My Special




―――アメリカ ケネディ国際空港―――



「……っはぁ〜……やっと着いたぁ〜……」

回ってくる荷物を待ちながら、改めて思う。

は、自分よりも大きい人たちに目をやった。

『〜〜〜〜……〜〜〜』

自分にはわけのわからない言語を発している。

手荷物となっている小さなリュックを抱きしめた。

布越しに、パスポートが入っていることを確認。

ついでに財布も入っていることを確認する。

まぁ、財布と言っても、空港での換金はレートが悪いので、中に入っているのは日本円だが。

「……あ」

自分の荷物がやってきたのを見つけると、は頭1つ高い人の波をかきわけて、よいしょ、と荷物をとる。

もう一度人の波をかきわけて、広い場所に出る。

そして、出口を捜す。

目に入ってきたのは、明らかに日本語ではない文字の数々。

クラッと来るが、なんとか足を開いて踏ん張る。

大学でもバスケをやっている、体力はあるが、頭の方は……並である。

日本語は大好きだが、それ以外となると…………ちんぷんかんぷんだ。

プルプル、と頭を振って雑念を取り払う。

そして。

颯爽とリュックから英会話の本(成田空港で購入)を取り出して歩く。

向かう先は……

とりあえずインフォメーションだ。





流川に会うためにここまできた。

ただそれだけのために。





の彼氏だった流川が渡米したのは、高校卒業時。

日本のエースとして名をあげ、そのスケールの大きさと身体能力の高さで、日本バスケを有名にしたそのときだった。

『アメリカに行って、自分の力を試す』

公の記者会見の後、不安げに見守るを抱きしめ、彼は呟いた。

『いつか絶対迎えに行ってやる』

待ちつづけるのは性に合わない。

かといって別れる気もさらさらない。

でも、会いたい。

けれど、邪魔をしたくない。

話せなくてもいい。

見るだけでいい。

そう思って。

は、来た。





出口で白人の若い男に話し掛けられた。

様デスか?」

「あ、はい」

ほっとした顔で頷く男。

は、あぁ、と呟いた。

「もしかして、ガイドさんですか?」

「そうデス。Andrew……アンディと呼んでください。今日は、来るはずだったガイドが来れなくなって、僕が替わりに来まシタ」

「今日はお願いします」

にっこり笑うと、えくぼができた。

「ハイ。それでは行きまショウ。バスが来てマス。お荷物はこれだけデスか?」

「あ、はい……って、私だけですか?」

「今はこの世の中デスから……じゃあ、まずホテルに向かいまショウ。ホテルまでは30分ほどデス」

先導されて、向かった先には小さなバス。

運転手はをみると、にかっと白い歯を見せて笑った。

「Hi!Welcome」

「は、Hi!」

適当に答えを述べてみる。

は片頬をひきつらせながら笑った。

「……様は今回、フリーということデスが……」

「あ、はい。ちょっと個人的に行きたいところがあるので、フリーにさせてもらったんです。……あの、この大学ってどこだか知ってますか?」

「……えぇと……ここ……デスか?……私……の大学デスが……」

あまりの事に、思考回路が停止。

「……え?」

「大学に何か用でショウか?……あ、もしかして、バスケの流川さんデスか?」

「……あ、ハイ!そうです。そうなんです!」

「少し前にも、日本人の女の子達がいらっしゃってましタヨ」

「そうなんですか……」

ちょっと沈んだに、慌てて取り繕うように話し掛けるアンディ。

「あ、でも流川さん、そのときいなかったみたいで……そうだ!様はいつ大学にいかれるんですか?」

「え?……明日にでも行こうと思っていたんですけど……」

「そうデスか!それでは、よろしければ、僕が案内しまショウか?」

願ってもいない申し出だった。

大学の場所も知らないし、大学構内のことに関しては、なんにも知らない同然だった。

英語もわからないから、どうやって体育館の場所を聞き出そうか迷っていたのだ。

「本当ですか?」

「ハイ。あ……もちろん、よろしければですが…」

「お、お願いします!良かった〜……どうすればいいかなぁ、と思ってて……あの……アンディさんは何年ですか?」

「僕は、大学1年デス!流川さんとも同級生で……時々デスが、同じ授業を受ける事もありマス」

「へぇ〜……楓、ちゃんと授業受けてます?寝てばっかりじゃぁ……」

「えぇ、寝てマス。彼は寝ることがhobbyのようデスね」

hobbyとは、趣味のことだとぼんやり思っていると、アンディがおずおずと聞いてきた。

「……あの……随分と流川さんのことに詳しいようですが……」

さすがに、自分で『彼女』だというのは恥ずかしい。

「えっ……いや、同じ高校のクラスだったし……私もバスケットをやっていたから……」

「あ、そうなんデスか……そうデスよね。彼は、彼女がいるみたいデスから」

その彼女が自分です、とは言えずに、は笑いながら聞いた。

「へぇ〜……どうしてそう思って?」

「……彼は、女の子を近づけないデスから」

「……それに、恐くてあまり近づけない?」

「みたいデス……どうして?」

「日本でも同じでしたから。……アンディさんからみて、彼はどうですか?」

え?という顔をして、アンディは目をパチパチさせた。

「……えっと……彼はどういう風に映りますか?」

「そうデスね……憧れ……マスね……彼は、強い。他の人に左右されない」

「……マイペースだから……」

わが道を爆進しているであろう、彼の姿が用意に想像できる。

「英語とかって喋れてますか?」

「喋ってマスよ。上手くなりましたよ……」

「へぇ〜……あ、話変わりますけど、アンディさんはどうして日本語を?」

「ハイ!僕、日本大好きデス!高校生の時にホームステイしたんデス。みんな、優しくて……日本語も、そのときに勉強しまシタ」

話していると、あっという間だった。

ホテルは綺麗で、大きかった。

どこにいけばいいのかわからないでいると、アンディがこっちです、と手招きをしている。

アンディのところへ行くと、やっぱりにはわからない言語でしゃべっていた。

「……OK.Thank you.……あ、様」

「……ねぇ、そろそろ、その『様』って言うのやめません?なんか……変」

「……そう……デスね」

「敬語もナシ」

「じゃぁ……」

でいいですよ。こっちじゃ、そうでしょう?」

「ハイ。……じゃあ、僕のこともアンディで」

「ラジャー!!」

ふっとアンディが笑った。

「……それでは、また、明日。今日は、時差ぼけが酷いと思いマスから、ゆっくりと休んで。明日、朝の8:00に迎えに来ます」

「うん。ありがとう!」

分かれて、部屋へ行くと、すぐには泥のように眠った。





翌日 8:00―――。

眠っていたい、と悲鳴をあげる体をズルズルとロビーへ運ぶ。

、Good-Morning!」

「ぐ、ぐっもーにん……アンディ……」

「眠そうだね……」

「最悪的に、眠いッス……でも、いつまでも寝てられないし!……行こうか」

「ハイ。……大学までは、ここから車で15分くらいかな」

「は〜い……車、持ってるの?」

「ハイ!去年とりました!」

「へぇ……ありがとーvv学校って車OKなの?」

「今日は、休みだから……あ、段差、気をつけて」

「ん。……休みなんだぁ……バスケ、やってるかなぁ」

アンディはふっと笑う。キーを差し込みながら、言った。

「No problem.バスケサークルはなくても、彼はやっているハズ」

「……だね。あいつってば、バスケにかける時間だけは惜しまないから」

流川に会える。

それだけで頭がいっぱいになった。





大学につくと。

こっち、と歩くアンディの後ろへ着いていった。

向かう先には大きなドーム型の建物。

体育館なのだとわかったとたん、歓声が聞こえてきた。

「……あれ?」

「GAMEかなぁ……?」

ぽそりと呟いたアンディの言葉を聞き漏らさず、は体育館内から聞こえる歓声に負けない歓声をあげた。

「やったーっっっ!!!アンディ、行こう!」

「わ、ちょ、ちょっとま……」

バコン、と体育館の扉を開けると。

男たちに呼び止められた。

「Please ticket」(チケット出して)

「……は?」

「ticket」

「ち、チケット?」

アンディがすっと前に出てきた。

「Sorry.We don't buy tickets.Do you sell the tickets?」(すみません、私たち、チケット買ってないんです。チケット、売ってますか?)
「Yes」

なんとか聞き取れる単語を拾いながら、話の内容を理解しようとする。

と、アンディがお金を払っているのをみて、目を丸くした。

「あ、アンディ!チケット……」

「ハイ。チケット」

「あ、ありがとう……けど、私、まだ換金してないから……後で、なんかおごるね……とにかく、試合見に行っていい?」

「ハイ!」

大きな扉を開けると。

まず入ってきたのは大きな歓声。

そして。

ドカンッ!

狙い済ましたような、ダンク。

目を、奪われた。

スタン、と飛び降りた人影は、見慣れた男。

圧倒されている相手には目もくれずに、何事も無かったかのようにディフェンスにもどっていく。

「―――楓……だ」

最後に会ったときより、少しだけ髪の毛が伸びている。

着ているのは、湘北の赤じゃないけれど。

紛れもない、流川楓だった。

チームメイトをひっぱっていく、攻撃的なプレースタイル。

無口だが、背中をみれば感じずにいられない信頼感。

底が知れない、男。

はストン、と観客席に座り込んだ。

見たかった顔が、そこにある。

こみ上げてくる涙をこらえるのが精一杯だった。

目が追うのは、ただ1人の男。

試合は圧巻だった。

コートで二番目に背の低い日本人が、自分よりも10cmは高いであろう相手の上を越えるのだ。

度肝を抜かれた相手は、ミスを連発。

結局最後までペースはかわらなかった。





試合終了後、続々と会場から出て行く観客の中、は1人、ぼぉっと流川を見ていた。

アンディがぽんっと肩をたたく。

、そろそろ行かない?」

「……うん、もうちょっと」

「彼もそろそろ出て行くみたいだから……」

「うん。……あれ?」

「……あ」

が声を上げて、アンディがそちらを見ると。

流川に近づいていく、金髪の女性。

「……ジュディだ…」

「ジュディ?誰、それ」

すっと近寄ると、タオルを差し出す。

無言で流川はそれを受け取る。

ジュディはにっこり笑うと、頬にキスをした。

ぽつん、とアンディが呟く。

「……彼女ですよ、流川さんの彼女というのは」

「……は?」

なに、馬鹿なことを、と思った。

流川楓の彼女は自分なのだ。

そう言おうとした。

けれども。

喉がはりついて言葉が出てこない。

「大企業の令嬢で、美人で頭もいい……流川さんにピッタリだ」

「……そ、そうだね……」

未だに呆然と見つめることしかできない。

流川の顔が、ふとこちらを向いた。

驚いたように、目を見張る。

その隙に、ジュディが腕を絡めた。

もう―――。

見つめることは出来なかった。





静止を叫ぶアンディの声は耳に入らなかった。

女バスで鍛えられた足に追いつくことができるのは、彼しかいない。

目の前の景色が流れていく。

そして、ぼやけていく。

目の中に入る風が痛いのよりも、心が痛かった。

予想していない、と言えば嘘になる。

遠く離れた日本にいる、バスケ以外にとりえの無い女の子よりも、身近にいて、励ましてくれる女の子のほうがいいのではないか。

いつか―――。

彼は自分を忘れてしまうのではないか。

その『いつか』が来たのだ。

ぼんやりと思った。

は溢れてくる涙を拭いながら、声を上げた。

「……Hi.What do you do?」(なにやってんだい?)

泣いていると、男たちが近寄ってきた。

「……ほっといてよ……」

「What?What do you say?」(なに?なんて言ったんだ?)

「……ほっといてよ〜……」

「Shall we go?」(行かない?)

「なんだよぉ〜……」

男達は、ふぅ、と肩をすくめると、の腕を掴んで立たせた。

「What does it matter?Come with me!」(かまわないよな?一緒に来いよ!)

「え……ちょ、ちょ、ちょっと……!」

「Hey」

男達が肩をたたかれた方へ振り向いた。逆光でよく見えない。

「Sorry.She is mine.…You see.Get away!」(悪いな。こいつは俺のだ。……わかったろ……失せろ)

「What?What do you say?」(なに言ってんだ)

「Get away quickly!」(さっさと失せろ!)

ぐっとつまって、男達は舌打ちをして去っていった。

男達が立ち去ってぼぉぜんと見つめる。

「……大丈夫か、どあほう」

「……だ、大丈夫だもん……全然」

ぷいっとはあらぬ方向を見た。

ム、と流川が顔をしかめる。

「……こっち見ろ」

ぐいっとこちらを向かせるように顔を両手で掴む。

「……な、なにすんだよぉ〜……!全然……大丈夫だもん……」

「……泣いてんじゃねぇか……」

「んなっ……ち、違うもん!」

「んじゃ、その目から流れ出る液体はなんだ」

少し思案。

「……よ、よだれ……?」

ほぉ、と流川は頷く。

「オメーは目からよだれを流すのか。流すんだな?」

うっと詰まる。

はぁ〜……と流川は溜め息をついた。

「……もういい。どーせジュディのことかなんかで泣いてんだろ?」

「……なんかじゃないもん!なんだよ、迎えにくるとかいっときながら、金髪美人のボインねーちゃんと仲良くしちゃってさ!……馬鹿みたいじゃん、高い旅費払って来たのに!」

「……まったくだ……」

「んなっ!ひどっ!もーいいっ!帰る!」

振り切って帰ろうとした腕をつかまれる。

「違うっ。……迎えにいってやろーと思ってたんだ」

泣きじゃくるを、ふわっと抱きしめて、弾んだ息を深呼吸で整えた。

「……来てくれて、サンキュ。すげー嬉しい」

「……もう……なんにもいえないじゃないか……馬鹿ぁ〜……」

「Kaede」

いつの間にか、ジュディとアンディが来ていた。

「I see.This girl is your special,isn't she?」(わかったわ。この子があなたの『特別』。そうよね?)

「―――Yes.She is my special.And he is your special,isn't he?」(あぁ、こいつが俺の『特別』……そして、あいつがお前の『特別』……違うか?)
ジュディは満足そうにアンディの首に腕を絡めた。

「……I love you,Andrew.Thank you」(愛してるわ、アンドリュー。ありがとう)

「No problem.I did it for his sake」(問題ないよ。僕は彼のためにやったんだからね)

にこっとジュディは微笑んだ。

それと同時に、流川はしてやられた、という苦い表情をする。

「……You protted it,didn't you?」(仕組んだろ、お前)

「Yes.Did you forget?……I'm a giant company's daughter.I can heard many things.For example,Japanese basketball player's story,One girl's a trip・・・and so on」(えぇ。忘れたの?私は大企業の娘よ。色々なことを聞けるの。……例えば、日本人バスケットボールプレイヤーの話とか、1人の女の子の旅行のこととか……色々ね)
「……このやろう……」

「What?」

「……Nothing.……Anyway…Thank you.……行くぞ」(なんでもない……とにかく、ありがとう)

「えっ?えっ?……あ、アンディ?ジュディさん?……えっと……Good-Bye!」

「Good-Bye!I wish you a lot of happiness!」

「え、なになに?なんていったの?」

「……お幸せに……」

「は?なんで?ジュディさん、楓のことが好きじゃなかったの?」

1人だけわかっていない、の顔を見て、はぁ〜……と溜め息をつく。

「いいか?……アンディとジュディは付き合ってる。それで、な・ぜ・か、ジュディはオメーが俺の彼女だってことをしっていて、旅行する事も知っていた。それで、旅行会社を買収かなんかして、アンディをガイドにしたんだろ……巧妙に仕組まれた罠だよ」

「……はぁ?なにそれ?私がここに来なきゃ、成立しないじゃん」

「……怪しい奴にアメリカ旅行、誘われたりしなかったか?」

「怪しい奴……?」

しばし前のことを思い浮かべる。

「そーいえば、仙道さんに、そろそろアメリカいってやんなよ、とは言われたけど……」

「……それだ……後で、文句言ってやる」

「え?」

呆けた顔のを、改めて見て。

流川はふっと笑った。

「……サンキュ、来てくれて」

「?……楓が笑うの見るの、久しぶり……楓見るの久しぶりだから、当たり前だけど……」

「そーいえば……俺、お前が笑ってるの見てない」

「はい?」

「笑え」

「笑えと申されましても……」

「笑え」

有無を言わさない口調に、はぁ、と溜め息。

精一杯の心をこめて。

「……大好きだよ、楓!」

笑っての告白。

すぐに真っ赤になってぷいっと横を向く。

「はいっ、終わり!じゃ、私、ホテルに帰るから!アンディとジュディさんによろしく……って……なに、この腕は」

「……もう1回」

「はい?」

「もう1回、今のやってくれ」

「い、いやだよ!こっぱずかしい!」

「すんげー可愛かった……」

「んな……っ」

更に真っ赤になって、口をぱくぱくさせる。

「俺、もう帰るから待ってろ……ホテル、チェックアウトして、俺んトコ来い」

「はぁ?」

「わかったな?」



「えぇぇ?」

あまりの展開の速さについていけない。

の肯定の返事を聞かずに、さっさと流川は着替えのためにもどっていく。

「……Thanks my special.I'll do my best for you」(ありがとう、俺の『特別』。俺はお前のために頑張るよ)

ぽそりと呟いた言葉は、に届くことなく風に消えた。







あとがきもどきのキャラ対談



流川「……おい」

銀月「……ハイ?」

流川「……横文字苦手だからって、にまで英語できなくさせなくてもいーだろ」

銀月「だって、苦手なんだもん!これだって辞書もちながら、必死だったさ!ただ、君に英語でナンパやろーを撃退してほしくて……」

流川「……Get away……」

銀月「あっ、ひどっ!(> <)」

流川「(無視)、遠いとこまできてくれて……サンキュな……オメーのために、日本語訳も白で書いといた。気になったらマウスでドラッグしてみてくれ」