心配 AM 8:10 翔陽高校、屋上 「……ちょーしにのってんじゃないわよ!いくら幼なじみだからって!」 どんっと突き飛ばされる。 (のってる……かなぁ?少なくともあんたたちより、のってはいないと思うんだけど……なんて言ったら、何されるかわかったもんじゃない。第一……コイビトなんですけど……) 美しいお姉さま方だが、顔に似合わず行動はかなり酷い。 (……まったく……健ちゃんも、私なんかじゃなく、こーゆーお姉さま方と付き合えばいいのに……) ここにはいない彼氏に、ちょっと愚痴ってみる。 「聞いてんの!?」 がつっと蹴られる。 (……行動は少なくともお姉さまじゃない……女王様?こりゃ、健ちゃんに嫌われるわ) もう一発蹴られる。 いい加減、堪忍袋の緒も切れそうだ。 「あんたみたいなのがいるから、藤真君、困るんじゃないっ!」 ぷっちん。 「私がいつ、あんたらの目の前で健ちゃん困らせたのよ!人のことガスガス蹴って……痛いんだけど!」 一瞬、相手は詰まったが、すぐに気を取り直すと、今度は、突き飛ばそうと手をのばしてきた。 は、フン、と鼻を鳴らすと、ぴょんっとバック転した。 「!?」 きれいに着地をして、身構える。もちろん、戦闘用だ。 「……なに、この子。野蛮な」 (野蛮はあんたたちだろ……) 「帰りましょう。こんな子が藤真君に近づいてたら、藤真君が野蛮になってしまうわ。私たちで、藤真君を守らないと」 (今更、お嬢言葉になっても遅いっつーの。健ちゃんはあんたらなんかに守られないっつーの。藤真君藤真君、うるさいっつーの!) お姉さま方が、屋上を降りる。 ぽつん、と屋上に一人残された。 戦闘の構え―――といっても、ただの脅しだが―――を解いて、ふっとへたり込む。 (……痛いんだけど……けっこう……) 蹴られた腕を見てみると、かすかに赤くなっていて、更にすこしすれている。背中もすこし引きつっている。筋を違えたようだ。 キーンコーンカーンコーン…… 予鈴がなる。とにかく授業には出なくては。 「……よいしょ……」 歩くたびに痛くなる背中を押さえて、は教室へ歩き出した。 「?どーかした?」 話し掛けてきたのは、親友の。席に座っている時もずっと背中を押さえているを変に思ったらしい。 「……ん……お姉さま方にいじめられた……」 「はぁ!?……と……で?どうしたの?」 「ん〜……健ちゃんに近づくなって言われて、野蛮だって言われて……あ、その前に一回突き飛ばされて、二発蹴られて、もう一回突き飛ばされそうになったトコを、切れてバック転してよけて……戦闘の構えしたら逃げてった」 「……蹴られたぁ!?バック転って!?…ってか、大丈夫?」 「……背中の筋違えて、腕に痣が出来そう」 「ちょっ、筋違えた?」 「、声でかい!」 の言葉も空しく、その言葉は教師に聞かれたようだ。 「。筋を違えたとは、どういうことだ」 は、しばらく考え込んでいたが、席を立つと、 「先生、さんがどうやら背中の筋を違えたみたいで……保健室にいかせてもいいですか?」 教室がざわつく。 「大丈夫?さん」 となりの女子が話し掛けてくる。とりあえず笑顔で大丈夫と答えておく。 (本当は、大丈夫じゃないんだけどね) 「。保健室にいってくるか?」 (正直いって……かなり痛いんだよね……この体勢。いってこよーかな) ひとしきり考えた後。 「いってきます」 そういっては席を立った。 「一人で大丈夫か?」 「はい、平気です。すみません」 がらがら、と教室のドアを開けて廊下に出る。 (……に感謝だな……かなり辛かったもん。さーて、保健室保健室) 保健室までの道を壁に手を当ててなんとか歩く。 「いてて……あの、女王軍団め……」 やっとのことで保健室に着いたのは、教室を出て、およそ5分後。普通に歩いてきたら、3分もかからない。 コンコン、と軽くノックする。 「失礼しまーす」 「あら、さん。ごめんなさい、先生今から出かけちゃうのよ……どうしたの?」 保険医の言葉に、は軽く手を振る。 「いや、ちょっと気分悪くて……寝かせてください」 「いいわよ。……それじゃぁね」 保険医をここで立ち止まらせるわけにはいかないと、はとっさに嘘をついた。事実、保険医はかなり急いでいるらしく、すぐに保健室を出て行った。 「……いてて……とりあえず、あっためるんだっけ?冷やすんだっけ?あぁ、もうわかんないっ!……とにかく、寝よう……」 寝ようとして、腕に痛みが走る。 「……そーいや、ここも蹴られたんだっけ。……ここのは、とりあえず湿布?」 勝手にごそごそと棚をあさって湿布を発見する。そのまま腕に貼り付けて、さぁ寝よう、と布団を持ち上げると…… (いたたたたっ!なに!?腕、痛い!) 痛みの原因は先ほどの湿布。どうやら、痣には変わりないのだが、すっていたこともあったので、湿布をはって痛みを伴ったらしい。 (……湿布も貼れないじゃん!) 半分涙目になって、べりっと湿布をはがす。 「くそぅ〜……女王軍団め……健ちゃんのそばにいて、なにが悪い〜っ!」 「俺?」 すぐとなりから返事が聞こえる。 「……健ちゃん!?」 ばっと振り向いて痛みに顔をしかめる。 「どうしたんだ?なにかあったか?」 (原因はあんただよ!) そう思いながらも、優しい言葉に涙がでそうになる。 「別に……なんでもない……」 「なんでもない顔か?それが」 くいっと顎が持ち上げられる。 「……!なんでもないもん!」 ぱっと振り切って、また襲ってきた激痛に顔をしかめる。 「?どうした?」 「……なんでもない」 「馬鹿!はやくみせろ!」 藤真の声に、びくっと体がすくむ。 「……どこだ?痛いの」 「……腕……」 藤真は、の腕を取ると、軽く持ち上げた。 「……すってるな……消毒して……痣はどうしようもない……自然治癒を待て。擦り傷が治ったら、湿布はっとけよ」 「ん……」 「で?後は?」 「……!」 何でわかったの、という表情の。藤真は憮然とした表情でいった。 「腕の傷だけで顔をしかめないだろ。……ほら、どこだ?」 「……背中……」 さすがに背中までは見ないだろう、とベッドに向かって歩き出す。 と、そのを藤真が引っ張る。 「いた……っ!」 「あ、わりぃ……ちょっと見せろ……」 「え?」 いきなり、制服のワイシャツをまくられる。 「ちょっ、健ちゃん!」 「黙ってろ」 「え、でも……!」 背中に藤真の冷たい指先があたる。 「健ちゃん!」 「……筋じゃないぞ、これ。けっこう腫れてる……ぶつけたのか?こんなにひどく、どこで」 問いかけに、無言になる。 「?」 それでもに無視は出来なかった。 「……蹴られ、たの……三年の先輩に」 「……蹴られた?」 声が大きくなった。 「うん……けど、大丈夫。心配しないで」 「……誰に?」 「へ?」 静かだが……確実に怒っている声音。 「誰にやられた?」 「え、だから……三年の……」 「三年の?」 「えーと、えーと……健ちゃんの周りにいる女王軍団……」 必死になって答えられたはいいが……変な答え方だ。 「……ごめん……俺のせいだな……」 「別に?大丈夫だよ?」 「ごめん、な」 「だいじょーぶ!じゃ、私、寝るから!」 藤真を元気付けようと明るい声を出したが、一向に表情は明るくならない。 「だいじょうぶだよ!ね?」 軽く藤真の唇にキスをする。 驚いたように目が見開いた。 「大丈夫!私は平気!」 (うん!健ちゃんに会ったら、元気でたしね) 「……わかった。本当に、ごめんな」 「気にしないでよ!んじゃ、おやすみ」 「あぁ、オヤスミ」 いつもとかわらない優しい笑顔に安心したのか、瞬く間に、からはかわいらしい寝息が聞こえた。 それとともに、藤真の顔が変わる。 『は〜い、もしもし?』 「あ、か?俺だけど……」 『健ちゃん!?どうしたの?』 「もう、心配しなくていいから」 『へ?』 「心配しなくていいからな!」 『う、うん。わかったけど……』 「それじゃ、な」 『えぇ〜?ちょっと待ってよ、健ちゃん!……ツーツーツー』 翌朝、花形の話によると、どうやら、昨日のうちに藤真は例の『女王軍団』に一喝したらしい。 「怖かったんだぞ、藤真。もう、壁なんかたたいて……壊れるかと思ったよ」 「そ、そんなに?」 物に当たる藤真なんて見ようと思ってもなかなか見れるものではない。 「すごい切れてたぞ。なにがあったんだ?」 花形の声は、もはやの耳に入っていない。 (へぇ〜……健ちゃんがねえ……へぇ〜……) 丁度前から、本人が現れた。 「健ちゃんっ!」 痛い背中もなんのその。 は思い切り藤真に抱きついた。 あとがきもどきのキャラ対談 藤真「……なんか、無理やり終わらせてるな」 銀月「……終わらせてますね」 藤真「……で?他にはなにか言う事はないのか?」 銀月「……みなさん、お目汚しですみません……」 藤真「まったくだ。、行こう」 銀月「……感想等、BBSかメールで下さると嬉しいです」シクシクシク…… |