リィンバウム暦、白天の節一の月25日。 現代の日本暦に直すと。 12月25日。 今日は朝から寒かった。 まだ空から降ってくるものはないが、それも時間の問題だろう。分厚い雲が空を覆って、愛しの太陽さんを隠している。 寒いし天気も崩れそうなので、私は珍しく部屋にいた。とはいっても、何もすることはないので―――ゴロゴロとベッドに寝転んでいるだけ。 ふと、部屋にかかっていたカレンダーを見た。 カノンが貰ってきてくれたカレンダーは、きれいな絵が描かれているちょっと高級そうなカレンダー。カレンダーを貰って初めて、私はリィンバウム暦を正確に知った。1ヶ月が32日なのもね。 だからぼーんやりとそれを見ていたわけなんだけども。 …………突然、ふと思い出す。 「…………ん?」 今日は、白天の節一の月25日。 …………トウヤが言ってた。リィンバウムの1年と、日本の1年では、1月ほどズレが生じてるって。だから、白天の節一の月は日本の12月くらいだってのも。 …………ってことは。 ガバッと起き上がり、カレンダーを再度確認した。 「!!!バノッ……サとアシュタルは外行っちゃってるのか…………と、とりあえず、カーノーンー!」 キッチンでお昼ご飯の準備をしているだろう子の名前を叫びながら、私は階段を転げ落ちるようにして降りていった。 私のただならぬ様子に、キッチンから飛び出してくれたカノンに、事情を説明する。 要は。 今日が、名も無き世界でのお祝い事の日であるということ。 とにかくその日は、ごちそうとかを用意して、盛大に騒がなくちゃいけないこと(若干間違いあり) とりあえず、マシンガントークでそれを説明すると、カノンは楽しそうに頷いてくれた。 「それだったら、僕、腕によりをかけて料理作りますね!」 「じゃ、私、ケーキ作る!それから、庭の……あのモナの木がちょうどいいや、それに飾りつけるね!」 素晴らしいチームワークで仕事分担決定! そこからは怒涛の勢いで準備を進めていった。 カノンは楽しそうな笑顔で、ものすごい包丁さばきを見せ、次々と料理を完成させていく。手間がかかるローストチキンを、無理を承知でリクエストしたら、あっさりと引き受けてくれた。 その間に私は、ちょっともたつきながらもケーキ(カノンにレシピを書いてもらった)を作る。 スポンジケーキを焼いている間に、庭のモナの木に飾りつけ。いらない枕をばらして綿を取り出し、折り紙とかで適当に飾りを作った。 さぁ、モナの木に飾ろう、と庭に出ようとしたら。 「…………オイ、なんの騒ぎだ?」 「なんだそれは……綿か?」 ちょうど、この家の主と、我が護衛獣が帰ってきた。 「バノッサ!アシュタル!おっかえりぃ〜」 「…………何やってんだ、居候」 「ふっふっふ……あのね、今日はクリスマスなのですよ……!あ、クリスマスって、知ってる?」 「…………あぁ?なんだソレ」 キッチンからカノンが顔をのぞかせて補足してくれる。 「なんでも、名も無き世界でのお祝い事らしいんですけどね。とりあえずみんなでごちそう食べて楽しむ日らしいんです」 「本当は私の世界にいた、大昔のエライ人の誕生日なんだけどね、それがまぁ……色々とあってお祝いの日になってるわけよ!」 クリスマス云々の話をするのは後にして、とりあえず今日がクリスマスだということを教える。 と。 バノッサはハッ、と鼻で笑いやがりました(怒) 「その偉いやつってのは、お前の世界の話だろ?ここにゃいねぇし祝う必要もねぇだろうが」 「むっ……そりゃ、キリストはリィンバウムにはいないけど……いいじゃん!お祝い事は多くて困ることはないよ!」 「…………相変わらず、意味わかんねぇこと言うな、お前は」 「失礼なっ!」 ギラッ、とバノッサを睨みつけると、バノッサは私をみて、呆れたようにため息をついた。 …………なんだ、その人をバカにしくさった表情は……! さらに文句を言おうと口を開きかけたとき、バノッサがこちらに向かって歩いてきてることに気付いた。 私が持っていた綿やら折り紙の飾りやらを手にとって、しげしげと眺める。 「……これ、どうするんだよ」 「モナの木に飾るの。…………あ、どーせバノッサ暇でしょ!?手伝って手伝って!!!」 「ってオイ!俺様を暇人みてーに言うな!」 「だって暇人でしょ?それとも、他になんかすることあんの?」 「ぐっ…………」 ふっふっふ……バノッサの行動パターンなんてわかってるのよ……! 今日は寒いし、家に帰ってきたらご飯食べて、剣磨いて、さっさと寝ちゃうんだ!私の読みに間違いはない! 「んじゃ、これね!私、ケーキ作るから!あ、アシュタルはカノンのお手伝いよろしく!」 アシュタルは何か言いたげに私を見たけど……にっこり笑顔で返してやったら、無言でキッチンに向かった。……ふふ、よくしつけが行き届いてるようね……! それを見届けてから、バノッサに綿なんかをドッサリ渡す。 「それの飾りつけ終わったら、一緒にフラットのみんなをお誘いに行こうね〜」 「なんで俺様が……!」 「いいじゃん、減るもんじゃないし!じゃないと、フラットに行く最中に、美白帝王がモナの木の飾りつけしてるって言いふらしてやる」 「…………居候、テメェ後で覚えてろよ……!」 「はっはっは、忘れるとも(キッパリ)」 背後から綿が飛んできた。 その後、フラットのメンバーを誘いに行ったら、みんな2つ返事で了承してくれた。 偶然出会ったオプテュスメンバーの水色頭とグラサン男もついでに誘って。 街をふらふらしてたスタウトのおっちゃんにもお誘いをかけて。 あかなべにも顔を出して、シオンさんとアカネにも声をかけてみた。 いざ人が集まってみると、家は、ものすごいことになっていた。 ごちそう、たくさん作ったけど足りるか!?と思ってたら、営業を臨時休業したらしい告発の剣亭から、ラルゴさんたちが手土産持参で来てくれた。 リプレたちも、お手製のお菓子とか持ってきてくれたし、シオンさんたちは、シルターンのお料理を持ってきてくれた。 それにしても家が大きくてよかった。なんとかみんなが入れたからね……! とにかく、夕方から夜遅くまで騒いで食べて飲んで歌って。 「メリークリスマース!じゃーなー!」 「おー!またなー!メリークリスマース!!」 絶対意味なんてわかってないだろうけど、ほろ酔いのみんなは関係なし! 口々に祝いの言葉を叫んで、解散していった。 「はぁ〜……楽しかったねぇ〜」 解散した後に残ってるのは片付け。 それでも、余韻に浸りながらやる片付けは、いつもより数倍楽しい。……ちょっと寂しさはあるけど。 「本当に!家にこんなに人が来たのなんて、初めてですよ!嬉しかったなぁ。それに、今日はアシュタルさんがお料理上手だってのにも気付きましたし!」 「…………適当にやっただけだ」 「適当であれなら、ホントすごいですよ!」 「アシュタル、今度なんか作ってねvv」 「…………気が向いたらな」 ふふふ……アシュタルの手料理権GET……! あー、でも、今日の料理、全部おいしかったなぁ〜……特にローストチキン、最高! 可愛いカノンが作ったものだと思うと、おいしさだって100倍よ! 「ったく……片付けなんてやってられっか」 そして可愛くないのが約1名。 「ちょっ……バノッサどこ行くのさ!」 「………………」 無視ですか(怒) 言ったことなんてまるで無視して、トントン、と階段を上っていってしまったバノッサ。 「……もう、なんなんだあの美白帝王ってば……!」 苛立ち紛れに、ゴミを袋の中にぶち込む。 人のこと無視しちゃって……!なんだよなんだよ、バノッサだってパーティー楽しんでたじゃんかー!私のことまるで無視して、オプテュスメンバーやシオンさんなんかと飲んでたの、知ってるんだぞー!それに、ぷらっと途中いなくなってたし!協調性を持ちましょうよ! ………………ひとっこともパーティーで話さなかったから、片付けのときくらいは会話できるかと思ったのに。 「さん」 もやもやしていたら聞こえる、カノンの声。 「……ん?」 「……今日の片付けはこれくらいにしておいて、バノッサさんのとこ、行ってくださいませんか?」 「…………へ?」 ニッコリ笑うカノンは、何を考えてるのかよくわからない。 「バノッサさんの不機嫌、治せるのなんてさんくらいですから。……片付けはまた明日にしましょう?僕も疲れちゃいました」 「…………でも」 「……行っておけ。アイツの八つ当たりを受けるのは、どうせ俺たちなんだ。被害を増やす気か?」 ………………そんな。 「というわけで、よろしくお願いします。…………それじゃ、おやすみなさい」 「え、あ…………お、オヤスミ……」 カノンが笑みをたたえたまま、自分の部屋に戻っていく。 アシュタルも、ヒラヒラ、と手を振って、自分の部屋に入っていってしまった。 ………取り残された私は、少し躊躇った後に―――階段を上り、バノッサの部屋の前まで行く。 扉の前で、やっぱり少しの間悩む。 ……深呼吸を数回行ってから、意を決して扉をノックするために、手を振り上げると。 ガチャ。 ノックするために振り上げた手は、扉を叩くことはなく、宙を舞った。 先ほどまで扉があったはずの場所には―――呆れた表情の、バノッサ。 「…………扉の前で何回深呼吸すりゃ気が済むんだ、テメェは」 「………………今は深呼吸がブームなの」 苦し紛れの言葉に、バノッサが呆れた表情のままでため息をついた。 「なんか用か」 用か、と言われれば、特別な用があるわけではないので、困る。 「…………用がねぇんなら、とっとと寝ろ」 いつもよりも冷たい瞳。そして、眉間には深いしわがよっている。 ……まだまだ絶賛不機嫌中らしい。 「なんでそんなに不機嫌な顔なのさ」 「……元からこういう顔だ」 「目つきが悪いのは認めるけど、そんなに眉間に皺、寄せてないでしょ?」 「………………」 「…………バーノちゃーん?ご機嫌直してー?」 「誰がバノちゃんだ、誰が!」 「美白帝国皇帝のバノ……んぅっ……!」 いきなり視界が白くなり、唇に感じる慣れた感触。 頭を押さえつける強引な手は、グッ、と私を部屋の中に招き入れた。 バタンッ! 夜中なのに大きな音で閉まった扉に、押さえつけられる。 バノッサの舌が、乱暴に口の中を暴れ回―――って、実況中継してるのが恥ずかしいっての!!! とりあえず。 ギャ―――!!!(叫んでみる) 「んぐっ……ふっ…………バノ…むっ……」 なんとかしてやめさせようとしたんだけど、一旦離れた時にすら、しゃべらせてもらえない。 口の中には少しお酒の味、離れたときに鼻をつくのは、やっぱりお酒の匂いだ。 ―――体の力が抜けてはじめて、バノッサが体を離した。 ガクン、と力が抜けた膝。 その前に、バノッサにしがみつくことでなんとか堪えた。 これ以上キスされないように、おなか辺りに顔をうずめる。 「…………ッ……バノッサのアホ……!」 「うるせぇ。テメェ、もう1回やられてぇか」 「うわー!!ストップストップ!!!」 ぐいっ、と顔を上げさせられそうになったので、慌ててもう1度下を向いた。 「……………………ちょっと来い」 今度触れられたのは顔ではなく、手だった。 バノッサの冷たい手が、私を引っ張っていく。 ドサッとベッドに座らされたので、これから起こることを予想して逃げようとしたんだけど―――目で制された(汗) でも予想とはちょっと違って、バノッサは小さい袋をバシッと投げつけてきただけ。 「いたっ……何、コレ?」 投げつけられた袋を見てから、それを投げつけた本人を見れば、そ知らぬ顔。 「貰っちゃうよ?」 「……勝手にしろ」 それはバノッサ流の『肯定』。 遠慮なく、カサカサと袋を開けた。 「…………う、わ……」 出てきたのは、小さなブローチ。 花の形をしてる……これはきっと、トキツバタを模したものだろう。 「かわいー!うわー、嬉しい!…………でも、なんで?」 「……南の奴らに聞いた」 「え?…………あ、もしかして、クリスマスプレゼント……?」 「………………」 無言なのも、バノッサの『肯定』 …………うわ、ヤバイ、何コレ……嬉しすぎるんだけど……! トキツバタの白い花びらの部分は、宝石が埋まってる。 …………1つ1つの石は高くなくても、きっとそれなりのお値段がするのだろう。 でも、それよりも。 バノッサがプレゼントをくれたってのが嬉しくて。 「ありがと、バノッサ!大事にする!」 ぎゅっ、とそれを握り締めて、バノッサにお礼を言った。 バノッサは1度ちっ、と舌打ちをしてから、こちらを見て―――。 イヤんな笑みを浮かべた(滝汗) 「………………なら、礼は体で払え」 「………………………………………………………は?」 「今日は……恋人たちのクリスマス、なんだろ?」 「……なっ……ななな、どっからそんなこと……!……あぁぁ、ハヤトたちだな―――!?」 「さぁ、クリスマス、満喫しようじゃねぇか?」 後は予想通り。 …………バノッサさんは、素敵なクリスマスを満喫されたようですよ……!(泣) 後で聞いたところによると。 パーティーの途中で消えたのは、ブローチを買いに行ってたらしい。 不機嫌だったのは…………。 「…………テメェが、南のヤツらにベタベタしてるからだろうが」 …………だったそうです。 |