卒業旅行も終わり、卒業式まで後数日。

「景吾、アルバム見せて!」

そんな一言から、思い出をたどる一日は始まった。



Act.59 かに残る、君との軌跡




卒業旅行の写真をもらった私は、氷帝メンバー生写真ブームが襲来していた。
むしろ、なぜ今まで写真という素敵な記録に関心がいかなかったのか……今となっては、もっと早くにはまっていれば、と後悔している。
みんなの幼少期のかわいい写真とか!今度頼んで愛でさせてもらおう…!! ……ということで、まずは景吾のアルバムを見せてもらおうと、景吾に詰め寄ったのだった。

「確か……あぁ、これだな」

本棚の一番隅。
景吾が取り出してきたのは、重厚な雰囲気あるアルバム。「Keigo Atobe Memorial Album」
…………文字が金色の糸で刺繍されてる。これ、装丁とかオリジナルでどこかの業者に頼んでるんだろうなぁ……(遠い目)

1番古いものを手にとって、景吾が表紙をめくった。

「……ッッッ……かぁわぁいぃぃぃい〜〜〜!!」

1枚目に貼ってあったのは、景吾の生まれた時の写真。
今よりももっと茶色い髪を持った景吾。生まれたばかりだけど、ちゃんと景吾の面影がある。

天使!これが天使っていうんだね!!
あぁ、神様の最高傑作…!今、私は現世に舞い降りた天使を見ている!(おおげさ)

「この時にはまだホクロないんだね……!」

「いや、よく見えないだけで、生まれた時から小さいのがあったって聞いた。生まれたときにホクロがあるのは珍しいらしい」

「生まれた時からすでに特別……!」

さすがキング、跡部景吾!

パラリ、とめくると、ラブリーキュートな景吾さんがたくさんいらっしゃった。
誰がマメにこのアルバムを作っているのか、

『はじめてのハイハイ』

『ボールに興味を示す景吾』

とか色々な写真が貼ってあった。
景吾自身も自分のアルバムを見る機会はそうないらしく(確かに、自分のアルバムを見返すことなんてそうないか)、興味深そうにアルバムを覗いている。

「あははっ、この時にはもうホクロが見えてきたね」

3〜4歳ころになると、景吾のチャームポイントである泣きぼくろはくっきりとその右目元に現れていた。

「そうだな……あぁ、これはウィンブルドンを見に行った時のか」

ウィンブルドンの会場で撮ったと思われる写真。

「これは白鳥を初めて見た時のだな……」

ふわりと微笑んでいる幼少時の景吾。
あぁぁ……もう、ホントこの頃の景吾、可愛すぎてお持ち帰りしたい……!

段々と成長していくにつれて、今の景吾に近づいていく。
それと同時に、テニスが関わるイベントでの写真が多くなっていった。その頃から景吾のページを捲る手が早くなる。

「ちょ、け、景吾さん……捲るの、早くないですか……?私、もっとチビ景吾を堪能したいよ……!」

「…………いいんだよ、この時期は」

ちょっと不機嫌そうにそう言う。
…………あぁ、イギリスにいた頃は最初、周りのプレイヤーのレベルになかなかついていけなかったんだっけ……。

「あ、でも段々トロフィー持つようになってきた」

「『眼力』を覚えだして少しして、だな。……あぁ、これ。この時は面白かったぜ。最初に日本人だって馬鹿にしてたヤツが、決勝で俺に負けてコートの中で泣きじゃくってやがったな」

クククッ、と悪〜い顔で笑う景吾さん。

「景吾……そーゆーのすっごい覚えてそう。負けた人リストでも作って、片っ端からリベンジしてったりしたんじゃないの?負けた数以上に勝ってみたりとか」

景吾から返ってきたのは、意味深な笑み。
……うん、今現在も、やってるかもしれないから、これ以上言うのやめておこう。






パラパラとアルバムをめくっていると、幼い頃の記憶が蘇ってくる。
幼い頃の記憶、テニスを始めた頃、イギリスでの生活、日本に戻ってきた当時のこと。

思い出をたどるように、アルバムを捲る。

と一つ一つ話しながら捲っていたら、結構な時間が経っていた。
今持っているのが、最新のアルバム。これで終わりだ。

「あ、氷帝の入学式だー!」

最新のアルバムは……中学に入ってからのもの。
入学式に始まり、各種イベントでの俺の姿、テニスを行う姿などが出てくる中学1年。
そして。

「……あ」

中学2年終わりの頃。
の姿が、隣に写るようになっていた。

「お前が来た頃……だな。これは、イルミネーションを見に行った時か」

「うわ、懐かしい……っていうか、写真撮られてたの知らなかった……!誰がどこで……!?」

「屋敷の人間が撮ってたんだろ。……は全然変わらねぇな」

「そんな1年で変わってたまりますかい……!」

「あぁ……この頃は、日焼けしてるが」

「そりゃ、日焼け止めを塗っても塗っても流れ落ちてた頃だもん……あ!これ、景吾がガリガリくんデビューの時だ!」

「……そういえば、そんなこともあったな」

夏に部活が終わった後、あいつらとコンビニに寄ってアイスキャンディーを買った時の写真だった。
ページを捲れば捲るだけ、思い出す。

「そーいえば、牧場にも行ったねぇ……」

「これは遊園地か……あいつらに邪魔されたんだったな。海に行った時もそうだった」

「あ、これは文化祭だー!景吾、似合ってたよ和服」

「お前もな」

クスクス笑いながら、が次を促した。
その横顔に―――愛しさが募る。

「お前が写真に映るようになって、まだ1年、か……。この1冊だけなんだな、お前がいるのは」

「うん、そうだねぇ……」

「今までアルバム見てきたが……俺としては、この1冊がこの中で1番特別だな」

「えー?」

が笑う。

…………俺は、ページを捲る途中で、気がついていた。

イギリスにいた頃、日本に帰ってきて氷帝に入った頃。
俺が他の誰かと楽しそうに笑い合っている写真は、ほとんどなかった。

だが、が来てから。

と。氷帝のメンバーと。他校の奴らと。

笑い合っている俺の姿が、そこにはあった。

「……ここに、もうすぐ俺らの卒業アルバムが加わるな」

そうだね、と微笑んだ
と共に歩んでいる時間は、まだ短い。
中学生活だけでも、3分の1しか一緒にいない。
だが。

…………と出会ってから1年。
それまでの中学生活で得たものよりも、出会ってから俺が得たものは3倍以上多い。

俺はアルバムを見ているを抱き寄せた。

「わぁっ?」

いきなりのことだったので驚いたのだろう。が小さく悲鳴をあげた。アルバムがの手からこぼれおちる。
何か言う前に、その発信元を塞いだ。
唇を貪り、内部に強引に侵入して、感触を味わう。

抵抗しようとするを抑えつけ、右手で柔らかな耳たぶに触れ、親指の腹で筋をなぞる。
―――耳が弱いコイツは、少し触れるだけでビクリと身体を反応させた。

「…………っは……景、吾……ちょっ……んっ……」

もう1度口を塞いで散々口内を蹂躙し、最後に唾液を舐めとって……ようやく、を解放する。

「……っ……はっ……はぁ……っ……景吾の、バカ……っ、突然、何……っ」

「お前が愛しいなと思ったら抑えが効かなくなった。……ほら、アルバム閉まって、続き……しようぜ?」

の傍に落ちていたアルバムを閉じて、ベッドサイドに置き、

「……………!!」

真っ赤な顔をしているに、再度、キスをした。


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