「〜、早く道場来な、稽古する約束だったろ?」
「わー、新八さん、待って待って!このたくあん食べたら行くから!」
「早くしろよ〜。左之なんて多分、もう待ってるぜ?」
「ちょ、待って……んぐ…………はぁ……よし、行きます!」
走り出そうとしたところで、総司君がいいなぁ、と呟く。
「あ、ずるいなぁ……僕も一緒にお稽古つけてあげますよ」
「う、うん……でも、総司君厳しいからなぁ」
「そうですか?じゃ、僕、部屋戻って、道具取ってきますね」
そ、総司君のお稽古は厳しいのよ〜……本当に、休む間がないんだから(汗)
強くなる為に
「はぁっ……たぁっ…………」
カン、カン、カン、と木がぶつかる音が響く。
ここ数週間でずいぶん聞きなれたものだ。
事件のときにした、近藤さんとの約束は、全てが終わった翌日から始まった。
道場に入れてもらい、みんなから道具を借りて、なんとか木刀で打ち合い出来る程度にはなった。
暇があれば、みんなが稽古をつけてくれるので、1日のほとんどの時間は稽古になった。
潰れたマメも、もう数え切れなくなった。
すごく痛いんだけど……剣術、というものの面白さを知り始めた私には、小さな障害。
最初のうちは、ただ木刀振ってるだけで、面白くもなんともなかったんだけど、打ち合いを始めたら途端に面白くなってしまった。
1対1の張り詰めた空気。心地よい緊張感。相手の小さな隙を見つけ、そこに打ち込めたときの喜び。
さすがに、近藤さんたちには勝てないけど、門下生の人たちには、ちらほら勝てるようになってきた。
少しは、向こうの世界で体育をやってきたことが功を奏したかな?
「…………くっ……」
カン、と音が鳴って、私の手から木刀が落ちる。
はっはっはっ……と荒い息の先に、同じく木刀を持った新八さん。
「うし、大分堪えたな。まぁ、俺相手にそこまで耐えれば上々だ」
「すごいですよ、さん!たった数週間でこんなに上手くなるなんて!もうちょっとしたら、きっともっともっと面白くなるんでしょうねぇ〜」
「そ、そうですか?」
「まぁ、確かに教えがいがあるってもんだな。ようよう、今度は槍もやってみっか?」
「槍……かぁ、それも面白そう」
「面白ぇぞ、槍は!な?明日は、槍もやってみようぜ」
「ん、やってみたい〜」
今はまだ、疲れすぎてて立ち上がることも出来ないけどね。
槍かぁ……確か、『初心者には槍を持たせろ』って言うくらいなんでしょ(ゲーム中で鈴花ちゃんが言ってた……よね?)
覚えておいて損はないと思う。
当初の目的は、天然理心流だったんだけど、みんなが色々教えてくれるから、ごちゃまぜ剣法になってきてる。
まぁ、ベースはしっかり近藤さんが教えてくれたから、天然理心流なんだとは思うけど。ところどころで、新八さんや左之さんの真似をしちゃうんだよね。
総司君のは、真似しようと思っても真似できないレベルだし。
「お〜、やってるねぇ。…………まったく、ちゃんが飲み込み早いからって、みんな面白がって教えたがるんだから」
疲れただろ?とつめたいお水を一杯くれる。
くぅ〜……水分が体を浸透していくってこのことね!
「だって近藤さん〜……本当に飲み込み早いんですよ、さん。教えたことをどんどん吸収していってくれる。こんな面白い生徒、いないですよ〜」
「お、おもしろ……?」
「まぁ、確かにな。他の門下生が3日で覚えることを、1日かからないで覚えてくんだもんなぁ」
「や、それは買いかぶりすぎかと……」
「そうでもないぜ?…………うし、ちゃん、ちょっと立って」
私は、よろよろしながら立ち上がる。
ふむ、と近藤さんが口元に手を当てながら考え込んだ。
「?なんですか?」
「…………この身長だと、あまり長くなくて…………やっぱり、力ないから軽くして…………」
ブツブツと何か1人で言ってるので、みんな軽く無視。…………これ、結構いつものこと。
近藤さんがなにか1人で、ブツブツ言い始めたら、みんなろくに相手もしないんだ。
「総司君、ごめん、もう1回、対峙から初太刀までの流れ、見せてもらえる?」
「えぇ、いいですよ」
ニッコリ笑って、総司君が木刀を手に、形を作る。
やっぱり、基本は天然理心流がいい。
教本通りの近藤さんが、今使い物にならないので、仕方が無い。総司君の動きは早すぎて、見えないことも多いんだけど、確認したいんだ。
私は、いつも構えてからの初太刀が遅い。
タイミングを計っているうちに、相手にドンドン打ち込まれてしまうのだ。
どんな風に初太刀を出すのか、『今』確認したい。
ビュッ、と木刀が風を切る音。
ものすごい速さで木刀が動いたかと思うと、すぐにピタリと静止する。
重い木刀を、途中で止めるのはすごく筋力がいる。
でも軽々とそれをやってしまうところは―――やはり剣士だ。
「どうですか?」
「ん、早かったけど、なんとか見えた」
「結構、思い切りが肝心ですよ。さんは、力がないから、やっぱり打ち込まれると受身に回ってしまいますから、なるべくなら先手先手で素早く動くといいですね」
「は〜い」
「ったく……様になってきたなぁ〜……」
「うぉっ!?近藤さん、いつの間に復活したんだよ!?」
近藤さんは、左之さんをさらりと無視して、私に向き直った。
「今日は出稽古で、ちゃんの稽古見れなかったけど、明日はちゃんと見れるから、一緒に稽古しよーなvv」
「あっ、近藤さんずるい!僕も明日は暇ですから、一緒にお稽古しましょうね!」
「それを言うなら、は明日、俺と槍の稽古だぜ!?」
「だー!!!天然理心流だけじゃなくて、神道無念流もどうよ?」
「そういえば、明日はトシや源さんも来るって言ってたなぁ。源さんも、ちゃんに稽古つけたい、って言ってたし、トシはなんだかんだ言って、面倒見がいいからな」
………………どうやら、明日も私は稽古尽くしの1日らしい。
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