ポカリの粉を持って走る。

スコアブックを持って走る。

ユニフォームを持って走る。

そう、これが私の高校生活。


勝負




「ふぁ…………」

「…………、い〜い声だな、おい」

は、酸素を取り込むために通常より大きく開いた口を、慌てて閉じた。

「よっぽど、数学の問題が解きたいと見えた。……ということで、から縦に5人!前に出て黒板に問13を書け」

「うげ」

「何か言ったか?」

「いえ、なんにも……言ってないです。ハイ」

仕方なしに、は席を立って、しぶしぶ立ち上がる前の友達にごめん、と謝る。

「いいよ、今のうちにあたっとけば、後で寝られるし。……、眠そうだね」

解答を書きながら、は答えた。

「うん……昨日……ってか、今日まで相手校のデータ整理してたんだ……どっかの誰かさんが、見やすいようにパソコンに入れろなんて言うからさ……過去10年間の試合成績を打ち込んでたんだよね……」

「で、終わったの?」

「終わるわけもない……この時間が終わったら、休み時間もコンピューター室に行くつもり。……もう、パソコンと大親友だよ」

カツン、とチョークを落として、席に戻る。

「大変だね……」

「……女王の言葉には逆らえないよ……」

はひきつった笑みを浮かべて、友の顔を見た。



「…………あのさ、。私コンピューター室に行ってくるから、誰か来たらそこにいるって言っておいてくれない?」

「ん〜。わかった。いってらっしゃい」

「いってきます」

後ろ手にドアを閉めて、はコンピューター室へと向かう。
両手には過去のスコアブック。練習試合、公式試合含めているので、かなりの量だ。今手に持っているのは、その一部でしかない。
いい加減、はうんざりした面持ちでコンピューター室のドアを開けた。
一台のパソコンの前に座り、フロッピーディスクを入れる。

はぁ、とため息を1つついてから、一つ一つ記録を打ちこんでいく。

「…………へぇ、もうここまで出来たのか」

耳元で囁かれた、低い声に反射的に振り返る。
と、当然、耳元で声がしたのだから、近くに顔があったわけで……。

ゴンッ!!

「いだっ」

「……ってぇ〜……急に振り返るなよ、バカ」

「イキナリ耳元で話すのが悪い!バカ藤真!」

ふんっとまた顔を戻して、パソコンと向き合う。
藤真は椅子をどこからか持ってきて、隣に座った。

「…………ふ〜ん……6年前には、海南に勝った試合もあるのか……」

無言で、カタカタとキーボードに指を走らせる。

「陵南にこの大差で勝ってたんだな……」

だんだんと指が震えていくのがわかる。

「湘北なんて、俺らとあたったことないのか」

は、キーボードを打つのをやめると、静かに藤真の方へ向いた。

「……藤真、私の邪魔したいんでしょ?」

「あれ、大当たり」

「バレバレなんだよ〜!!バカ藤真バカ藤真バカ藤真!」

「少なくとも、よりはバカじゃないと思ってる」

「!!!くっそぉ〜……」

藤真は、ポン、と手をの頭にのせると、息をついた。

「まったく……しゃべらなければ、並以上の可愛さなのに……」

「悪かったね!口が悪くって!それなら、藤真だって人のこと言えないじゃん!」

「誰が人のこと言えないって?」

瞬間、の口が開いたまま動くのを停止する。

は見た。

藤真の後ろに黒いものを。

あっさりとその禍々しいものに白旗をあげた。

「…………私の口が悪いのです。申し訳ありません」

「そう素直になれば、可愛いのに」

「ワタシハイツモスナオデス」

「片言になってるから、却下」

む、と黙って、はまたパソコンに向かう。

「…………ふん、だ。いつもがんばってマネージャーやってる人に、お褒めの言葉の一つないんだから」

ポソリと呟いた言葉を聞き逃すはずもなく、藤真はにっこり笑っての肩を叩いた。

「なに?」

「可愛いよ、

「……どーせ、後ろに『素直だったら』とかつくんでしょ。バレバレだよ」

「つかないつかない。可愛いって、

「はいはい。ありがとー。じゃ、私はがんばってマネージャー業を行いますよ」

「本気にしてないだろ」

「本気にしろっていうの?今更」

「今更だけど、本気にしろ」

「なにそれ」

「可愛いって」

「別に普通だよ。まぁ、ありがと」

藤真は、またパソコンに向いたの体を強引に自分のほうへ向かせる。

「可愛いって」

面と向かって言われて、恥ずかしくないわけない。
は、自分の顔が赤くなっていくのを感じた。

「顔、真っ赤」

「……うるさい!バカ藤真!出てけ〜!仕事がはかどらないじゃないかぁ〜!」

「……そろそろ、出て行くよ」

そう言って席を立つ。
最後にコンピューター室を出る直前。
立ち止まる。

「……

「何?」

「好きだよ。だから、付き合ってくれ」

の手から、資料が零れ落ちた。

「な、な、な、なにを言う〜〜〜!!!」

「じゃ、また部活で」

「って、いい逃げするな、この、バカ藤真〜〜〜!!!」



ポカリの粉を持って走る君を追いかける。

スコアブックを持って走る君を追いかける。

ユニフォームを持って走る君を追いかける。

ついいじめたくなるほど、可愛いんだ。

これが俺の高校生活。

だから、勝負だ。

どちらが先に『まいった』を言うのか。

……今のところ、君に軍配はあがっているけれど。





あとがきもどきのキャラ対談

藤真「ラブラブじゃない」

銀月「あ〜……確かに甘くないね」

藤真「なんでだ?(微笑)」

銀月「だって、甘くなくなったものはしょうがないじゃん!」

藤真「……こんなもの人様に上げていいと思ってんのか」

銀月「あう……」

藤真「……グラウンド100周」

銀月「なんでだーーー!!!」