「よっし……これでなんとか寝れるスペースは出来た……と」

は、ダンボールだらけの部屋をぐるりと見回した。

だが、言った側から、ダンボールがぼろっと落ち、そのスペースがあっという間になくなる。

「……徹夜かな……」

は、ウンザリとそう呟いて、崩れ落ちたダンボールを同じように積み上げ始めた。

には、今、それを手伝ってくれる人間がいない。

両親は、今ごろ空の上だろう。
急な転勤で日本の真裏へ行く事になったからだ。
話をする相手もいない。ペットがいれば、少しは気がまぎれただろうが……あいにく、そんなものを飼う余裕はなかった。

しーん……という文字がバックに浮かびそうなほどに、静かな空間。
まだ、傘もなにもつけていない裸の電球が煌々と散らかっている部屋を照らした。
冷蔵庫の低周波の音が、耳に入る。
ただ、それだけ。



初めての一人暮らしの夜は、いやに静かで寂しい夜だった。





三角関係





「むぅ〜〜〜……眠い……」

は、机に顔をうずめながら唸った。

「……?あんた、すごい怖いよ……」

親友のが、ぽかっと数学の教科書でたたいた。

それにも反応しない。

「……?」

「眠い眠い眠い眠い眠い!!!……あ〜……昨日、徹夜で片づけするんじゃなかったぁ〜!」

「あ、引っ越したんだっけ?……今日、行ってもいい?」

「ダメ!」

即座の反応に、はあっけに取られる。

「……なんで?」

「だって、片付けても片付けても、全然きれいにならないんだもん!……明日なら、全然OKなんだけど……」

「あ、今日土曜日だもんね……部活終わったら、すぐにやろうと思ってるんでしょ?」

「うん……だから、ね?明日〜!ついでに、私にお恵み下さい〜!まだ、片付けに精一杯で、食べ物全然買ってないの〜……」

ふにゃ〜と涙をためる親友の頭をなでなでと、子供をあやすようにはなでる。

「はいはい。……んじゃ、後一時間がんばれ〜」

「は〜い……」

力なくは返事した。





「部活〜部活〜……部活〜……」

?」

妙なことをぶつぶつと呟きながら歩いてくる『部活の一員』に花形は声をかけた。

「ん?透ぅ?……部活ぅ〜……」

「……ついに狂ったのか?」

ピク、とが反応する。

「失礼な……むぅ〜……眠い〜……」

「なんだ、眠いのか……部活、休むか?」

「いや!絶対いや!……そういえば、健司は?」

「あぁ……藤真なら、数学の鈴木につかまってたぞ」

うげ、とうめきながら、体育館の扉を開ける。

「でも、本当に顔色悪いぞ……帰れとは言わないから、せめて休んでおけ。……今日はきついぞ」

そう。は、翔陽高校男子バスケットボール部の『プレーヤー』だ。

「えぇ〜……だって、男バスが強いから、女バスがなくなったんじゃん!『大事な』幼なじみの二人が一緒に翔陽入るから私もって、一生懸命勉強して、女バスに入ろうと思ったのに……そんなかわいそうな私に、バスケをするなって?いつから、君はそんなに偉くなったんだい、透くん?」

ずずずい、と顔を近づける。

「……やばかったらヤメろよ」

「りょーかい♪」

「……ったく……おい、はじめるぞ!」

キャプテンの藤真がいないため、必然的に号令は花形が取る事となる。

「は〜い」

間の抜けた返事に、花形のメガネがずるっと落ちた。





「パスまわせ!……今のは抜けるぞ!」

センパイの怒声が響く。それに後輩が気合で作り上げた大声で返答する。

「……昭一!パスパス!……よぉし!卓、いいぞぉ!」

も然り。これでもかというほどの大声を張り上げる。

2VS2のハーフコート。は、同級生の長谷川一志と組んでいた。……背の低いは、ガードしかできないので、どうしても背の高い長谷川や高野、花形と組むことになるのだ。

「一志……どーする?スクリーン使う?」

「あぁ。……俺がかけるから、……抜けるか?」

「抜く!抜くともさ!……おっしゃ、いくよ〜!」

「あぁ」

ぱしっとボールを掴むと、は、ちらと長谷川を見た。

コク、と頷く。

ふっと長谷川の体が動いた瞬間に、は、一気にドリブルで抜きにかかる。

……グラッ……

不意に、の体が前に崩れた。

「!?」

ディフェンスをしていた花形が、咄嗟にがしっと抱きとめ、床への激突を免れる。

「……おろ?」

数秒後、なんとも妙なうめき声をだしたに、花形が、ふっと息をつく。

「……馬鹿!無理するなと言っただろう!……熱あるじゃないか」

「熱……?嘘だぁ……」

ほにゃ、と笑う。立とうとするが、一気に力が抜けてしまったらしく、がくがくと足が笑うだけ。

なんだなんだと、部員達がいっせいに集まり始める。

「……センパイ、大丈夫っすか?」

「へーきへーき……透。私、やっぱ帰るわ……」

「……一志、後頼むぞ。俺、コイツ送ってくるから」

コク、と長谷川は頷くが、はすでに真っ赤になっている顔をがばっとあげた。

「は?……透、いいって!一人で帰れるよぉ〜……」

かまいもせず、花形はTシャツのままのに、トレーナーを無理やり着せる。

「透ぅ〜……大丈夫だってぇ〜……」

「ここで、お前1人帰らせたら、俺が藤真に殺される……ほら、着替える力もないんだろう。……これも着てろ。すぐ戻ってくるから」

「わぷ」

ばさっと、翔陽のジャンパーを着せる。……かなりぶかぶかだ。手はおろか、指さえも見えない。

センパイ、立てますか?」

伊藤が、座り込んでいるを上から覗き込んだ。

「うんにゃ……ちょっと無理……ねぇ、卓ぅ……健司、怒るかなぁ?」

伊藤は、微妙な微笑を返す。

「……きっと、怒りますねぇ……センパイ、覚悟しておいた方がいいですよ」

「……そうしまス……」

「おい、!行くぞ〜!」

扉の方で、花形の声が響く。

伊藤に支えられて、やっとのことで、は花形の元へたどり着いた。





「……そーいや、ってば引っ越したんだよな……」

「ん……透……ちょ、休む……」

ぐた、と道端で座り込む。花形が、慌てて同じように座り込んだ。

「お、おい!大丈夫か?」

「む〜……透ぅ、おんぶしてぇ〜……」

「……おい」

「病人には優しく〜……うにゅ……」

あげた顔は、かなり赤い。午後になり、歩いていた疲れもたまり、熱が上がってきたのだろう。

?……ったく……ほら」

メガネを一瞬ずらすと、乗りやすい高さにまで腰を落とす。

「まったく……」

乗せるのを止め、自分が巻いていたマフラーをの首に巻いてやる。

「ありがと……あぁ、そこ、右行ってまっすぐのマンションの5階の……どこか」

「はぁ?」

「……どこか」

そういうと、花形によりかかり、はかすかな寝息をたてた。

「……おいおいおい……男の前でそんな無防備な顔するなよ……」

数秒の沈黙の後。

花形はそっとの額にキスをした。





トントントントン……

(包丁の、音……?)

家には、誰もいないはず。

両親は海外へ行っているし、親戚も県内にはいない。

(目を、開けなきゃ……知らない人が、包丁使ってるのかもしれないし……もしかしたら、ドロボウがご飯作ってるのかも……)

まず、それはないだろう。

(目を、目を……あぁ!瞼が鉛のように重いよぉ〜!)

軽く、身じろぎをする。

包丁の音がピタッと止んだ。

「……?」

聞きなれた声に、ビクッと体が動く。……目が、開いた。

「……健司!……なんで、ここに……」

目の前に立っているのは、幼なじみであり、……翔陽高校男子バスケットボール部の監督兼主将だ。
制服姿のままで、台所に立っていたらしい。

「なんで、だと?」

形の良い眉がつりあがる。
表面上爽やかな彼の背後から、黒いオーラが漂い始めた。

「……数学の鈴木につかまって、そこらにいた奴らのために定理の証明をやらされる。やっと逃げきって、部活に行けば、副主将とマネ兼プレーヤーが二人ともいない。聞けば、熱を出してぶっ倒れた『馬鹿』な奴がいる。その馬鹿は先日引っ越したばかりで、キャプテンに住所変更すら伝えてない。……しょーがねーからわざわざ担任のところまで行って住所調べて、やっとくれば、鍵はかかっていないし、本人はベッドで寝てるし、ダンボール箱はくずれてるし……」

「ふ、藤真さん……怖いです……」

「なにが?(にっこり)」

ひくひく、との顔が引きつる。
更に追い討ちをかけるように藤真は言う。

「とりあえず、俺が作ってやった飯を、食べてからにしようなvv」

「な、なにをですか……」

聞きたくないのに、口が勝手に動く。

「なにってそりゃあ……」

いつもの笑顔。

「お仕置きvv」

この時の食事をは、いつもの数倍遅い速度で食べることとなった。





「さて……飯も食べ終わったし……」

「たし……?」

だらだらと汗が流れる原因は、熱の所為だけではないだろう。

「もう忘れたのか?……お仕置きだよ」

目が、ふっと真剣みを帯びる。
ぐっと顔を引き寄せると、そのまま床に倒れこんでの深いキス。

「む……ふぅ……」

散々に口内を犯して、最後に口の端からこぼれた唾液を舌でからめとる。

「……健司ぃ……今日は、やめよーよぉ……私、ビョーニン……」

「ダメ」

しっとりと汗ばんだ体を手がまさぐる。
最後の抵抗、とばかりに差し出された腕は、あっさりとかわされ、逆に藤真へ抱きつく格好となった。

「……俺に風邪の事黙ってたバツ……」

笑って耳をカリッと噛む。片耳だけに開いたピアスホールを舌でつつくと、は甘い声を上げた。

「そん……な、気がつかなかった……んだもん……」

「……ダメ、許さない」

するり、と器用に片手でボタンを外して衣服を脱がせる。
固くなり始めている突起を口に含むと、ペロ、となめた。その舌はすすす、と下へと下がり、秘所へと到達する。

「……ちょっ……健司!」

舌で割って入り、その中へと進める。
藤真の色素の薄い髪がの脇腹のあたりにあたって、くすぐったい。

「あぁん!……ダメ、だってばぁ……ひゃぁ!」

「……花形と、なにがあった?……あのマフラーとジャンパーは、花形のだろう?」

「送ってもらった、だけだよ!なん……で、そゆこと、言うの!健司の、馬鹿!嫌い!」

ピク、と反応し、舌の攻撃が中断される。
その顔の表情に、は危機感を感じる。

(やば……)

ちなみに、普段の彼も、監督としてベンチに座っている冷静沈着な人とは程遠い。

「……へぇ……嫌い?俺のことが?ふぅん……そーゆーことを言う奴は……」

今まで、ゆっくりと膨らみのあたりを行き来していた手が、下の方へと降り、先ほどまで舌で弄んでいた部分を刺激する。

「やぁ!……あ……あぁ!はぁ……ん!」

クチュ、クチュ……といやらしい水音が暗い闇の中で響く。
熱い内壁をすり、肉芽をこねくり回し、指についた愛液を藤真はぺろ、との目の前でなめた。

「!……や、健司!汚いよ!」

「どこが?……俺には、甘いチョコレートのような味しかしないけど」

もう一度指をそこに戻すと、ぐっと奥へ進めた。
カリ、と内壁を引っかく。

「やぁ!……健司ぃ……!」

「俺も限界だ……まだ、痛いかもしれないけど……我慢してくれ」

にこりと笑う。
その笑顔は、殺人的に綺麗で。

だけど、その次には切なげに眉がひそめられた。

「くっ……」

「あぁ……っ…はぁ……ひゃうッ……んん!」

濡れてはいるものの、まだ痛みを伴っているのだろう。顔をゆがめたを、藤真が心配そうに眺めた。

「やっぱ、痛いか?」

「う、ううん……大丈夫……」

慣らしていない上、風邪を引いている。かなり体に負担がかかっているだろう。
藤真は、これ以上続けるのはのためにもよくないと思い、一気に腰を進め、数度大きく打ち付けて、奥にドクンドクン、と想いを放出した。

くた、との体の力が抜ける。人よりも軽い体重を支える力さえ、には残っていなかった。
数分後、ぼんやりと天上を見上げるに、藤真は声をかけた。

「……悪い……今になってからじゃ、遅いと思うけど……ちょっと、カッとしちゃって、さ……」

「……いーよ、もう……」

ぷく、と頬を膨らませてから、一転して落ち着いた表情で問う。

「でも、カッとしたって、何に?」

「その……花形が……いや……なんでもない」

そう言って、首を軽く振る。ふ〜ん……といってからくしゃみをしたを、引き寄せた。

「ごめんな……」

「だから、いーって、もう。……で?」

「……だから、なんでもないって……ほら、早く寝ないと風邪治らないぞ」

強引に腕の中に閉じ込めて布団をかける。

「あ〜〜〜!絶対何か隠してる!ずるい!透がなに〜!何隠してんの〜!」

「だから、早く寝ろって……はい。オヤスミ」

「むぅ〜……オヤスミ」





トントントントン……

藤真の頭の中で音がする。

(なんだ……?)

「健司?……あ、まだ寝てるのか……」

トントントントン……

また音が復活する。

「……?」

掠れた声が、の耳に届く。

「あ、健司。やっぱり、起きてたんだ。まだ寝てていーよvv」

そこで初めてが包丁を持って台所に立っていることに気づく。

「……、風邪引いてんだろ……一緒に寝よう……」

超低血圧の藤真にはまだ辛い時間帯だ。

「健司だけ寝てていいって。風邪、すっかり治ったしvvはい、もうちょっと待っててね」

ぼうっと眠る藤真に布団をかけなおして、再度包丁を持つ。

「……サンキュ……」

ぼんやりと台所に立つの背中が見える。

(俺の将来……こんな感じかもなぁ……)

一時の幸せを感じ、昨日の事に顔が赤くなる。

(あれも……将来か……?)

そして、花形の事を思い出す。

ぷちっ。

音がした。

(……あれは……将来、俺がいないときに絶対ありそうだ……)

藤真さん。今からそんな将来の心配ですか。





後日。

むっとしている顔をしている花形が、黙々と学校の周りを走る姿が目撃された。





あとがきもどきのキャラ対談



藤真「……久々に俺の小説かと思ったら……すげーいやな奴じゃねぇか?俺」

銀月「いやぁ〜……そんなことないっすよ〜……(目が泳ぐ)」

藤真「目が泳いでるぞ。しかも、全然甘くない……返品だな」

銀月「返品OKなんで……で。藤真さん、切れてましたね」

藤真「(ギク)……あれは、花形がいけないんだ……にキスなんて……ごにょごにょ」

銀月「……一体いつからいたんですか?」

藤真「さぁ?(フフンと鼻で笑う)……そろそろ行くか、

銀月「あぁ〜!謎を残して行かないでぇ〜!」

藤真「……あ、感想は裏のBBSかメールでくれたらうれしいな」

銀月「……私のセリフ……」