霧雨の中を、ゆっくりと去ってゆくバス。

『じゃあ、またね!』

ひらひらと手を振る姿。

最後の最後に見たあの笑顔が、目に焼きついている。






「すげー面白かったッス、この合宿!」

帰りのバスの中、先に出発した氷帝のバスを見送った後、興奮した切原の言葉に、幸村が少し微笑んだ。

「あぁ、そうだね。それに、プレイ面だけじゃなく、色々と収穫があったしね」

「っていうか、氷帝の奴ら、去年より格段に実力が増してたんじゃねぇか?」

「うむ。データによると、鳳のサーブの速度は去年より30km/hも速くなっているし、宍戸のライジングショットも0.7秒ほど早くラケット面にボールを当てていた。……今年の氷帝は、全国でもベスト8以上は確定だろう」

柳がノートすら見ずに、スラスラとデータを言ってのける。
それを聞いて、バスの最後部座席から仁王が返した。

「絶対、ちゃんがいるからじゃ。あんなえぇ子が身近におったら、俺も頑張るのう」

「そうですね。なにより、さんがいてくださったおかげで、私たちのやる仕事も格段に減りましたし、プレイに集中できましたからね……敏腕マネージャーがいるのといないのとでは、こうも練習が違うのですね」

先輩、立海に欲しいッスよ〜!真田副部長〜!」

「ないものねだりをしても、仕方がなかろう。……だが、確かに、がいれば……」

むむむ、と唸り出した真田を見て、コソリと丸井が切原に耳打ちをする。

「真田のヤツ、のコト大分気にいってるよな」

「そーッスよね。あの真田副部長にしては珍しく、褒めちぎってましたもん」

「だろぃ?俺、あんなに他人のこと褒める真田、初めて見たぜ〜。でもよー……絶対自分で気付いてねぇぜ、のことすっげー褒めてるの」

「無意識ってヤツですか!?うわっ……でも、ようやく真田副部長にも春が「なにを言っているか、そこの2人!

「「うわっ!?」」

ヒソヒソと話していた2人に、容赦なくかかる一喝。
ずかずかと歩み寄って、バスの中でのお説教が始まった。

説教ゾーンから逃げるように離れたジャッカルが、柳に向かってボソリと呟いた。

「……あーぁ……ここにがいりゃ、ちょっとはマシだったかもしれねぇな……」

「うむ。その確率は限りなく100%に近いな」

さんがいたときには、ホンの少しですが怒鳴り声が小さかった気がしますね」

「あの鬼の真田も、人の子だったっちゅー「そこの4人!お前たちもこちらに来るか!?」

仁王の声を阻んで、真田の怒声が響く。
いつもはあまり表情を変えない柳も、一雫汗を垂らす。

最後の最後で切原が涙目でボソリと呟いた。

「…………先輩、カムバーック…………」

「切原、たるんどる!!!」