言うと、がうぅ、と唸った。

そのままゆっくり顔を近づければ、やはり恥ずかしさには勝てないらしく、下を向かれる。

仕方ねぇな……と呟いてから、俺は少しコートの襟を立てた。
これで、周りからは少しばかり、見えにくくなるはずだ。

「これで妥協してやんだから、感謝しろ」

の顔が、そろそろと上がり―――俺の目をしっかりと捕らえる。
恥ずかしさで顔が真っ赤だが……やがて照れたような笑みを、浮かべた。

―――その笑顔を待ってたんだ。

ゆっくりと、顔を近づける。

もう―――逃げられることはない。

「…………メリークリスマス、

「………………メリークリスマス、景吾」

聖夜を彩る、光り輝くイルミネーションの下。

俺は、最高のクリスマスプレゼントを手にした。