「……寒い……」

「だぁ〜〜〜!わかったよ!予約してなかった俺が悪いんだよ!」





reservation






白い息を大きく吐いた。

全く、なんで私がこんな寒い思いしなきゃならんのさ?

それもこれも……

ちらり……と缶コーヒーを買いに出ている幼なじみの顔を思い浮かべる。

……あいつのせいだ……。

いっつも肝心なところがどこか抜けてるんだから……。

これで私より年上だなんて……

顔がぽんっと頭に浮かぶ。

「…………思われるよなぁ。老けてるし……あ、赤木先輩の方が老けてるかな……」

「何ブツブツ言ってんだよ」

冷えたほっぺたに温かい感触……がだんだん熱くなってくる。

「……っ……あづっ!!」

「おっと、わりぃ」

いつものニヤニヤ顔。

ちょっとむかついたので、ムニーっと思いっきり顔を横にひっぱってみた。

「……プッ……」

小さく私の口から漏れた笑い声に敏感に反応する。

「んだよ!せっかくコーヒー買ってきてやったのに!」

「……そもそもこんな寒空でコーヒー飲むはめになったのはどこの誰のせいですか?……ヒント、6文字で名字がみで、名前がひ。っていうか、ぶっちゃけ三井寿さん?」

「……悪かったよ」

「あれ?珍しく素直だね」

「素直じゃわりーかよ」

「いいえぇ?別に?」

少し冷めたコーヒーを一気に喉に流し込んだ。

ほっと息を吐けば白いもやが目の前に広がる。

寒そうに私が手をすりあわせると、寿が、と呼んで手をつかんだ。

「……とりあえず、メシ食うか」

「食いますか」

左手だけあったかくなって、私は嬉しくなった。





今日は寿と食事に行くと前々から決めてたんだ。

マックとか吉牛とかじゃなくって、ちゃんとしたお店。

もちろん学生だから割り勘ってことでね。……ちゃんとバイトまでしてお金ためてたんだ。

お店選びは全部寿にまかせてあった。

……ま、全部まかせた私が悪かったんだけど……

つまりは、寿がそのお店の予約をし忘れたって訳です。

店は要予約のお店。予約がない人は入れない。

その結果、寒い空の下で缶コーヒーをすする羽目となったわけです。





「ダメだ……どこもやってねぇ……」

「もう10時過ぎちゃったしねぇ……」

私たちは歩きながら話し合った。

目に入るレストランというレストランを覗いてみたけど……もうラストオーダーが終わったか、とてもとても入れるような店ではない店ばかりだった。

「寒いね……どうしようかぁ……」

「そうだな……っと……あれ、レストランじゃねぇか?」

寿が指差す方を目をこらして見つめる。

「……わかんないんだけど、どこ?」

「だからあれだって」

言われるけど、全然わかんない。

「……寿、レストランに行きたくて幻覚でも見てるんじゃ……」

「んなわけあるか!ほらっ、OPENってかいてあるって!」

『OPEN』といわれて、初めて気がついた。

なるほど、小さなドアに『OPEN』と書かれた木のプレートがかかっている。

よくよく見れば、店の外にメニューもでてるみたいだ。

「……ここにするか?」

「うん。可愛いし、ここにしよう!」

私は寒さに勝てなかった。





「寿、私、シチューのパイ包み焼きにするvvすっごいおいしそうvv」

「おぅ。……んじゃ、俺は……ハヤシオムライスにする」

「……何気に子供っぽいの好きだよね……」

「あ?」

「なんでもないで〜す」

軽く寿をかわしてから、店の中を見回す。

可愛い、レストランだ。

なによりも、寒い外とは違って暖かかった。

しばらく可愛い店内に見とれる。

「はぁ〜……もう11時近くだよ……帰り、どうすんのさ?」

「あぁ?んなもん、食い終わってから考えりゃいいんだろ」

「……そーデスネ……あ」

「おまたせしました。シチューのパイ包み焼きとハヤシオムライスです」

ホワン、と温かい湯気が立ち上る。

微かな小麦粉の香ばしい匂いと、ハヤシオムライスのデミグラスソースのいい香りがした。

忘れていた食欲を思い出す。

「「……いただきます」」

息ピッタリで私たちは挨拶をし、食べ始めた。

「……うわぁ〜……」

サクッと音を立てて包んであるパイにフォークを入れると、湯気と共に、シチューのいい香りが鼻を探った。

すぐさまフォークをスプーンに持ち替えてシチューを1口すする。

「おいし〜〜……」

「そいつはよかった」

寿がハヤシオムのソースを口につけながら笑った。

「……プッ」

「……なんだよ」

「寿、ソースついてるよ」

あぁ?と少し顔を赤くしながらソースをふき取ろうとするけど、全然見当違いの方向。

「ここだってば」

そういって、ナプキンでぬぐってあげた。

おう、と顔を真っ赤にしながら笑ってくれた。

私が料理を食べ終えた頃。

突然寿が鞄を探り出した。

「……なに?もしかしてお財布忘れたの?別に、余裕あるから平気だよ?」

「んなわけあるか、馬鹿。……おっと……あったあった」

すっと差し出されたのは小さな小箱。

「?……開けていい?」

「あぁ」

真っ赤になって今度はそっぽを向いた寿を見て、私は小箱をあけた。

まぶしく光る、シルバーリング。

「……寿……これ……」

「だ―――!!!予約だよ、予約!お前の将来、俺に予約させろ!」

真っ赤になってガリガリ頭をかいた。

「……今日はな、それのせいで店の予約忘れた。……悪かったな」

「……もーいーよ。……こんなのもらってそんなこと、考えてられないよ……ありがとう」

そうか、と寿はにっこり笑った。

私も最上級の笑顔で答えた。



私たちはまた寒い空の下に出た。

寒いけど、左手だけは暖かい。

私の左手の薬指には、夜でも輝くシルバーリングが光っていた。







あとがきもどきのキャラ対談



三井「………恥ずい……」

銀月「甘々だねぇ〜……書いてるこっちが恥ずかしいよ……」

三井「……なら書くなよ」

銀月「だって、あなたが私の腕に勝手に乗り移ったんでしょうが」

三井「俺はなぁ……」

銀月「ハイハイ。さんとラブラブしたかったんだよね……」

三井「……今気付いたんだけど、俺、の名前呼んでないよな」

銀月「……あ」

三井「あ。じゃねぇ!!いい加減にしろ、てめぇ!」

銀月「……それじゃ、またぁ〜!(逃)」