「オハヨウ」 あまりにも自然に言われたから、昨日のことは夢だったんだと思った。 兄妹物語4 目覚めて一番に紳一の顔を見るのは、久しぶりだ。 部屋に入ってきて、様子を見に来てくれたらしい。 「具合は、どうだ?」 「うん、大分いい。やっぱり、映画行けばよかった」 「薬飲んだからだろ。まだ赤いぞ。体温計、見つけておいたから、計っとけ」 もぞもぞと体を動かして、わきの下に体温計を入れる。 「お母さんは?」 「帰ってないみたいだ。また、急患でも来たんだろう」 そう呟いて、薬をガサガサと漁る。 「う〜ん……これ、同時に飲んでいいものなのか……?」 「平気だよ、きっと」 「軽く言うな、お前……風邪薬とスポーツドリンク一緒に飲んで、ひどくした人もいるんだぞ?」 「げ……それは知らなかった」 怖いなぁ……1番やりそうな組み合わせじゃないか。 ピピピッ、と電子音が鳴る。 体温計を取り出してみてみる。 「……………………」 何も言わずにしまおうとした私の手から、紳一は体温計をすばやく奪った。 「………………38度3分。今日は部屋から出るのも禁止だな」 「なにそれ。オーボーだぁ!」 「朝からこんな熱だったら、夜には39度超えるぞ!?いいから、寝てろ!俺、学校行ってくるから」 「え〜〜〜!?電話とか鳴ったらどーすんのさぁ」 「出なくていい。…………いや、俺からだったら出ろ」 「?………なにそれ。じゃあ、紳一、携帯に電話してよね。そしたら出るから」 「わかった。おとなしくしてろよ?」 「は〜いはいはい。んじゃね〜。いってらっさい」 ドアが閉められた。 ………………。 普通だ。あまりにも普通だ。 …………やっぱり、昨日のことは夢だったのかしら。 それならそれで、全然かまわないんだけどさ。 私は、おとなしく眠ることにした。 昨日と同じように、のどの渇きを覚えて、私は目覚めた。 もう、3時過ぎだ。 携帯を持って、リビングへ降りる。 そこで、空腹を思い出す。 なにか、消化のいいものはないかと、冷蔵庫を開けた。 冷蔵庫の段に張ってある張り紙。 『なんにもないから、とりあえずりんごでも食べてろ。俺が帰りに何か買ってくるから』 「…………ぷっ……お見通しなのか、全部」 ラップにつつまれたりんごをとりだして、シャリシャリと食べる。 手のひらがどうしようもなく熱くなって、水道の水で冷やした。 (あ〜……気持ちいい……) 椅子を持ってきて、座りながら手を冷やす。 いきなり、着メロが鳴った。 「………はい」 『?起きてるか?』 「うん」 『……やっぱり、な……水が流れる音がする。ちゃんと部屋で寝てろって言っただろう?』 「おなかへっちゃって。……紳一、プリン買ってきて」 『プリン?…………まぁ、いいが』 「やったぁ!じゃ、よろしく〜…………わ、わ、わぁっ」 立っただけなのに、立ちくらみ。 よろけて、椅子を蹴っ飛ばしながら、倒れた。 『!?おい!?』 大丈夫だよ、紳一。 ちょっと、立ちくらみがしただけ。 そういおうと、電話を探したけれど。 意識が闇に飲み込まれてしまった。 「……い…………おい、!」 「ん……?あれ、紳一」 二回も目が覚めた直後に紳一の顔が見られるなんて、なんてラッキー。 でも、その紳一の顔がいつになく険しくて。 自分の置かれている状況に気づいた。 …………台所で、紳一に抱きかかえられてます(汗) 「えーっと………私、あれから倒れたんだっけ?」 「…………!倒れたんだっけ、じゃないだろ!このバカ!どれだけ……!心配したと思ってるんだ!」 激しい物言いに、ビクッと身をすくませる。 私には、滅多に怒鳴らない紳一。 「…………昨日、だって……言いたいことだけいいやがって……!俺が、どれだけ普通に振舞うように努めてたかなんて、わかってもないんだろ!?」 夢じゃ、なかったのか…………。 「ごめん、なさい…………」 心配かけたことも。 迷惑かけたことも。 気持ちを伝えてしまったことも。 全部全部、ごめんなさい。 「ごめんで、すめば……警察はいらん!」 「もっともで…………んっ」 一瞬―――なにが起こったのか、わからなかった。 自分の唇にかぶさっているのが、紳一の唇だと理解するのに、5秒はかかった。 ぬるりとした感触が、口内に広がって。 「…………!!お兄ちゃん!」 ばっ、と顔を離せば、苦笑いの紳一の顔。 「…………こんなときにだけ、『お兄ちゃん』……か」 なにが起こったの、今。 今。 ―――ワタシタチハキスヲシテイタ? 「お前が、俺を男としてみてるのは、知ってたよ…………だが、それ以前に」 その後に続く言葉を聴くのは。 嬉しいようで 怖い。 「…………俺は、お前が好きだったんだ…………」 すっと目が細くなっている。 「……きだ」 「え?」 「……好きだ……好きだ……好きだ、好きなんだよ!お前が!…………実の、妹のお前が、好きなんだ…………女として!」 言い放って、唇をまた重ねる。 角度を変えて、進入してきた舌。 突然のことに、パニックになった私の舌を絡めとって、唾液を吸われる。 風邪のせいだけじゃなく、体に力が入らなくなった私は、完全に紳一に体重を預けていた。 それでも、びくともしない、男の体。 「んっ…………ふっ………んぁっ………!」 息をする間もなく、唇を重ねていて。 私は少しのインターバルで、なんとか酸素を取り込もうと、必死だった。 やげて、ゆっくりと離される。 「…………そんな、声、出すな……煽られるだろ……?」 横を向かされて、耳たぶを噛まれ。 首筋に顔をうずめられる。 後ろのほうから、前へと温かいものが滑っていって。 あまりの刺激に、紳一を突き飛ばした。 「…………!はぁっ…………はぁ…………お、兄ちゃん……?」 パニックに陥ったときに出てくるのは、やはり昔からの呼び名で。 泣きそう。 お兄ちゃん―――紳一は、困ったような顔をして。 「………………悪い……」 とだけ呟いた。 なんだか、いつもの自信満々な紳一の姿はなくって。 そこには1人の、男の人、がいた。 「紳一…………?」 「…………ずっと、前から……好きだったんだ。……わかってるよ……禁忌なんだってこと……異常なんだってこと……でも、好きなんだ……!」 そう言って、私を引き寄せると、もう一度キスをした。 「…………嬉しかった、が言ってくれて」 「……ホント、に?」 「嘘でこんなことができるか」 口内に入る、生温かい感触。 歯列をなぞられ、舌を絡められる。 「…………一緒に、堕ちよう―――」 紳一の言葉に、私は抱きつくことで答えた。 あとがきもどきのキャラ対談 銀月「ふぅ、一段落ついた。牧さんが別人人間だし」 牧「……別人には、人間、という意味も含まれてると思うが?」 銀月「だって、この話のしょっぱなでさんが、ロボコップって言ってるじゃん」 牧「じゃんとか言うな。可愛くないぞ」 銀月「すーみませんねぇ〜…」 牧「だらだらしゃべるな」 銀月「これで一応連載終わったし、のんびりできるんだもん……ミスフルもそろそろ終わりそうだし」 牧「……一応?」 銀月「ギクリ。……一応、ね?」 牧「……気長に待っててくれ、……」 |