ピアス








「……おい」

「なに?」

「……何やってる」

「冥の髪の毛触ってる」

「〜〜〜〜〜〜おい!」

犬飼は、自分の髪の毛(&首)を触っているその手を掴んだ。

「……なに?」

ぷぅ、と頬をふくらませる彼女。

額が見ていた雑誌につくほどに、犬飼はガックリとうなだれた。

「……わかった。……かまって欲しいんだな?」

「ちーがーうーよぉ……冥にいう事があって……」

「?」

「あのさぁ、みんなはいいって言うんだけど、が冥の了承とってからにしなさい、っていうから……」

「なんだ?」

珍しく歯切れの悪いに、雑誌から目をあげる。

「……えぇと……だから、その……」

「何か欲しいものでもあるのか?」

「ん〜……似てるんだけどぉ……う〜ん…」

「……早く言え」

「……言いたくなくなった」

は、更にぷっくりと頬を膨らませて、違う方向を見つめる。

「ならいい」

は、一瞬何かいいたげに口を開きかけたが、再びその口を閉じて、冥の隣に置いてあった雑誌を開き、少し目を通してから立ち上がる。

「……夕飯の材料買ってくる」





「犬飼くん、いる?」

「いや、来てないが?」

突然の珍客に犬飼の目が開かれた。

「おっかしーなぁ……今日、あの子HR出てないのよ……朝、一緒に来たんでしょ?」

「いや、今日は俺の方が早く出てきた」

「…………………………ケンカしたから?」

押し黙った犬飼に、が大きな溜め息をつく。

「大方、が何か言おうとしたのを、止めたりなんかしてケンカになったんでしょ?」

図星なため、何もいえない。

「……から、ピアスのこと聞いた?」

「ピアス?なんのことだ?」

「……その前にケンカになったのね」

ム、と黙る。が、その単語に反応する。

「……ちょっとまて、ピアスって本当になんのことだ?」

「あの子、ピアスあけたいって言ってたのよ。だから、一応犬飼くんの了承とっておきなさい、って言ったんだけど……聞いてないのね」

「……聞いてない」

「……あ〜あ……ヤケになって、開けてなけりゃいいけど」

犬飼の頭に、ヤケになって針で自分の耳に穴をあけるの姿が浮かんだ。

「……ちょっと家まで戻ってくる」

上着をつかんで、教室を走り出た。





犬飼が家に戻ると、ドアには鍵がかかっていなかった。

「……?」

異様に静かな家の中。

またも犬飼の頭にピアスホールをあけて血塗れになって倒れているの姿が目に浮かぶ。

(まさか、耳からの出血だけで死ぬようなことはないと思うが……)

不安になって、リビングをそっと覗くが……誰もいない。それよりも気になるのが、何もかも、今朝自分が来た時と同じだということだ。

テーブルの上に用意しておいた食事はそのままだし、体育の授業があるからと言って用意しておいた体操服もソファの上におかれたまま。

(寝てるのか?)

そっと寝室の扉をあけてみる。

「……?寝てるのか?」

やはり返事は、ない。

カーテンがかかっているので部屋は暗い。

サッ、とカーテンを開けると、ベッドが映し出された。

「……?」

姿は、ない。

どこだ?どこにいる?

制服はハンガーにかかったままだ。

「……?」

十二支高校に私服登校は許されていない。

ダダッと玄関に向かって走る。帰ってきたときはじっくり見なかったのでわからなかったが、よくよく見れば、のスニーカーがない。

気がつけば、犬飼はバンッと扉を開けて外に出ていた。

制服のままで町に向かう。

すでに通勤ラッシュは過ぎていて、人は少ない。

開いている店も少ないというのに、は一体ドコへ行ったのだろう。

開いている店という店を探し回る。

いない。

いない。

―――イナイ!

「…………っく……そぉっ……」

ショーウインドウのガラスをバンッと殴りつけた。周りの人々がビクつくのがうざったい。

ガラスに汗まみれの自分が映る。

(財布も持たないで、何やってんだ、俺……)

顔を上げて情けない自分の顔を見る。

その後ろには―――。

「……!?」

知らないヤツと一緒にいて、笑ってる。

……誰だよ、ソイツ。

俺、そんなヤツ知らないぞ。

の耳に光るのは……ピアス!?

俺に相談しないで―――

ソイツに相談して開けたっていうのか―――?

思わず近くに捨ててあった空き缶を手に取った。

自動車が来ないその一瞬。

犬飼は持っていた空き缶をその男のこめかみめがけて投げつけた。

スカコン!と妙に軽い音がなる。

驚いてこちらを見る2人。ガードレールを飛び越えて走る。クラクションを鳴らす車なんて気にしない。

「……冥!?」

乱れた息を整えて、犬飼は一息で言った。

「コイツは、俺のなんで!」

ポカーンとたたずむ男なんて知ったこっちゃねぇ、犬飼はの手を引いてきた道を戻る。

「わわわわ………冥?」

無視してそのまま歩きつづけて、家の前までやってくる。

荒々しくドアをあけて、家の中にをひっぱりこんだ。

ソファの上にを投げ出すと、その上から無理やり口付ける。

「……んぅ……っ」

うめいた時に開いた口に、強引に舌をからめる。

から銀の雫がたれる。

それを舌でなめとると、犬飼はゆっくりと問いかける。

「……誰なんだ?」

「へ?」

「……アイツはだれかと聞いているんだ」

もう一度強引なキスをする。息継ぎをする間もなく。

「……っ……し、知らないよ!……歩いてたら、声かけられて……」

「……なんでついていったんだ」

「向こうが勝手についてきた……んっ……」

言葉を封じるかのように行われる口付け。

「……馬鹿。……襲われたらどうするつもりだったんだ」

「……んなわけないじゃん。こんな昼間から」

ツーンとそっぽを向いたの顔を、元に戻してもう一度キスをする。

「……あるから言ってる。……俺の寿命を縮めさせるな」

ふ、とは顔をゆがませると

「……ごめんなさい……」

小さな声で呟いた。

犬飼は、大きく息をつくと、手をの耳にかけた。

「……耳は?」

「え?」

「ピアス、あけたんだろ?」

は、プッと吹き出した。

「……馬鹿だなぁ……あけてないよ。……これは、マグネットピアス。冥に許してもらってないのに、あけるわけないじゃん」

犬飼がおそるおそるピアスに手を掛けると、小さな音がして簡単にその装飾品はとれた。

耳にはなんの変化もない。

ホッと息が漏れたのがわかった。

が笑う。

「なに?そんなにあけてほしくなかったの?」

「あたりまえだろ」

ぶすっと犬飼は答えた。

「……するとき、気になってしかたないからな」

が真っ赤になる。慌てて取り繕うように言葉を捜した。

「……え、え〜と……が、学校これから行く?」

「……いや」

ギク、との体が強張った。

「……朝早く起きて眠い」

「お、おつかれ……」

「よし、寝るぞ」

犬飼はの体をベッドに押し倒した―――。





犬飼冥



○月×日欠席。





あとがきもどきのキャラ対談



銀月「わー!初のミスフル小説ぅ〜!これでいい!?美星ちゃん!」

犬飼「……これでいいのか?」

銀月「……う、うるさいな!リクが……!」

犬飼「全然リクどおりじゃねぇだろ。こんなのにつき合わせて悪かったな、

銀月「……最後に押し倒したの、誰ですか〜?」

犬飼「それよりも銀月。スラダンの関係者から早く書けって言う命令が出てるぞ」

銀月「……が、頑張りますぅ……」