帰って来てすぐにシャワーを浴び、すでに用意されていた夕飯を食べた。
夕飯の最中は、もちろん運動会の話題ばかり。会話が途切れることはなかった。

「最後のフォークダンス……めっちゃ恥ずかしかった……みんなに見られまくりだったし」

「……俺は、外野がうるさくてそれどころじゃなかった」

フォークダンスの時、忍足たちが案の定邪魔をしてきやがって、非常に面倒だった。
あいつらにはまたいろいろと思い知らせる必要があるようだ。

「あー……でも結局、予想してたのと大分違ったなぁ〜。黒もだけど……赤には大分裏切られた」

「クッ……予想は、裏切るためにあるんだぜ?」

「イヤイヤイヤ、裏切りすぎでしょ!まさか景吾がリレーに出てくるなんて、夢にも思ってなかったし!」

む〜、と唸りながら、はデザートの梨にフォークを突き刺す。
拗ねたような表情が可愛くて、思わず目を細めた。

「……だが、俺もお前があれほど競技に出るとは思わなかったぜ。結局、個人競技はほとんど出てただろ?」

「そうだねぇ〜。本当は大玉ころがしとかもやりたかったんだけどね。……へへ、驚いた?」

「まぁな。……ま、何より驚いたのは、昼休み前だがな」

「うっ……だって、人足りないって言うし……男子限定ってわけじゃなかったし……」

「……それに関しては、後でじっっっくり聞かせてもらうからな。……覚悟しとけよ?」

が再度、無言で梨にフォークを刺した。





シャワーを浴びたものの、やはり風呂に入りたくてより先に入った。
風呂の中で、さぁ、今夜はどうするか―――などと様々な思案を巡らす。

ここのところ、運動会関連でお互い雑務に追われていたし、何よりが口を滑らすことを恐れてビクビク怯えていた。ゆっくりとした時間を過ごすこともなかったし―――思う存分、を味わうのも久しぶりだ。
明日は日曜。一日しっかり休養日として空けてあるから、今夜は夜遅くまで何をしていようとかまわないだろう。
赤の勝利、そして応援団の事も含めて、しっかり話し合うことにするか。……ベッドの中で。

疲れていないと言えば嘘になるが―――との久しぶりの時間に心が浮き立った。

早々に風呂を切り上げて、の部屋へ向かう。
いつものように、ドアを開けて中へ入り―――

「おい、―――…………」

声をかけている途中で、はた、と気づく。
ベッドの上に、倒れこんでいる人影に。

「……スー…………スー…………」

「………………」

微かに濡れたままの髪に、思わずくしゃりと手をやった。

「…………オイオイ」

そっと一人ごちながらベッドの上で丸まっている愛しい人間に近づく。
シャワーを浴びていたからだろう。ふわりとシャンプーの清潔な香りがした。

……風呂の中で考えていたことが、ゆっくりと掠れて遠のいていく。

サラリと指通りのいい髪に手を伸ばした。
それでも、が起きる気配はない。

「…………そりゃ、ねぇだろう……」

頑張っていたのは知っている。
今日もあれだけの働きをした。
眠ってしまうのも、無理はない。

だが、せっかく久しぶりにゆっくり出来る夜なんだ―――。

「…………スー……」

無邪気な寝顔に、目が吸い寄せられる。

「…………チッ」

……わかっていた。
最初から、勝者は

……眠っているを、俺が起こせるはずもない。

ゆっくりと布団を引きよせ、の隣に身を横たえる。
をしっかりと抱きよせ、顔を見た。
穏やかな表情をして眠る愛しい人間は―――最愛の天使にして、最強の小悪魔。

「…………お前……」

コツン、と額をぶつける。
ごく間近に見えたに向って、聞こえていないのは承知でボソリと呟いた。

「…………明日は、覚えとけよ」

絶対的勝者に、ただ優しい口づけを。