突如現れた岩が、地面をえぐる。

その岩礫を避けながら、

地面にぐったりと倒れこんだ少女の元へ駆け寄った。

同じく駆け寄ってきた双子の兄の酷く不安げな顔を見て、

…………きっと自分も同じ顔をしてるのだろう、と。

妙に冷静に「双子」の共通性を感じた。



Scene.39  るべき存在のために


リューグが地面に倒れたを抱き上げる。
ロッカは同時にの息を確認した。

「……大丈夫だ……息は、ある……」

ロッカから安堵のため息が漏れた。
だが、ロッカの目に映った何かは、すっ……とその顔を青ざめさせた。

少女の口から漏れる、一筋の赤い滴。

―――血。

過度な精神負担が、肉体にまで及んできた証拠。

召喚術に疎いロッカやリューグは、これが命に関わるものかどうかわからなかった。
……だが、放っておいて良くないことだけは、わかる。

「……とにかく、この隙に逃げるぞ!」

抱き上げたままでは走りにくい。リューグは素早くを背負った。
本当なら、意識を失って倒れこんだ人間を即座に動かすことなどしない。
倒れたときに、頭を打っていたりしたら、動かすのは危険だからだ。

だが、今そんなこと言っている余裕はなかった。

とにかく、街へ急がなければ。

が決死の覚悟で開いてくれた突破口を、無駄にするわけにはいかない。

2人の頭には、それだけしかなかった。

リューグが、グンッ、と両足に力を込めて、走り出す。
ロッカは、リューグが背負ったが万が一にも落ちないように、軽く手で支えながらその後ろを走りつつ、あたりの気を探った。

―――2人ともボロボロだった。

体中に決して小さいとはいえない傷がたくさんあった。
戦闘の途中で倒れてもおかしくはなかった。
それでも、倒れなかったのは、守るべき人間がこの場にいたから。

グッ、と2人の拳に力が込められる。

……ここにいるのが自分たちだけだったら、とっくに倒れていたかもしれない。
だが、守る人間がいるという意識が、彼らにそれを許さなかった。

「もうちょいだからな……ッ……頑張れよ……ッ」

リューグが背中の守るべき人間に向かって言った言葉の返答は。

―――当然ながら、なかった。






ボロボロの彼らが到着したのは夜中のことだった。
息も絶え絶えにモーリン邸に向かう彼らを最初に発見したのは、蕎麦屋の店主。
その異様な雰囲気に、思わず彼は『蕎麦屋の店主』の仮面を捨てて、『忍』本来のスピードで駆け寄った。

「どうしたんですか、こんな夜中に……さん!?」

やっと信頼出来る人間に出会えたリューグが、安堵からか、口角を上げて笑った。

「……あんた、蕎麦屋の店主だよな……?……すまねぇ、コイツを……頼む……」

背負っていたをゆっくりと下ろして、壊れ物を扱うような慎重な手つきでシオンの手にゆだねた後―――リューグはドォ、とその場に倒れこんだ。
隣でなんとか立っていたロッカも、ガクリ、と膝をつく。

「す、みません…………モーリンさんの家へ……誰か……さんが……」

そこまで言って、弟と同じように倒れる。
シオンはの体をゆっくりと地面に横たわらせると、まず、リューグとロッカの状態を確認した。……全身傷だらけだが、命に別条はなさそうだと素早く判断する。
そして、の状態を見て―――迷わず、持っていたキッカの実とメロンキャンディ(もちろん魔力が込めてある)を小さく削って口に含ませた。

全員が全員、「軽傷」と呼べる類のものではない。
一刻も早く安静にし、手当てをするべき状況。
3人の状態を見比べ―――

「…………申し訳ないですが、女性を優先させていただきますよ」

いかに彼がいくつもの戦場を駆け抜けてきた忍者であろうと、いっぺんに3人の人間を運ぶことは出来ない。
とにかくリューグとロッカの2人を店の中に寝かせると。

を抱きかかえて、シオンは忍のスピードでモーリン宅まで疾走した。





夜も深まっている。
もしかしたら誰も起きていないかもしれない。

シオンのほんの少しの心配は、すぐに打ち消された。
モーリン宅の前に、イライラと歩き回る悪魔を初めとする、たくさんの人間の姿を確認したからだ。

走り寄るシオンにいち早く気づいたのは、フォルテだった。

「シオンの旦那……と、!?」

フォルテの大きな声に、ハッとしたように駆け寄る彼らは、シオンの腕の中でぐったりしているを見て表情を硬くした。

「なっ……どうしたんだよ、は!?」

「どうやら、召喚術の過剰使用のようですね。……彼女と共にいた双子の兄弟も、かなりの傷を負っていましたから、何かしらの戦闘に巻き込まれたのでしょう。…………部屋はどこですか?」

こっちだ、とモーリンが家へ招き入れる。
シオンは歩きながら、顔だけを他の人間に向けて言った。

「私の店で、双子の兄弟が倒れています。彼らも小さいとはいえない傷がたくさんあるようです」

「あぁ、じゃあ、俺とシャムロックで行ってくる。お前らはの傍にいてやってくれ。後、傷の治療の準備を」

「私も行きます!召喚術の負担は多分力になれないとは思いますが……リューグやロッカの体の傷は癒せると思うんです」

アメルの発言にフォルテはそうだな、と頷き、すぐに3人は家から飛び出した。
残りの人間は、部屋の準備や、治療のために大慌てで走り出す。

その中で、動かない2人がいた。

バルレルとマグナ。

彼らは、じっとのそばについていた。



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