私の少ないレパートリー
主婦なんぞしたことない私は
料理は得意でも不得意でもない
でも
愛情がこもってればそれでよし?
「う〜〜〜〜〜ん…………」
現在、私、は大変迷っておりました。
この世界に帰って、早1週間。騒動も一段落して、ゆったりとした1日。
あの約束を守る日には、絶好の1日であります。
「…………うしっ…………シオンさんのところに行って、聞いてみるか!」
思い立ったらすぐ行動。
私は早速立ち上がって、身支度をして家を出た。
帰ってきたその日、私は、召喚獣アシュタルにおいしいものを作って食べさせてあげるという約束をした。
1番危険なときに、アシュタルを呼ばなかった。そのお詫びとして。
「おいしいものを作ってあげるとは言ったけど…………なにを作ればいいのやら」
そういうことで、とりあえず、我が祖国、日本と同じような文化を持つ、シルターンのシオンさんに、聞きに行こう!
久しぶりに見るあかなべは、依然と変わらずのんびりとした雰囲気。
「こんにちは〜」
「おや、さん。帰って来た時以来ですね。今日はお1人ですか?」
イヤンvv麗しのお声がvv←危険思想
「ハイ!」
「それはそれは。………さて、今日はどんな御用でしょう?」
「えっとですねぇ…………実は、シオンさんに聞きたいことと教えて欲しいことがあるんです。…………今、お時間ありますか?」
「大丈夫ですよ。立ち話もなんですから、あがりませんか?」
と、奥の座敷へ勧めてくれた。
わぁお。シオンさんの家だよvv
「い、いいんですか?」
「もちろん。さぁ、どうぞ」
お邪魔しま〜すと一応声をかけて、靴をそろえて座敷へあがる。
シオンさんが、お茶を運んで来てくれた。
「さて、なんでしょう?私に答えられることなら、なんでもお答えしますよ」
「あの……シルターンに、『茶碗蒸し』とかってありますか?」
シオンさんの目が、心持ち大きくなった(カッコイイvv)
「よくご存知ですねぇ…………」
「あと、あと、炊き込みご飯に入れるような具ってありますか?」
「えぇ。筍なんてどうでしょうか?もう季節的にも最後くらいですが…………おいしいのが入ってますよ」
「それから、お味噌って…………」
そこまで言ってから、シオンさんが、クスリと笑った。
「…………お作りになるんですか?」
意図するところがわかってしまったらしい(当たり前)
「はい…………茶碗蒸しと、炊き込みご飯と、お味噌汁………くらいしか、私に作れそうにないので……イヤ、これらも結構危ういんですけど……私が思いつくのって、これくらいしかなくって。シルターンって私の国とすごく似てるんです」
「そうなんですか」
ニッコリ笑ってくださるので、私はどこに目をやったらいいか……今、エスカレーターを上っていくミニスカートの女子高生を見る、親父の気分がわかったわ……(長っ)
「そうですね………それに、もう一品……なにか、冷たいものが欲しいですね」
「あ、じゃあ『わかめ』ってありますか?」
「はい。…………サラダにでもなさいますか?」
「えぇ、それなら簡単ですしvv…………ところで、その…………」
シオンさんは、またも笑って、紙を差し出してくれた。
「私の作り方でよろしければ、お教えいたしますよ」
「あ、ありがとうございます!」
紙を受け取って、シオンさんの言うとおりのレシピを書いていく。
茶碗蒸しのレシピを書いているときに、ふとシオンさんが気づいた。
「…………さん、その文字は…………」
あ、これですか、と呟いて、ピラリと紙を持ち上げる。
「私の国の文字です」
といっても、シルターンの文字と一緒なんだろうケド。
「シルターン文字ですよ、それは。…………本当に、似てるんですね」
「ハイ!……だから、シオンさんの所に来ると、自分の国に帰ったみたいで、なんだかほっとします」
「…………そう言っていただけると、こちらとしてもうれしいです。さ、続きを言いますね」
シオンさんは、とっても優しかった。
丁寧に、注意事項まで言ってくれて、オマケにどの鍋なら上手く出来るか、というところまで教えてくれた。
「じゃあ、すみません。材料を……」
「何人分ですか?」
「えっと…………4人……いや、5人分でお願いします。すごい食べる人たちなんで」
「承知いたしました」
テキパキと材料をそろえてくれるシオンさん。
どこになにがあるのかわかってるので、すばらしく早い。
「こんなもので、大丈夫だと思いますよ」
「あ、ありがとうございます。じゃ、お会計を」
「そうですね…………じゃあ、2000バームで」
ポロリ、と財布を落とした。すんでのところで、シオンさんがキャッチする。
どうぞ、と渡されてからも、しばらく動けなかった。
「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと、シオンさん!これだけの材料で、2000バームってことは…………お米も入ってるし!ちゃ、ちゃんとしたお値段を……!」
「いえいえ。いいんですよ」
「よくないですよ、全然!レシピまで教えていただいたのに…………」
そうですねぇ〜……とシオンさんが笑って。
「それじゃあ、出来た完成品、私にいただけますか?少しでいいので」
「え?そんなんでいいんですか?」
いや、私が行おうとしていたことですし。そんなんでこんなにまけてもらっていいんですか!?
「かまいませんよ。…………それでは、期待して待ってます。それじゃあ、これ、オマケしておきますね」
と、オマケじゃないくらいの量の材料を入れてくれた。
「…………ありがとうございます!頑張りますね!」
ペコリと一礼。
ルンルン気分で私は家へ帰った。
「さって…………まずは、1番手間がかかりそうな茶碗蒸しから行くか………まずは、カツオ節でダシを取って………ふむふむ」
煮立つお湯にカツオ節をたっぷり入れる。
しっかりとしたダシを取って、布巾でこす。
「え〜っと?しっかり冷まして、溶き玉子を加える。…………冷まさないと、玉子が分離する、と…………なるほどねぇ〜………」
こんな調子で、私は次々と料理を作っていった。
元々、そんな大変じゃない料理。結構簡単に出来上がった。
が。
「すんごい量になっちゃったよ…………こりゃ、4人(プラスシオンさんの分)じゃ食べきれないや…………」
目の前にドン、と存在感を示す炊き込みご飯。
とりあえず、それを冷ましておにぎりにして、茶碗蒸し、わかめサラダと一緒に、お盆にのせる。
カノンは出かけたのか、家にいない。
しっかりドアに鍵をかけて、シオンさんのところへ向かった。
「おや、早いですね」
「シオンさんのレシピがあったんで、意外と早く出来ましたvv……それで、一応、これ……」
「ありがとうございます。……いただいてよろしいですか?」
「も、もちろんです!」
おにぎりを手に取ると、パクリ、と口に入れた。
それをじっと私は見つめる。
「………………すごくおいしいですよ」
「ほ、本当ですか!?よかったぁ〜……それじゃ、これ……あの、食器とかはまた、取りに来るんで!」
「はい。ご馳走様です」
「こちらこそ、ありがとうございました!」
軽い足取りで、あかなべを出る。
かなりの自信がついた。
喜んでもらえるといいなぁ♪
さて。ようやく帰ってきたのはいいんですが。
もう、夜も更けてきたというのに、2人ともお戻りにならないというのは、どういうことでしょう!?
「う〜…………カノン〜……バノッサぁ〜……なんでこーゆー日に限って遅いのさぁ……もう、アシュタル呼んで食べちゃうぞ」
そう呟いた瞬間、ガチャ、とドアが開いた。
「さん?今、帰りました。すみません。おなかすいてますよね。今すぐ……って、あれ?」
「カノン!お帰り!!」
「え?ご飯の用意が……あれ?」
「えと…………私が、作りました…………話せば長いんだけど……」
と、これまでの経緯……アシュタルとの約束から、シオンさんのことまで事細かにしゃべった。といいながらも、その間は、カノンと2人でご飯をよそったりと、動いていたが。
「そうなんですか…………それじゃ、心していただかないと!……アシュタルさんは、もうお呼びしてるんですか?」
「あ、まだ……そろそろ呼ぼうか。…………え〜っと…………あの……アシュタルさん、来てください」
ブゥン、と音がして、アシュタルがやってくる。
「なんだ、今日はずいぶん謙虚な呼び出しだな」
「失礼な!………それで、あのぅ…………一応、料理なんぞしてみたんで、食べてみてください」
アシュタルが、不思議そうに机の上に並べられたご飯を見た。
「これを?お前が?」
「あっ、すっごい今、疑ったでしょ!?ちゃんと、私1人で作ったんだからね!?」
「…………疑ってなどいない。ただ、あまりの豪華さに驚いただけだ」
素直にそう言われると、こちらとしても、返す言葉がなくて困る(汗)
「にしても、バノッサさん、帰ってきませんねぇ〜…………」
「先に食べちゃおうっか。あの美白夜遊び帝王のことだもん。いつ帰ってくるかわからないから」
「…………………………誰が、美白夜遊び帝王だ、誰が」
背後の気配。
そろぉりと笑顔のまま、振り返る。
同じく笑顔―――だが、あまりに邪悪な笑顔を浮かべた、美白帝王様と目が合ってしまった。
「んなこと言うのは、この口か!?あぁ!?」
「あぁ〜〜〜!!!ひっぱりゃにゃいふぇ〜〜!!!」
むにーっとひっぱられた。痛い!痛いから!!!
バノッサはバチンと手を離して(またこれも痛い)、机の上の食事を眺める。
「…………オマエが作ったにしては、たいしたもんじゃねェか」
「が、頑張ったもんね」
頬をさすりながら、私はバノッサの分のご飯を並べる。
「…………じゃぁ、アシュタル、これで許してくださいってことで、かんぱ〜い」
「んだ、そのやる気のねェ言葉は」
バノッサの言葉は無視して、私はお茶を飲んだ。
そして、早速茶碗蒸しに手を伸ばす。
一足先に茶碗蒸しを食べていたカノンが、ニッコリ笑った。
「おいしいです!すっごく!!」
ぱくりと自分でも食べて、おいしく出来たのを再確認←すでにたくさん味見済み。
「良かったぁ〜…………」
「旨いな…………」
もぐもぐとアシュタルが筍の炊き込みご飯をほおばる。
バノッサは無言でお味噌汁を飲んでいた。
「………………………」
何も言わないところを見ると、おいしい、ってことかな。
なんにしても、文句を言わずに食べてくれて嬉しい。
安心して、私は筍ご飯に手をつけた。
そのとたん。
「おい、居候。メシ」
「へ?」
差し出された、空のお茶碗。
差し出し主は…………もちろん、美白帝王様。
「メシ」
おかわりってことですか?
私がお茶碗を受け取ると同時に、茶碗蒸しを食べ始める。
私ははぁ、とため息をついた。
立って、ご飯を盛って、戻ってくる。
精一杯の笑顔で、皮肉を込めつつ言い放つ。
「お待たせしました!」
バノッサの目の前にどん、と置いて、また食べ始める。
と。
「。俺も」
…………………アシュタル、お前もか!!
私、まだご飯一口も食べてないんですけど!?
もう、と唸って、私は、アシュタルのお茶碗に、山盛りのご飯をのせて戻ってきた。
カノンはちゃんと自分で立っておかわりに行ってくれたよ?いい子だから。
でも、バノッサとアシュタルのために、私は一体何回テーブルとキッチンを往復したか。
あれだけあったはずのご飯は、すっからかんだった。
「、旨かったぞ」
「…………そりはどーも………あれだけあったご飯が…………」
「また、今度呼んでくれ。いくらでも来る」
「……………………もう、アシュタル、いっそずっとこっちにいたら?全然違和感ないよ?」
アシュタルは、私の顔をマジマジと見た。
…………な、なんだよ。そんなに見ないでよ。
そして、フッと笑った。
「それも、悪くないな。考えておこう」
「…………って、えぇぇぇぇ!?」
「じゃあな。さっさと帰せ」
「あ、うん。バイバイ」
シュウンと送還されていくアシュタル。
呆然と見送っていたら、肩を叩かれた。
「おい、居候」
「…………バノッサ」
「…………たまには悪くねェ。また、作れ」
「って、命令形ですか」
それでも、彼にしては最高のほめ言葉だと思うので、素直に受け取っておきましょう。
って、あれ?そういえば……。
「そう言えば、帰ってきたとき、すぐにご飯作ったの私だってわかったよね。なんで?」
「…………さぁな。テメェはもう寝ろ」
「え、あ。ちょっと!」
「なんなら、一緒に寝てやってもいいぜ?」
「え、遠慮します!(汗)じゃ、オヤスミ!!」
慌てて部屋に入った私。ドアの向こうから、バノッサのクックックと笑う声が聞こえてきた。
………………なんだか、上手くごまかされたなぁ……。
「なんで知ってたかって?…………あの食えねェ忍者野郎に、言われたんだよ」
『さっさと帰らないと、さんの手料理が食べれなくなりますよ?』
………………んなこと言われたら、早く帰らなきゃならねェじゃねェか。