濡れた頬は冷たく
どのくらいの間そうしていたのか
それを想像するのは痛ましかった
自分の腕の中で泣くアイツは
………………とても、可愛くて。
存在証明2
「も〜、バノッサまでずぶ濡れじゃん!カノンに怒られるよ?」
明るく振舞っている声が、震えてる。そう気づくことができるのは、それだけオレがコイツと共にいるからだ。
いつでも、辛いことがあるときは、明るい声を出して、その場にいるものをごまかす。
何度となく、そうしてきたアイツを見てきた。
事実、騙されたことも、ある。
だが。
オレは、何度も、コイツが泣くのを見てきたから。
―――もう、騙されねェ。
「…………居候」
「ん?なぁに?」
まだ、続く明るい声。
それが、とても痛ましい。
「…………はしゃいでいれば、オレ様をごまかせると思うな」
オレがそう言ったとたん、アイツは笑顔のまま凍りついた。
「………………一体、どうした」
その理由は、おおよそ見当がついてる。
頬から、新たな水滴が流れ落ちた。
「なにが、あった」
「……さみしかったんだもん…………ッ……ちょっと、ホームシックになっただけだもん……ッ」
「……………………後は」
見る見るうちに、雨と混ざって涙が膨れ上がってくる。
それと共に、笑顔だった顔が悲しげに歪んでくる。
「バノッサは……帰ってこないしッ……首筋に……痕はついてるし……ッ……雨は、降るし……ッ……釣糸は切れるし……ッ……背中は打つしッ!」
言っていることは支離滅裂。だが、最初の言葉からわかるように―――オレにも責任がある。
ここ何日も、家に帰っていなかった。
それは――――――少し、アイツと距離をおきたかったからだ。
日に日に愛しくなる。
離したくなくなる。
…………抱きたくなる。
今まで理性でそれを押しとどめてきたが、それも限界に近づいてきた。
1度抱いたら―――もう、離せない。
もしかしたら、コイツをグチャグチャにしてしまうかもしれない。
己の欲望のためだけに、滅茶苦茶に壊してしまうかもしれない。
―――それが、怖かった。
だから、少し距離を置いて―――冷却期間を置こうと思っていた。
それでも。
3日。
3日離れただけで、もう耐え切れない。
途中、商売女を捕まえてはみたが、どうもその気にならなくて、結局捨てた。
少し前までは3日帰らないなんてザラ、商売女なんて一晩に何人も抱いたのに。
しゃくりあげるアイツを、抱き寄せて腕に閉じ込めた。
「う〜〜〜…………」
慣れない手つきで、ポンポン、と頭を叩く。
そうすると、アイツはぼんやりとオレを見上げた。
最初は、触れるようにその唇にキスをした。
「……んぅ……ッ……ふっ……!?」
そのうち、物足りなくなって、舌を絡めてみれば、驚いたように奥へ逃げる。
それを強引に捕まえて、尚、攻め立てた。
「んっ!………はぁ……ぅ……ッ!」
もう、止める気なんて、どこにもない。
カクンと力の抜けたアイツの腰を支えて、そのまま腕をつかんで強引に歩かせる。
なんか言ってるが、耳に入ってこない。
そのまま歩いていって、繁華街の安い宿屋を見つけた。
もう、どこでもいい。
とりあえず、その宿屋に飛び込む。
扉を開けるのも面倒で、蹴って開けた。
フロントにある鍵をひったくるように持って、そのまま2階へあがる。
部屋に入って、まずはそこに置いてあったタオルをアイツに投げつけた。
受け取って、髪の毛や顔を拭き始める。
しばらくしてから、恐る恐る、といった感じで。
「あのー……バノッサさん?」
と口を開いた。
その言葉で、少しだけ後悔が襲ってくる。
純真なコイツを、オレなんかが抱いていいものなのか?
オレが返事をしないでいると、勝手に話をし始める。
「雨、ひどいねぇ…………どれくらいで止むかな?」
寒さのためだろうか、少し震えた甘い声に、すべての想いは欲望へと変わり。
理屈とかも全部溶かされた。
「居候」
「うぁ!はい!」
ビックリしたのか、大きな声で背筋をピンと伸ばして返事をする。
「こっち、来い」
ベッドサイドに、剣を置いた。
ぽかん、とこっちを見つめる。
「バノッサ?」
そんなアイツをまっすぐ見つめる。
タオルがするりと手から零れ落ちた。
「バノ…………」
「抱きたい」
一言呟くと、アイツはその場に固まった。
オレは、1つため息をつくと、ゆっくりと近づく。
髪から垂れた雫が、頬を伝い落ちる。
それを気にせずに、手をあいつの頬に添えた。
温かさが、伝わってくる。
「………………抱きてェんだ、オマエが」
アイツは、目を泳がせてから―――。
「―――――――うん」
コクリ、と頷いた。
グイッとひっぱって、ベッドに引き倒す。
「…………ッ」
感情を抑えきれずに、服を捲りあげて、胸にキスと愛撫を送った。
雨で濡れた肌は、温かさを取り戻していて。
冷たい手に、敏感に反応する。
「………んっ……あ…ッ………」
声を出したことに、恥ずかしさを覚えたのか、自分で自分の口をふさいでいる。
その手を外して、唇に1つ、キスを落とした。
「…………声、出せ」
「やだ……恥ずかし……ぅあッ………」
胸の頂に手を走らせれば、喉の奥から甘い声が。
その瞬間に、服を抜き取って。
あらわになった首筋に、紅い印を残した。
「バノッ………ひゃぁ……ッ」
ピンク色の蕾を、カリ、と甘噛みすれば、甘美な声が耳に響く。
しばらく、愛撫を続けると、緊張のためか、硬くこわばっていた四肢が、次第にほぐれていった。
「ちょ、ちょっ……待っ……」
「なんだ?」
「バノッサ、脱いでない〜〜〜!!……んぅっ」
唇を塞いで、舌を滑り込ませる。
そろそろと絡められる舌を、十分に堪能した後に、へばりついているシャツを脱ぎ捨てた。
アイツは、じっとオレの胸を見つめて、戦いでついた傷痕をなぞった。
熱い指が、触れるたび、高ぶる感情。
細い手首を握って、手の甲に口付けをした。
「…………そろそろ、いいな?」
足の間に手を走らせた。
濡れているのは…………先ほどの雨のせいだけじゃないはずだ。
そっと割れ目をなぞって、潤いの根源である場所を探る。
さすがに驚いたのか、ビクリ、と反応して、反射的に閉じようとする足。
体を滑り込ませて、安心させるように、触れるだけのキスをした。
「バノッ…………ひゃっ……」
そこに指を1本走らせる。
異物感に、顔を歪ませた。
それでも、ゆっくりと押し広げるようにして、人差し指を奥に入れる。
今まで抱いてきた、どの女のものよりも、窮屈で締め付けてくる。
「…………力、抜け」
「そんなこと言っても…………」
「じゃあいい、オレ様が力が入らねェようにしてやるよ」
「へ……?ふぁっ……」
体の中心から下腹部にかけて、逆の手を滑らせ、胸全体にキスを送る。
再度、胸の頂を甘噛みすれば、こわばっていた足の力が、抜けた。
「…………ほら、な」
そして、中に挿れたままの指を動かして、内部を広げる。
「んっ……ふ……ッ……はぁ……ッ」
大分広がってきたので、2本、と増やした。
「や……ッ……痛………ッ」
「すぐ、慣れる」
―――最も、慣らすまでに、オレの体がもってくれるかどうかが問題だがな。
心の中で、そう1人ごちながら、しばらく指を動かした。
「あっ……んぅ……ッ…はぁ…ッ…あッ」
潤んだ瞳に、甘い声。
大分我慢してきたつもりだが―――。
限界だ。
指を引き抜くと、キスをして。
「……挿れる、ぞ」
熱くなった自分自身を、そっと入り口にあてがった。
指とは違う、熱いものに戸惑った様子だが、もう、止まらない。
―――止められない。
逃げないように、腰を掴んで、推し進めた。
「……んっ……やっ……やぁッ、痛ッ……」
少し入ったところで、涙声が響く。
その悲痛な声に、少しの罪悪感が浮かんだ。
「…………少しだけ、我慢しろ」
「ひゃぁっ………ぁっ………つッ……」
少しずつ、少しずつ。
アイツの中は、温かくて、窮屈で。
思ったように進まない。
「……バノッサぁ……ッ」
やっと、収まった。
しばらく、その状態で、征服感を味わう。
「…………動いても、いいか?」
耳元で、言うと、ためらいがちに、返ってくる口付け。
腰を少し動かした。
痛そうに、顔をしかめる。
「……大丈夫、か?」
「平、気……ッ……」
そんなアイツが可愛くて。
ゆっくりと腰を動かした。
だが、それも、段々と早まる。
「はっ……ぁう……ッ…ん……あんッ……」
その声に、痛みよりも快楽が勝ってきたことを感じて。
律動を大きくした。
突き上げるたびに、涙交じりの高い声が響く。
「あぁッ……んっ…はぁっ………あッ……?……なん、か……変……ッ」
「なにが、だ……ッ?」
「………なんか、………ひゃぁッ……来る……ッ」
わけがわからない、という感じの顔に、更に愛しさを感じて。
笑って言ってやった。
「…………イクって言うんだよ、そういう時は……ッ」
「うぇ!?…………あっ……!?」
悪いが、オレにも余裕がなくなって来ている。
腰の動きを早めた。
「……うぁ……っ………ん……は……ッ……ね、……バノッサ……ぁッ」
「んだよ……ッ……くっ」
「……んっんっ…………好き、だよ……ッ?」
必死でオレに想いを伝えようとしているのが、わかる。
だから、
オレも、答えてやった。
「…………知ってる…ッ……」
「ん……ぁあッ……!」
「………………ッ」
そして、白濁の想いを解き放った。