好きだよ。 大好きだよ。 その一言が言えない。 ―――言っちゃいけない。 だって。 私の好きな人は相手は、 親友の好きな人だから。 幸せと不幸せ 私と彰は幼なじみで。 一緒に遊んだりバスケをしたりした。 そのうち、私はそれなりに上手くなって、名を広めるまでになった。 彰は、もう東京で知らない人はいないほどに有名人になった。 彰が神奈川の陵南高校にスカウトされたと聞いて、私は迷わず陵南高校女バスへ行った。 スカウトが来ていたから、というのもあったけど、それ以上に――― それ以上に彰が好きだったから。 一緒に行く、と行ったときに、彰はすごく嬉しそうな顔をしてくれたんだ。 私もすごく嬉しかった。 右も左もわからない神奈川で、これならやっていけると思った。 同時に、なにもわからない中で何かが変わる予感もしたんだ。 だけど、思いもしなかった。 陵南高校で、初めて出来た友達が彰のことを好きになるなんて。 はじめに言っておけばよかったんだ。 『あの人が私の好きな人だよ』 って。 言っておけばよかったんだ―――。 「……っ……っ」 「うぁっ!?はいっ!?」 まだ開けきらない目のまま、ガタン、と思わず席を立ってしまった。 目の前で、数学の先生が仁王立ちする。 「……い〜い返事だ、。よし、前でこの問題解いてみろ」 しまった。 今は授業中だったんだ。 仕方なしに前へ行こうとすると、ツンツン、とスカートの裾を引っ張られた。 「、ごめ〜ん……さっき、起こせばよかったね」 親友で、席が隣のだった。 すまなそうに手を合わせた親友にいいよ、と軽く笑った。 頑張って問題を解いて、席に戻ると、後ろからポン、と肩をたたかれた。 先生が説明のために前を向いた瞬間に、後ろを向くと、後ろの子から手紙が回ってきた。 「……?」 カサカサとその手紙を開いてみると。 「……あ」 思わず声が出そうになったけど、慌てて手で押さえた。 手紙は彰だった。 背が高いから、前の方に席をとっても物理的障害で後ろにされるから、彰はいつも一番後ろ。から、手紙も後ろから来る。 『ま〜た、寝てたんだろ? 数学の時は寝るなってあれほど いっただろ?(^^) 馬鹿だな〜 彰』 その言葉に、ムカッときて、ゴソゴソとメモ帳を切り取って、一気に書いた。 『うるさいなっ! いっっっっつも寝てる彰に言わ れたくないよ〜っっだ!(‐_‐+) 』 また先生が前を向いた隙に、私はわざと彰の頭に当たるようにメモ帳を丸めて投げてやった。おもりに、消しゴムをつけて。 いて、と小さな声がした。 クックック、と声にならない笑いが漏れてくる。 笑っていると、今度は隣から手紙が来た。 『、何やってるの? 』 ビク、と体が震えたのがわかった。 見てたんだ。 そっか……。 じゃあ、もうやめなきゃね。 これ以上彰と仲良くしちゃ、いけないね。 の手紙の下に、震えるのを止めながらやっと書いたのはたった一言。 『なんでもないよ』 それが、私の精一杯だった。 タイミングのいいことに、ちょうどその手紙を渡したところで、終業のチャイム。 今日という日ほど時間に感謝したことはない。 これで、彰からも手紙は来ない。 挨拶が終わって、チラリと横目でが彰の方へ行くのを見ながら、私は逃げるように教室を後にした。 誰もいない旧部室の中で、私は1人横になった。 『旧部室』だから、誰も来ない。本当の『1人』になれる。 1人になれば、よくわかる。 その辛さが。 何度親友に『彰が好きだ』と言おうとしたのだろう。 何度彰に『あなたが好きだ』と言おうと思っただろう。 だけど、私にはどっちも大事で。 とても天秤にはかけられなかった。 だから、思ったんだ。 『2人が幸せになればいい』 って。 2人が幸せになれば、それでいいんじゃないか、って。 だって。 『勝ち』があれば、『負け』があるのと同じように、『幸せ』があれば『不幸せ』があるでしょう? だったら。 『不幸せ』は、私でいい。 2人が『幸せ』だったら、私は『不幸せ』でいい。 だけど。 このごろ、が彰に近づいていくのが嫌でたまらない、と思っている自分に気がつく。 決めたのは他ならぬ自分なのに。 嫌な子だな、と思う。 彰がと楽しそうに話していると、逃げ出したくなっている自分に気がつく。 決めたのは自分なのに。 だから、耐えて……耐えて。 でも、いつのまにかカラダはココロとは逆に逃げ出している。 根が単純だから、ごまかせないのかな? だけど、ごまかさなくてはいけない。 自分のココロをごまかして、生きていくしかないんだ。 ……寝ちゃったのかな? 天気が悪くなったのか、部屋が真っ暗だ。 やばい。授業始まってるかも、いかなきゃ。 まだ寝ていたい、と悲鳴をあげる体に鞭を打って、のろのろとドアノブに手をかけた。 「……あれ?」 ガチャガチャと、ノブをまわしてみても扉は開かない。 「あれれれれ?」 なんでなんでなんで??? 体当たりしてみるけど……開かない。 「……なんでぇ?」 鍵は閉まってないみたいだし……というか、そもそも鍵はない。 ……ということは、ドアが壊れた!? 閉じ込められたの!? 「嘘っ!?」 週番―――最終点検にくる人がここにつくのは、PM 5:30。そこで、助けを求めればいい。 今は―――。 「いぃっ!?」 腕時計の針が指すのは、PM 8:23 とっくに週番は帰っていて―――教師すら帰っている時間だ。 真っ暗だったのは、夜だったからか……。 なんて、言ってる場合じゃなくって! ちゃんと、見回りしろよ! ……なんていってる場合でもなくって! とにかく、ここで一晩は怖すぎる。 携帯も教室の鞄の中だし。 もちろん部室に電話なんてあるわけない。 連絡方法が、全くない。 がく、と膝が力を失った。 あたりは真っ暗。 誰もいない。 怖い。 本当なら、高校生の女の子が帰ってこないところで、捜索願とかがだせるのだろうけど……私は一人暮らしだから、私が帰っていないことすらわかっていないだろう。 「……寒……」 ちぢこまって、体育座りで膝を抱える。 暖房器具はないし……いくら春だからって、夜は冷える。セーターもおいてきちゃったから、ワイシャツ一枚だし。 外で風がなるたびに、身を震わせる。 隙間風が入るからだ。 明日になって、だれか気づいてくれるのを待つしかないのかな? ……彰、気づいてくれないかな? じわり、と涙が浮かんだ時だった。 『っ?、いるか!?』 厚いドアの向こうから、声がしたのは。 涙も吹き飛んで、私はドアに向かって駆け出していた。 「彰?……彰ぁっ!」 『……、いるんだな?ちょっと待ってろ……ん?開かない?』 「……壊れちゃったみたい……閉じ込められた……」 『……離れてろ』 少し低くなった声に、私はサッとドアから身を放した。 と同時に、バァンッ!という激しい音。 現れたのは、みなれたツンツン頭で。 見た瞬間に、もう涙が溢れて止まらなかった。 彰。 彰。 彰。 もう、とめられないよ。 キモチが爆発してる。 ねぇ、今だけだから。 今だけ、私を『幸せ』にしてください。 「……彰ぁっ……」 抱きついたら、抱きしめてくれた。 嬉しかった。 言っても、いい? 今だけでいい。 今だけ、覚えてくれればいいから。 「……好きだよ……」 ポソ、と呟いた一言は、彰の耳に届いた……みたい。 彰が、目を見開いた。 だめだったかな? やっぱり、言ってはいけないコトだったのかな? 『今だけで、いいから』 そう言おうと思って、口を開きかけた、時。 キスを、された。 吐息が、絡まった。 熱い、熱い、吐息が。 彰の手が、私の頭をなでた。 ふっと唇が離れた。 「……彰、今だけでいいから……もう、これで、諦められるから……」 笑った。 笑えたよ。私。 「……もういい……ってどういう意味?」 彰の口から出た言葉に、私はどう答えていいのかわからなかった。 の事、どういえばいいのかわからなかったんだ。 「……だから、その……」 口篭もってると―――。 「……俺は、が『一番』だから」 ……本当に嬉しかった。 涙が出た。 でも、すぐにココロの中でのことが浮かんできた。 「……でもっ……!」 「でも?……さんのこと?」 見透かしたような目をした、彰。 もう、駄目だ。 言いワケは出来ない。 「……うん……」 「なら、俺、断ってあるんだけど?」 「……は?」 「……俺、ずっと前に『が好きだから』って言ってあるんだけど?」 「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」 バッと彰の腕の中から飛び出て、私は驚いた。 なにそれなにそれなにそれっ! 私があんなに悩んだのはなんだったのよっ! が『なにやってるの?』 って聞いたのはなんだったのよっ!? っていうか。 が彰に近づいてたのはなんだったのよ!? パクパクと、口を金魚のように開閉していると、彰はその様子で何を言おうとしているのか、わかったらしく、いつものニッコリ笑顔で答えてくれた。 「あぁ、さん、越野のことが気に入ったみたいでさ〜……いろんな情報とかあげてるダケ。OK?」 「……OK……じゃなぁいっ!」 私の悩んだ日々を返して! あんなに悩んで…… 悩んで…… 「……?……泣くなよ、もう」 「だって……泣けてくるん、だから……しょうがないでしょっ」 「……ハイハイ……サン……こっち、おいで」 来い来い、と手招きをする。 私は素直にその手招きのまま、彰の腕の中に収まった。 「……なんで、私がいないことに気づいたの?」 「……愛の力かな?」 「馬鹿ッ!」 ハハハッ、と笑いが漏れた。 私は、もう一度彰に抱きついた。 もう、いいんだ。 悩まなくて、いいんだ。 みんなが『幸せ』になれる方法が見つかってたんだ。 『幸せ』と『不幸せ』 紙一重なのかもしれない。 ってことはさ。 世の中、『幸せ』だけでうめつくされても、いいと思わない? あとがきもどきのキャラ対談 銀月「……さぁて……逃げようかなvv」 仙道「……で?甘くはないし、俺はあんまり出てないし……どう責任とってくれるのかな?」 銀月「……やっぱ、ダメなのね?」 仙道「当たり前だろ」 銀月「……今度からいっぱい出すからぁ〜……」 仙道「当たり前vvさぁ、いこーか、」 銀月「……感想いただけると嬉しいです……」
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