理由





「……わかんない!こんなの!」

「……

「だってぇ〜、こんなのわかんないよ〜」

藤真の言葉に、がふにゃぁ〜、と答える。へにょへにょの腕で、ヒント〜と、藤真の腕にしがみつく。

しょうがないなぁ、と藤真は息をついた。

「ほら、ここがこうなってるだろ?だから、こうなるはずの公式を探して……」

「……あ、なるほど!!んじゃ、これはこうして……」

「そうそう。……よし、OK。全部○」

やったーと、はばんざいをする。

「これで厳しい藤真先輩からの指導から離れられるよ〜っ!」

大きくのびをしたの頭に、藤真のノートがポコンと当たる。

「こーら。まだまだだぞ。次は、物理。お前、理数系全滅なんだから」

「えぇ〜?やだよ、もう〜っ!勘弁してよ〜っ!」

「だーめ。この家に住まわせている以上、オレにはその責任があるの」

「……健ちゃん……なんか親父っぽい……」

「この俺にそんな事いえるのは、本当にお前くらいだよ」

藤真は、ぐりぐりとの頭をなでまわした。

「……なんで私、健ちゃんなんかの家に居候してんだろう……?」

ぴく、と藤真が反応する。

「……なんかって言ったな、今。、数学の宿題10題追加するか?」

「そんなぁ〜。藤真健司様にそんなことをおっしゃるわけがないじゃないでございますかぁ〜。……ダメ?」

「……よろしい。お前は、突然の両親の海外転勤でどうしようもなくここを離れたくなかったため、俺の家にいる。OK?」

「そんなのわかってるよ〜。でも、なんで健ちゃんの家なんだろう。今まで、疑問に思ってなかったや」

「それは幼なじみで、なおかつ両親達が仲がいいから。……突然どうした?」

ぎくっと、は顔をこわばらせる。だが、すぐに笑顔に戻る。

「べーつに?さて、もう寝ようかな」

「おいおい……早くないか?」

「そう?健ちゃんも明日早いんでしょ?早く寝ないと明日きついよ〜!」

席を立って、ドアノブへと手をのばす。

藤真が、くいっと肩をひいた。

「?なに?健ちゃん」

チュッと軽い音を立ててのキス。

「おやすみ」

「……オヤスミ……」

真っ赤になったを眺めてクスクス笑う。

「なんだよ、子供の頃からやってるだろ?」

シュウ〜……と湯気をたてているの額にデコピン。

一箇所だけ更に赤くなった部分を手で押さえる。

「……健ちゃんのばぁか!」

「なっ……」

捨て台詞をはいて部屋から飛び出た。

(……少しは、人の気持ちも考えてよねっ)

まだ赤い顔をパン、と叩いた。





翌朝―――

が目を覚ました時、すでに藤真は家にいなかった。

「おはようございまーす!」

「おはよう。健司なら、もう学校行ったわよ。……はい、お弁当」

優しい藤真のお母さん。居候のにも毎朝きちんとお弁当を作ってくれる。

「ありがとうございます。……わぁ、おいしそう!いただきまーす!」

今日の朝ご飯は、甘いハニートースト。

「おいし☆……やばっ、時間」

「あら?まだ平気じゃない?」

カリカリと頭を掻きながら、トーストを頬張る。

「いや〜……ちょっと委員長から呼び出しが……宿題のノート提出し忘れてて……」

あらあら、と藤真のお母さんがクスクス笑う。……笑い方が藤真とそっくりだとは思った。

「いってらっしゃい」

「はい!いってきます!」

すぅ、と大きく息を吸い込んで、は歩き出した。





「…………好きなんだ。もしよかったら、付き合ってくれないか?」

「……は?」

イキナリ言われたその言葉には目を丸くする。

目の前にいるのは、クラス委員長。もちろん同じクラスだ。

てっきり宿題のノートを早く出せ、との呼び出しだったかと思ったのに。

自分の下駄箱に入っていた手紙は『体育館裏で』と一言書いてあっただけだった。

まさか、リンチか!?なんていう馬鹿な考えを頭に浮かべながら行った所に委員長。次に言われたこの言葉。

の思考回路がショートしかける。

(は?委員長が?私を?えっ!?)

「えぇぇぇぇ!?」

「いや、。絶叫しなくても……」

「あっ、ゴメン……」

委員長(頭のいい人)らしく、冷静にツッコミ(?)が入った。

沈黙―――。

「で?……には、その……好きなヤツとかいるのか?」

ピク、と肩が震えた。けど、はすぐに笑顔を作る。

「……ちょっと考えさせてくれるかな?」

は、小さく笑って答えた。

「あぁ……別に返事は急がないから。……それじゃ」

すーっと消えるように去っていく。

その姿が視界から消えたとき。

は、へたりとその場に座り込んだ。

(ど、どうしよう……か、考えるったって……)

心に浮かぶのは一人のヒト。

でも、妹としか見られていない。

けど、忘れられない。

この先他人と付き合うかもしれない。

それでも諦めきれない気持ち。

一生懸命な委員長の気持ちにこたえたい。

けど、心の中にはあのヒトだけ。

優柔不断だと思う。

好きなヒトは決まっているのに、気を持たせるような言い方をしたとも思う。

だけど。

スッパリと断れるほど。

私の心は強くなかった。





「……〜?どうしたの?」

「……うん」

「さっきから、ずっとボーッとしてるよ?」

「……うん」

「だから、あ、危ないっ!」

「……うん」

、前っ!」

「……うん……いだっ!」

ゴンッと盛大な音がする。

続いて、ドスッという音。

前の音は、が額を柱にぶつけた音。

後の方の音は、が尻餅をついた音。

「いた〜ぁいよぉ〜……」

ぷっくりと額が一部分だけ膨らんでいる。

「わ、、タンコブ出来てる……」

「痛いよぉ〜……お尻も痛いよぉ〜……足もひねったよぉ〜……」

あまりの痛さにボロボロと涙をこぼす。

なんだ、なんだ、と人だかりが出来始めた。

「ま、っ!とりあえず保健室行こっ?」

「た、立てないよぉ〜……」

ふぇぇぇ〜、と更に涙がこぼれた。

……」「っ!!」

二つの声がした。

一つ目はおそらく委員長。

二つ目は……藤真。

スッとのわきの下に手が入った。

藤真の手、だ。

抱きかかえられる。

?どこが痛いんだ?」

優しい声に、の涙がさらに溢れた。

「……足とオデコ〜……」

よしよし、と頭をなでながら、保健室に向かって歩き出す藤真。

それを見ながら野次馬は散っていった。

その時だ、が目が合ったのは。

委員長が、ふっと諦めのまなざしを見せた。

は、ゴメンナサイ、と頭を下げて謝った。





「……他にもう痛いところ、ないか?」

「ん、ない。どうもサンキュです」

「いえいえ、どういたしまして……全く、ビビッたよ。が頭押さえて泣いてるし。余所見でもしてて、ぶつけたんだろ」

「そのとおりです……スミマセン……」

「ったく……おっと」

藤真がデコピンをしようとしたが、タンコブが出来ていたのを思い出して、すぐに取りやめた。

「顔に傷でも作ったら、嫁にもらってやらないぞ?」

「別に、どこに嫁に行こうが、勝手で……?ん?……もらって、やらない?」

「なんだ、頭打って言葉も理解できなくなったのか?」

少し意地の悪い笑み。デコピンの代わりに軽いキス。

「……ということで、告られたやつは、丁重に断っておけよ?」

「き、聞いて……!!!」

「うるさいぞ。黙らせてやる」

保健室から、声が消えた。





後日。

さんは、ちゃんと断ったそうです。

理由は。

『彼氏がいるので』

だそうです。

ちなみに。

彼女が断っている最中、木の陰から彼女を見守る姿があったそーな。





あとがきもどきのキャラ対談



藤真「……俺のに告るなんて、言語道断だ」

銀月「そーですねー……」

藤真「なんかお前、俺の時ってやる気なくないか?」

銀月「べーつーにーぃ?疲れたなんて、一言も言ってないし?」

藤真「……言ってるぞ。ほら、こんなヤツ放っておいて、映画見に行こうぜ、映画」

銀月「……えっ!?私も行きたい!」

藤真「邪魔すんなvv」

銀月「(すこし後退して)感想、苦情などくださると嬉しいです☆(蒼白)」